22.身代わり公爵令息①
「初めまして、だね」
明るい陽射しが差し込む応接間で、ソフィーに優しく笑いかけるウィリアムによく似たカミーユの瞳は、エメラルドグリーンよりはブルーが強く、髪色もホワイトアッシュに近かった。
彼は扉の前で泣き崩れたソフィーを介抱し、落ち着くのを待ってくれていた。我に返って羞恥に顔伏せようとしたところへ、右側から温かい紅茶を差し出された。
ソファに並んで座る距離感にソフィーは戸惑ったが、それは泣き腫らしたソフィーの顔を正面から見ないようにするための配慮だったと後に気付き、胸の奥が温かくなった。
ローテーブルに並べられた数々のお菓子の中から、カミーユは三段のケーキスタンドのマカロンを取り分けた。
「俺、コレ好きなんだ。美味しいよね」
砕けた口調が少年っぽく聞こえ、ソフィーはクスリと笑った。カミーユはその表情を横目で確認すると、おもむろに立ち上がり、頭を僅かに下げて挨拶をした。
「改めて―――カミーユ・フットです」
「!ソフィー・ニコルです」
慌てて立ち上がろうとするソフィーをカミーユは手で静止させた。
「“カレン”・・・だよね?」
「―――はい・・・」
カミーユは全てを知っていた。
彼はソフィーに、11年前の教会で出会ったのはウィリアムで、偽名を使っていたのは命の危険があったからだと説明した。
「王太子殿下が教会の彼だったのですね」
ソフィーは天井を見上げ、一息ついた。
涙が零れそうだったが何故が心は晴れていた。
(私を・・・探してくれていた・・・っ)
「どうする?まだ俺と婚約してないよ」
背中を押してくれるカミーユの言葉にソフィーは首を横に振った。
「身分が違い過ぎます」
11年前、カサブランカの刺繍が施されたスカーフに、彼は王族だと気付いたが、これほど身分の高い方だとは思わなかった。
「侯爵家以上でなければつり合いません」
ウィリアムへの想いを終わらせようと自ら断言した。事実、歴代の王妃は出自が侯爵以上、もしくは隣国の王女だった。
ソフィーの瞳が再び揺れる。
「じゃあ―――俺にしとく?」
カミーユは言った後に『あっ』と声を発した。元気付けようとして出た言葉だったが、デリカシーが無かったと反省する。
「えっと・・ごめん・・・」
ソフィーの瞳に溜まった涙が零れ落ちたが、彼女は笑っていた。
「ふふっ・・あ、ごめんなさい、カミーユ様の表情が楽しくて」
反省した姿をお気に召したようだ。ソフィーを喜ばせたい一心で、カミーユはもう一度、今度は得意気に軽く求婚してみた。
「俺とか、どうだい?」
隣に座るソフィーに右手を差し出すと、そこへ右手を乗せられてカミーユは息が止まる程驚いた。
「“頭の固い行き遅れ”で良ければ?」
ソフィーは微笑みながら首を僅かに傾けた。
「その二つ名、知ってる!」
二人で声を出して笑い合った。
向き合うように座り直し、カミーユはソフィーへ紅茶を勧めながら自身も喉を潤した。
「俺は君と会うのは二度目だが、社交界での噂は知っていたし、“カレン”の君もウィリアムから聞いて知っている。狡いよな」
「そんな事は・・・」
「だからさ、知りたい事があれば何でも訊いて。というか、疑問に思っている事があるだろう。俺もそれを言わなきゃならない」
(・・・・)
確かにある。
11年前、命の危険があったとはいえ何故ウィリアムはカミーユと名乗ったのか。
由緒あるフット公爵家に生まれながら、カミーユの存在が何故貴族間で話題にならないのか。
考え込むソフィーを目の前に、カミーユは自ら生い立ちを語り始めた。




