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42.接触③

 フット公爵家の御者が伯爵家の侍女に預けた、手土産の高級菓子は、お茶と共にトレイの上へ載せられた。

「お嬢様、よろしくお願いいたします」

「ええ、ありがとう」

 侍女が用意したトレイを手に、ソフィーは邸奥の商談室へと向かった。

 重要な商談時には使用人達の入室を禁止し、必要な時はソフィーが動く事になっている。

 今、商談室にはニコル伯爵とアーサーの二人。応接間を使用しない辺り、やはり仕事関連かとソフィーは思った。

(―――あら?)

 商談室の扉の前に男の使用人が立っていた。後ろ姿から、使用人頭で執事の―――


「ヴィクター」


 ソフィーの声に、ヴィクターと呼ばれた男は肩を一瞬竦ませ、慌てて振り向いた。

「お嬢様・・・」

「どうしたの?」

「旦那様へ馬車の準備が出来た旨をお伝えしたかったのですが、商談室をご使用中でしたので少し考えておりました」

「わかったわ。私が伝えます」

 ヴィクターはソフィーへ一礼すると、その場を去って行った。


ガチャ


 ふいに商談室の扉が内側から開かれた。

「ああ、話し声はソフィーだったか」

「お父様!ちょうどお声を掛けようと思っておりました」

 扉が開き助かった、と言わんばかりにソフィーは両手で持っていたトレイでアピールしてみせた。


 室内へ入ると、アーサーがソファに腰を掛けていた。お茶とお菓子を目の前に出すと、眩しそうにソフィーを見つめ微笑んだ。

「ソフィー嬢、ありがとうございます」

 アーサーの優しい口調にソフィーも微笑み返す。

 彼と向かい合う位置に、もう一つのお茶とお菓子を置いた。正面のソファに伯爵が腰を掛けた所でソフィーは先程の要件を伝えた。

「ヴィクターが、馬車の準備が出来たと申していました」

「・・・・そうか。お茶を飲んだら玄関へ行くと伝えてくれ」

「わかりました」


バタン。


「ご息女に給仕をさせているのですか?」

「随分前に商談中のお茶を頼んで以来、自発的に動いてくれます。何かに気付いたのでしょう。賢い娘です」

「そのようですね。(客人)の前で職名(執事)でなく、名前を(ヴィクターと)出すほどですから」

 アーサーは口角を上げながら上着の内ポケットから封筒を取り出し、テーブルの上へ置いた。

「確認してください」

 同時に目で促され、伯爵は封筒に入っていた紙の束を広げた。

「・・・・」

 目を通すと封筒へ入れ直し、自身の上着の内ポケットへ仕舞った。

「感謝します―――アーサー殿下」



 リビングではソフィーと伯爵夫人がアーサーの持参した高級菓子に舌鼓を打っていた。

「まぁ、美味しいわ!」

 目を輝かせ喜ぶ母に、フット公爵家行きつけのお店なのだと伝えると、その表情は硬くなっていった。

「ソフィー、その事なのだけど―――」


コツコツコツ


 廊下に響く靴音が商談室から出てきた二人のものだと気付き、ソフィーと夫人は玄関ホールへと足早に向かった。

「それでは馬車をお借りします」

「ああ。夕食はエリックを交えて摂ろう」

「驚く顔が目に浮かびます」

 アーサーはソフィーの姿を見つけて微笑むと、伯爵家の馬車で出掛けて行った。

 ニコル伯爵の説明では、ウィンバリー王国から数名で訪れているという。宿泊先へ荷物を取りに戻ったそうだ。

(当家に滞在されるのは公爵様おひとりなのかしら?後でお母様に指示を貰いましょう―――)


「ソフィー」


 リビングへ戻る所を、夫人に呼び止められた。

「今から商談室へ来なさい」

(・・・・)

 母が商談室を使用する事は珍しい。その理由が大事なのだと安易にわかった。



 商談室で向かい合うソフィーと夫人の無言状態はどのくらい続いただろうか。静かな空間にノックが響いた。


ガチャ


「待たせたな」

 そう言いながら入ってきた伯爵の手には見た事のない装飾の箱があった。

 夫人の隣へ座り、テーブルの中央へ箱を置く。

(・・・・凄いわ・・・)

 見事な装飾にソフィーが目を奪われていると、伯爵が口を開いた。

「先程、王太子殿下が当家へいらしていた理由は、お前にこの箱を渡したかったからだ」

(・・・・)

 ソフィーが顔をゆっくり上げると、伯爵の真剣な眼差しがこちらを向いていた。

「お前と王太子殿下の間には何かあるのだろうと薄々気付いている。―――箱の中を、私達にも見せてくれないか?」


(―――――)


 伯爵の言葉に、ソフィーの時が止まった。


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