31.婚姻パーティー②
お聞きになられて?フット公爵家のご令息のお話。
ええ、耳にしましてよ。何でも幼少から王宮に住まわれていたとか。
政務に携わせているそうだ。
確固たる地位を望むか。何と卑しい・・・。
オーツー公爵邸の玄関前に、最後に到着したフット公爵家の馬車が止まった。御者がステップを置き扉を開ける。先にカミーユが馬車から降りると、ソフィーの手を取りエスコートした。
会場となっているオーツー公爵家自慢の庭園へと向かう途中、カミーユは刺すような視線を感じて邸二階のバルコニーを見上げた。
「カミーユ?」
「何でもないよ。さ、行こう」
「フット公爵家、カミーユ・フット様のご到着です」
案内人の声に、賑やかだった庭園は静まり返り、全ての視線が入口へと向けられた。
カミーユのその容姿に貴賓の誰もがある事を思い浮かべる。
『身代わりの側近』
憐れんだ目で眺めるだけで誰一人としてカミーユに近づこうとしない。ざわつく会場で一人の男性の感嘆の声が響いた。
「ソフィー嬢だ・・・」
カミーユの腕に手を回し、凛と佇む女性がソフィー・ニコル伯爵令嬢とわかるや否や、あっという間に二人は貴族達に囲まれた。
「君の親友は凄いね、セリーヌ」
「ふふ。はい、ルーカス様」
バルコニーから庭園を見下ろしていた二人は言葉を交わし、微笑みながらも、初めて見るカミーユのその容姿に驚いていた。
「混乱が起きなければいいが・・・」
ルーカスはそう呟き二人を見つめていた。
質問攻めに愛想笑いをするカミーユとソフィーだったが、社交界で浮いた存在のソフィーと秘匿とされてきたカミーユにとって、お互いがこの上なく強い味方だと感じていた。
その数歩離れた所で別の貴族達に囲まれていたエリックは、その光景を目にし、『カミーユ』が『カミーユ』でなくとも良いのでは、と思い始めていた。
ふと、ある貴族の子息が口を開いた。
「カミーユ様、ソフィー嬢とはどういったご関係ですか?まさか・・・」
その口ぶりに、この子息はニコル伯爵家へ縁談を申し入れ、断られたのだろうと推察出来た。
そこへ、ある貴族の夫人が口を開いた。
「そうねぇ・・・王太子殿下の『噂』の側近と、王太子殿下に婚約破棄された伯爵令嬢のご関係かしら?」
(!!!)
会場が一気にざわつき出した。
(一体どこまで知られているの・・・!!)
カミーユの腕に回していたソフィーの手に力が入る。その手にカミーユがそっと右手を乗せた。
「姉上・・・っ」
夫人の後ろにいたエリックは姉を助けたかったが、この状況下、自身が声を上げる身分ではない事をわかっていた。
一方、バルコニーから様子を見ていたルーカス達も異変に気付く。
「まずいな・・・」
ハドリー王国の三大公爵家―――北のオーツー公爵家、南のフット公爵家、そして西のペンドリー公爵家。中でもペンドリー公爵家の歴史は古く、その存在は王家に最も近い大公に並ぶほどと言われている。
二人が対峙する夫人は、そのペンドリー公爵夫人だった。
広げた扇で表情は伺えないが、明らかにカミーユへの牽制だ。僅かに覗く瞳は、序列を乱すな、と語っているようにも取れた。が、カミーユは微動だにしない。
「ああ、もう・・・っ」
見兼ねたルーカスは庭園へ降りようとしたが、一足先にバルコニーから階段を駆け下りる人物がいた。
「ちょっと待っ・・・あーもう!セリーヌ、おいで!」
「はい、ルーカス様!」
ルーカスはセリーヌの手を取り、その人物を追い掛けた。




