34.招集①
【国賓接遇に関する招集について】
ウィンバリー王国からの公式訪問を国賓とし、接遇は両国の関係の修好を目的とする。
ついては、友好親善関係の増進を図る事を務めとする。
尚、この招集についての辞退、変更等の申し立ては出来ないものとする。
豪奢な扉の応接間へと通されたエリックは、高級な張地のソファに腰を沈め伯爵家に届いた書状を読み返していた。
(・・・・・)
顔を上げ、高級家具が並ぶ広い部屋をぐるりと見渡し、一人なのだと確認する。
(何故、僕だけ・・・)
城門をくぐった馬車は何台もあった。城内に入る時には十数名はいたと思われる同じ書状を手にした貴族の子息息女達。
(個別なのか?)
コンコンコン
ノックにエリックはソファから腰を上げた。
応接間の扉を開けたのは城の案内人だった。その後ろから目を惹く男が侍従を引き連れ入室した。
男の風貌に、先日王都のオーツー公爵邸で行われた婚姻パーティーを思い出す。
(似ている・・・)
その男は柔らかく微笑むと口を開いた。
「ソフィー嬢は元気かい?」
姉の名を出され、エリックは慌てて頭を下げた。
(第二王子殿下だ!!)
「今回の件を取りまとめている、グランヴィル・カーロス・ハドリーだ」
「ニコル伯爵家長男、エリック・ニコルです」
頭を深く下げたまま微かに声を震わせるエリックに、第二王子は笑顔でソファへ座るよう促した。
「さて、ウィンバリー王国からの公式訪問まで猶予がないから端的に言うよ」
その顔から笑みが消え、正面から自分を見据える目に、エリックは固唾を呑んだ。
「君に国賓の対応を任せる」
エリックの顔色が一気に青くなった。只の伯爵家の子息に?動揺するエリックに第二王子は続けた。
「ウィンバリー王国からは第二王子と妹の第一王女が訪問予定だ」
エリックが困惑の表情を見せる。
(国王ではない・・?)
「今回の訪問はウィンバリー王国の要望で急遽決定した。―――訳あって過去20年間、ウィンバリー王国とは互いに王族の公式訪問はなかった。今後の国交も含め、二人を国賓として迎える事にした」
耳にした事のない、両国の20年間にエリックは俯き回顧する。
(20年だって!?3年前にウィンバリーへ行った時はそんな事、微塵も感じなかった・・・!)
「つかぬ事を訊くが―――」
第二王子の声に慌てて顔を上げた。
「どういった経緯でウィンバリーへの留学を決めたんだい?」
その問いに、エリックは自分達が招集された意図を推論する。
20年振りの公式訪問というこの好機に、隣国への留学経験を持つ若い貴族達に何を求めるのか。仮に20年間王族同士の親交が完全に途絶えていたとすれば、今回の接遇で間違いなく両国の関係性が変わる。
(そんな重要な役割を留学経験の有無だけで任せるのか?だとしても―――)
エリックの本当の気掛かりは別にあった。
『何故、自分なのか?』
留学とは言い難い短期間の滞在。大役を任せられるほどの結果も残していない。
(・・・様子を見てみるか)
無謀な考えだった。
「母の旧友からの招待です」
第二王子は“何か”に気付き、エリックを見つめた。
「へえ・・・」
腹の探り合いが始まる。
「“招待”と言うからに、ご友人はウィンバリー出身なのかな?」
「詳しくは存じ上げませんが、ウィンバリーにいらっしゃいます」
「面識は?」
「二度、レストランでご家族と一緒に食事を」
「そうか」
暫し無言の後、第二王子はエリックへ微笑んだ。
「うん、やはり君がいい。任せるよ」
「えぇ!?」
急に話を戻され、エリックは戸惑いを隠せなかった。その姿を横目に、第二王子はわざとらしく今思い付いたかのように手を叩いた。
「そうだ!兄にも紹介しないと!」
「え・・・」
(それって王太子殿下・・・?)
オーツー公爵邸での出来事がエリックの脳裏をよぎる。暗くなっていくその表情を余所に、第二王子はエリックへ再び微笑んだ。
「さあ、行こうか!」




