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35.招集②

コンコンコン


「グランヴィルです。入ります」

 ノックと同時に王太子殿下の執務室へ入る第二王子の後ろ姿を、エリックは呆然と見ていたが、自分の後ろにいた男の侍従に促され恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。

「これはグランヴィル殿下、どうなさいました?」

 男の従者が一人、入口横に設置された机で書類の仕分け作業を行っていた。

 第二王子は王太子殿下の執務机へ目線を向けながら男の従者に問う。

「兄上は?」

「本日は西側へ視察の予定になっています。明け方に出発されたと申し送り事項にありました」

 その返答に第二王子は目を細めた。

「―――すぐに外出記録を調べてくれ」

「は、はい!」

 急な指示に執務室にいた従者は驚いていたが、慌てて確認へと向かった。

「エリック、君は暫くここで待っていてくれ」

 そう告げると、自身の侍従を連れ執務室を出て行った。



 グランヴィル自ら兄の予定の確認へ向かう途中、後ろに付く侍従の視線に語りかけた。

「君の見立て通り十中八九、エリック()はウィンバリーの王族と繋がってる」

「はい、その様でした。―――しかしグランヴィル殿下、今、早急に王太子殿下へ謁見の必要性が分からないのですが・・・」

 グランヴィルは暫し無言の後、ポツリと呟く。


「―――カミーユの後任に、と思っている」


「カミーユ様ですか?」

 カミーユの名が出た事に見当がつかず、侍従は歩きながら首を傾げた。

 オーツー公爵家のパーティー以降、兄に目立った動きはない。

 ニコル伯爵邸へ向かう事もなく、カミーユとソフィーの婚約もそのままだ。

(もうすぐカミーユは解放される・・・)

 そして兄の側も離れる事になるだろう、とグランヴィルは思っている。

 幼馴染みで、親友で、もう一人の兄のような存在―――幸せになって欲しいと心から願っている。その為の協力を惜しむ事はない。それは同時に実の兄を裏切る結果になるのでは・・・という葛藤も抱えていた。

(エリック、兄上の味方になってくれ)



 王太子殿下の執務室に置いて行かれてから、かなりの時間が経過していた。

 広い部屋にエリック一人、やるせない気持ちに溜息が漏れた。

 ふと、入口横の机で王太子殿下の従者が仕分けていた書類に目が留まった。黒い重厚な表紙が開かれ、中に挟まれた用紙が晒されていた。そのファイルの作りから相当重要な内容だと分かり、見ないようにと思いつつも視界に入った文字にエリックは目が離せなくなった。


“セリーヌ・バーグマン―――”


 先日招待されたオーツー公爵邸でのガーデンパーティーの主役だ。書類には他にも貴族令嬢の名が数十名並び、名前の上から線が引かれていた。

 エリックはある事に気付く。


(・・・過去の婚約者名簿?)


 しかし姉の名前がない。

 名簿の下から探してみる。5つ目にセリーヌ・バーグマン、上へと視線を移していくが―――。


(ない・・・)


 オーツー公爵邸での出来事を思い出した。


(まさか本当に姉上との婚約は継続中という事なのか?)


 視線を更に上へと移し、一番上に記された名前にエリックは目を見開いた。


「カレン・ワイアット・・・」


 思わず声に出たその名に線は引かれず、チェックが入れられていた。

 もっとよく見ようと手を伸ばすと、綴じられた用紙に二枚目があると気付く。

(・・・・)

 指先が紙の端に触


ガチャ


「エリック、待たせたね」


 間一髪のところで手を収め、何事もなかったように第二王子へと身体を向けた。

「兄は確かに西の復旧した橋の視察へ向かったようだ。次の機会に紹介するよ」

 第二王子はそう言いながら王太子殿下の行動に、腑に落ちないと言いたげな表情を見せた。


「殿下」

 第二王子の侍従が耳打ちをした。聞いた内容に、執務室の従者へ作業の再開を指示すると、エリックを連れ廊下を歩き出した。

「別室で他の留学経験者達が接遇について説明を受けている。今から合流するが―――エリック、君が中心になって進めて欲しい」


(え・・・)


 更なる大役に思考が追い付かない。しかし返答は考えるまでもない。


「畏まりました」


 そう口にしながら、頭の隅には“カレン・ワイアット”の名がちらついた。


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