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45.接触 -夜- ①

 気が付けば、窓から見上げる空には星が瞬いていた。まだ日の長い季節、知らぬ間に随分時間が経っていたようだ。

 城へ招集された貴族の子息息女達は各々の馬車で帰路についた。

 最後に議場を後にしたエリックも伯爵家の馬車へ乗る。腰を下ろすと同時に深い溜息が漏れた。

(父上に今日の報告と、あと―――例の確認もしなければ・・・)

 石畳の下り坂を走る馬車の音は、静かな夜の城下街によく響いた。



「やあ、お帰り」

 エリックが伯爵家に到着すると、玄関ホールに並ぶ使用人達に混じって隣国の親友が笑顔で立っていた。

「・・・・・・・・・」

 呆然と立ちすくむエリックにアーサーは我慢出来ずに噴き出した。

「ぶっ、くくっ、その反応が見たかったんだよ!」

 エリックは『酷いヤツだ』と笑いながら、久しぶりの親友との再会を心から喜び抱き合った。

「エリック、お帰りなさい」

 呼ばれ、顔を向けるとダイニングの方向から伯爵夫人が歩いてきた。

「ただいま戻りました、母上」

 訊くと、既に夕食を終え、エリックを待ちながら就寝前に皆でグラスを傾けていたという。そのダイニングテーブルにエリックの遅めの夕食が運ばれてきた。食事を摂りながら思い出話に花が咲き、話題は突然の訪問理由へと変わっていった。

 アーサーは、自身がハドリー王国に仕事で訪れた事、そして伯爵邸に到着するまでを簡単に説明した。勿論、ソフィーが追われていた事は伏せて、だ。

「迷子だって!?それは・・・姉上に助けてもらって良かったな・・ぷっ」

 そう言いながら笑いを堪えるエリックを見て、アーサーは申し訳なく思った。親友に全てを打ち明けられない後ろめたさに耐えられず、わざと目を逸らしグラスに手を掛ける。

 一方でエリックは、帰宅してから姉の姿が見えない事に懸念を抱き落ち着かなかった。

 王太子殿下が関係しているのかいないのか・・・・

「―――姉上は?」

 エリックの質問に、ニコル伯爵夫妻とアーサーは一瞬表情を強張らせた。無言で互いに顔を見合わせ軽く頷くと、伯爵が口を開いた。

「日中、カミーユ様と出掛けた事はエリックも知っているだろう?疲れが出たようだったから早々に休ませた」

「そうでしたか・・・」

 エリックは、王太子殿下から再び求婚があったのか姉に確認出来ない事に内心、安堵し、

「・・・・」

 伯爵夫妻は、王太子殿下からソフィーへ求婚があった事を、カミーユへ親しみを抱き始めているエリックへ伝える事が出来ず、

「・・・・」

 アーサーは、昼間の中心街でソフィーが追われていた事を言い出せず、俯いた。


「あ、父上」

 エリックの声に伯爵は思わず大きく反応した。

「な、何だ?」

「明日から暫く王城に泊まり込みになります」

 エリックの言葉に伯爵は招集の理由を思い出した。

「もしや・・・国賓対応か?」

「!!」

 アーサーのヘーゼルの瞳が見開かれる。

「はい。第二王子殿下と今回のまとめ役を担う事になりました」

 伯爵は息を呑んだ。

「そういう訳で、アーサー、折角来てくれたのに案内してやる事が出来ない。すまない」

 目の前で謝罪するエリックの姿に、アーサーの胸が痛んだ。エリックは加えて、明日以降の準備があるからと急いで食事を済ませダイニングルームから出て行った。



 エリックが出て行った扉を見つめるアーサーに、伯爵は状況を説明した。

「つまり、二日後にはエリックが全てを知ってしまうという事ですね」

 伯爵夫妻が謝罪をと頭を下げる前にアーサーが止めた。

 ハドリー王国へ訪問の親書を送った時期とエリックが今回選出された時期から推察するに、ハドリー王国側が役員の選定中に何かに気付いたのは間違いないだろう。

「・・・・少し、エリックと話してきます」

 アーサーは手にしたグラスを飲み干した。


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