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27.王太子と公爵令息①

 ウィリアムがハドリー王国の北側から戻った翌日の早朝、王都にあるニコル伯爵家へフット公爵家から先触れが届いた。

 同時刻、王城では側近の姿が見えない事にウィリアムは落ち着かない様子だった。


「カミーユの姿を朝から見掛けないのだが?」

 北側の視察という表向きの不在中にカミーユから提出された稟議書に目を通しながら、執務室で書棚の整理をしている従者に問う。

「休暇の申請が出ていました」

「休み?聞いてないぞ」

「申し訳ありません。今回ばかりは・・・カミーユ様は大事な用事がありまして・・・」

(大事な用事・・・)


「婚約者様の家へ挨拶に行くと―――」


「!!!」

(やられた・・・っ!!)


 ウィリアムは勢いよく立ち上がると扉へと駆ける。

「王太子殿下!?」

「私も休みだ!!皆に伝えておけ!!」

 廊下へ出ると透かさず声を張り上げた。

「城下へすぐ出る!!馬を用意しろ!!」

 身なりを隠す外套を羽織ると、門に用意された馬へ跨った。

「はっ!」

 ウィリアムが踵で強く馬の腹を蹴ると、馬は大きく嘶き衛兵達の前から勢いよく駆けて行った。

「何事だ!!」

 騒ぎを聞きつけたグランヴィルが衛兵に詰め寄る。

「グランヴィル殿下!・・あの、実は・・」

 どもる衛兵が門の外へと視線を向けた。グランヴィルはその先へ振り向くと、一頭の馬が視界から消えた。

「・・・兄上か・・っ、カミーユは!側近はどうした!?」

 グランヴィルの問い掛けに、ウィリアムの従者の一人が恐る恐る報告する。

「カミーユ様は休暇中です・・・」

 それを聞き、グランヴィルは馬が走り去った門を見つめるしかなかった。



「大人しくしててくれよ」

 ニコル伯爵邸から程近い広場の一画にある木々の一本に馬の手綱を括り付けると、ウィリアムは外套のフードを被り伯爵邸へと急いだ。考えはない。ただ、ソフィーへの想いが身体を動かした。


 高い柵を辿っていくと、伯爵家の門が見えた。カミーユはまだ到着していないようだ。

 何とかソフィーに会えないものかと柵と植木の隙間から伯爵邸の中を覗いた―――途端、テラスにいた男と目が合ってしまった。

「誰だ!!」

(まずい・・!!)

 ウィリアムは目を逸らすと、身体をひねり、走る体勢をとろうとした。

「待て!!」

 慌てて縺れた足は、あっさり男に追い付かれ、柵の間から伸ばされた手で髪ごとフードを引っ張られた。

「痛ってぇ!!」

「顔を見せろ!!」

 痛さに思わず頭を差し出す姿勢になったところを、男は一気にフードを剥いだ。

(しまった―――)


「―――カミーユ・・・?」


 その名で呼ばれ、ゆっくりと顔を上げると、そこには懐かしい面影の青年がいた。


「・・・エリックか?」


「本当にカミーユ?」


「エリック・・・お前、一体何年探したと思ってるんだ!偽名なんか使っ」


 言いかけ、ウィリアムは我に返る。

(自分こそどうなんだ・・・エリックと再会した今も『カミーユ』として話している自分は・・・!)


「名前の事は本当に悪かったと思ってる。姉上に言い寄ってくる男が多かったんだ」

 エリックは瞳を潤ませ右手を差し出した。ウィリアムも右手を伸ばす。


「言いたい事や聞きたい事は山ほどあるけど・・・あなたで良かった・・・カミーユ」

 

『カミーユ』


 その名に、右手が触れるすんでの所でウィリアムが止まる。

 動かないウィリアムに、エリックはもう一度名を呼んだ。

「カミーユ?」


 ふと、遠くで微かに呼ぶ声がした。


「エリックー?」

(!!この声・・)

「姉上だ」


「エリックー?」

 呼ぶ声が徐々に近づいてくる。


「姉上、ここです!」

 エリックの声にウィリアムの鼓動が大きくなった。


「エリック、もうすぐカミーユが到着するわ」

 ソフィーの言葉に、エリックはニヤニヤしながら柵の外へ視線を向ける。

「カミーユならもうここに―――」

 ウィリアムはその場から素早く立ち去った。

「え?あれ??」

 突然消えた『カミーユ』をエリックが探していると、カラカラと伯爵家へ近づく馬車の音が聞こえてきた。



 フット公爵家の紋章が入った馬車がニコル伯爵家の玄関前で止まり、ニコル伯爵夫妻、ソフィー、エリックが出迎えた。

「エリック、顔がだらしないわよ」

 隣にいた姉につつかれ、エリックは笑いを堪えていた。

「だって姉上、さっきまで裏の通りにいたのに、わざわざ馬車に戻って出直すなんて・・・ぶふっ」

 御者が馬車の扉を開けると、一人の青年が降りてきた。その容姿に、先程まで笑っていたエリックの顔がこわばる。

「ようこそおいで下さいました」

 伯爵夫妻とソフィーが丁寧に挨拶をすると、青年はふわりと微笑み、名乗った。


「フット公爵家長男、カミーユ・フットです」


『カミーユ』が『カミーユ』と名乗り、エリックは只々呆然とした。


「えっと・・・・誰?」


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