23.身代わり公爵令息②
フット公爵家は何代も男児に恵まれず、当代の公爵も婿養子だった。
ウィリアム誕生から二か月後、フット公爵家に待望の嫡男が誕生した。男児はカミーユと名付けられた。
公爵夫人の妹である王妃の息子、ウィリアムと同じ歳のカミーユは遊び相手として王城へ呼ばれる事が多かった。
母親が姉妹のためか、カミーユとウィリアムの風貌は年々酷似して行き、グランヴィルが生まれて一緒に過ごす頃には『三兄弟のようだ』と温かく見守られていた。
面倒見も良く、行く末は宰相かと期待されていたが、15歳の社交デビューを目前にカミーユの周りは一気に不穏な空気に包まれていった。
華やかな王宮の裏で、ウィリアム王子の身代わりになる人間を探していたのだ。
『歴代の王位継承者には身代わりがいた』
過去に国王の崩御を狙った動きは徐々にその標的を王位継承者へと移していった。
国王の警護と違い、次期国王になる身分ではあるが、それだけの理由では護衛に充てられる人員は限られていた。
ハドリー王国では珍しいウィリアムのエメラルドグリーンの瞳。同じ瞳を探す事は困難を極めた。が、カミーユの成長に王宮の人間の目の色が変わった。
『カミーユ・フット公爵子息を、殿下の身代わりに!!』
フット公爵は無言を貫き拒んだが、息子は社交場へ足を踏み入れる事無くウィリアム王子の身代わりに決まった。
「大丈夫だよ。ウィリアムの周りには護衛がたくさんいる。却って安全だ」
カミーユは両親の前で気丈に振る舞って見せた。
(母上のお腹には赤ちゃんがいる。心配させたくない)
カミーユの居住を王宮へ移し終えた頃、フット公爵家に産声が上がった。
生まれたのは双子の女児だった。
愛くるしい妹達の誕生は大々的に発表され、カミーユの存在は秘匿とされるようになった。
王宮での生活に不自由はなかった。ウィリアムと同じ教育を受け、剣術・体術を学び、知識を習得できる環境は寧ろ幸福と言えた。
国王陛下の公務や貴族のお茶会にウィリアムが出席する時は『カミーユ』と名乗り行動をしていた。その間カミーユ本人は王宮内で諜報の訓練を受けた。
身代わりは「ウィリアムが国王に即位するまで」と聞いてはいるが、その後はわからない。
ある日。
「カミーユ。俺はおまえと一緒にこの国を良くして行きたい。すぐに国王になってやる。少しだけ待っててくれ、親友」
その言葉に、ウィリアムが即位した後も彼の側でこの国を見れるのか?いや、見て行きたい。
カミーユは心の底から思った。
「恨んではいないよ。これも王族を支える公爵家の役割だと思ってる。それにウィリアムが即位したら役目も終わる」
「公爵家を継ぐのですか?」
ソフィーの問いにカミーユは微笑んで答えた。それは『はい』でも『いいえ』でもない、曖昧な―――。過去、身代わりになった者の記録は無い。身代わりなど存在していない事になっているからだ。
カミーユ自身、何もわからなかった。
気まずそうに俯いたままのソフィーに、カミーユは笑顔のまま気持ちを伝えた。
「俺はウィリアムの言葉を信じているからね。少し、待つだけだよ」




