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29.国賓

「ウィリアムを呼べ」


 帰城するなりウィリアムは国王陛下の執務室へと呼ばれた。

「最近のお前の行動は目に余るものがある」

 王城での私的な行い、オーツー公爵領への突然の視察、職務放棄―――公務を滞りなくこなせば不問になるという事はない。

「報告によると全てソフィー・ニコル伯爵令嬢絡みだそうだな」

 ソフィーの名を出され、ウィリアムが反論する。

「彼女が私の探していた令嬢です!」

「自ら婚約を破棄しておいてか?」

「それは・・・!」

 言葉に詰まる息子へ、非常にも終わりを告げる。


「王太子妃は私が決める」


 ウィリアムの目の前が一瞬で真っ暗になった。

「お待ちください、父上!!私を信じて王太子妃選びを一任してくれたのではないのですか!!」

「お前では埒が明かないと言っているんだ!!」

 激情に駆られ発せられた国王の言葉は、逆にウィリアムを冷静にさせた。

「彼女でないならハドリーの名など」


バシッ!!


 国王陛下はウィリアムの頬を叩き、続く言葉を断った。

 ウィリアムは無言で踵を返すと、そのまま執務室から出て行った。

「ウィリアム!ウィ・・・!」


バタン。


 国王陛下は閉められた扉を見つめ、廊下で待機する侍従へ指示を出す。

「グランヴィルを呼べ」



「お呼びですか、陛下」

 グランヴィルは入室すると、ソファへ掛けるよう目で合図された。

「お前の婚約についてだが―――」

「今その話ですか。よもや、お忘れではないですか?陛下から仰せつかった国賓の対応で仕事が山積みなのです。失礼します」

 父と息子の会話はものの3分で済んだ。


「兄上が戻ったか・・・」

 国王陛下との面会で婚約の話題が挙がるのは決まって兄が呼ばれた後だ。正直、そこそこの淑女ならどの令嬢でも良いと思うほど、グランヴィルは自身の伴侶に無関心だった。まずは兄とソフィー・ニコル伯爵令嬢との関係を揺るぎないものにしてからだ。もし自分が先に婚約者を決めれば王宮で新たな派閥が生まれ、王位継承権の争いが起こる。そして何処かで身代わりが選出される・・・。

 全てがグランヴィルの望まないものだった。

「・・・何故ソフィー嬢に関してだけポンコツなのだ、兄上はっ」

 グランヴィルは廊下を歩きながら唇をかみしめた。



グランヴィル(あやつ)の参謀としての素質は抜きん出ているな」

 兄弟が去った扉を見て国王陛下は深く溜息をつくと、侍従に『報告書』を持ってこさせた。

 一枚ずつ捲り、確認していく。

 そこには過去11年間にウィリアムと婚約した令嬢達の名前と『その後』が記載されていた。

「・・・上手い事やりおる」

 婚約破棄した全ての令嬢は既に嫁ぎ終えていた。その一覧は長期戦を見据え、国王陛下が動くと見越して先手を打ったかのように見えた。

 一人の令嬢を除いて―――。

「―――ふむ」

 更に一枚捲り、隈なく目を通した。ソファの肘掛けを数回、指で叩き考える。

「宰相を呼べ」



「グ、グランヴィル殿下!・・・どちらへ?」

 グランヴィルの後ろを歩いていた侍従が、執務室を通り過ぎるのを慌てて呼び止めた。

「兄上のところだ。陛下が私に婚約の打診をしてきたという事は、先に兄上が呼ばれているはずだ。城下から戻ってきたのだろう?執務放棄に文句を言いに行」

「殿下!!」

 侍従は不躾に主の言葉を遮った。

「殿下。夏が終わればすぐに東の隣国であるウィンバリー王国から、第二王子と妹君の第一王女がお越しになられます。我が国との確執に於いてそれなりの成果が求められるのです」

「―――わかってるよ」

 ハドリー王国とウィンバリー王国の間には表立って触れる事が出来ない黒い歴史があった。

「来る理由が薬学の研究だってね。―――ふざけた事を言ってくれる」

「殿下!!」

 侍従は慌てて辺りを見回す。何処に内通者が潜んでいるかわからない。

 ウィンバリー王国からの国賓の対応にグランヴィルが抜擢されたのは感情を表に出さない性格から、相手にこちらの意図を読まれないようにするためでもあった。しかしここ最近のグランヴィルの起伏はウィリアムに並ぶ。

 侍従は一息つくと、グランヴィルを何とか執務室へ入室させた。扉を閉め、透かさず一冊のファイルを目の前に広げるとグランヴィルはピクリと反応した。

「殿下から指示を受けていました、件の名簿です」

 裏の歴史を知る王侯貴族であれば、まず行く事はないだろう、ウィンバリー王国への留学。相手国の現状を知る貴重な手段の一つだ。名簿には、かの国の王族と留学中に接触があったと思しき名が連なっていた。グランヴィルは食い入るように見ていく。

「結構いるね。君はどう見る?」

 平静を取り戻した主を見て侍従は胸をなでおろした。

「はい。こちらの子息が適任かと思います」

「理由は?」

「半年と、短期ではありますが、留学先は第二王子と同じ学院でクラスも同じ、休日も会うなど、かなり親しかったようです」

 記載された子息の名に既視感を覚え、グランヴィルは少し考えた。

「殿下、名簿の者達には既に登城の書状を送っています。直接会われて判断されても良いかと・・・」

「そうだね」

 侍従が広げていた名簿を手に取ると、グランヴィルは執務机へと向かった。


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