21.告白
その日は早朝から晴れ渡っていた。
ニコル伯爵家の馬車が王城へと続く坂道を走る頃には、太陽は頭上から照りつけ、馬の体力を徐々に奪っていくほど暑くなっていた。
大きな城門をくぐり、馬車の窓から遠くに見える出迎えの城仕え達の雰囲気が以前と違う事に気付き、ソフィーは少し困惑した。
ゆっくりと馬が止まり、開かれた馬車の扉の先には、何故かウィリアム王太子殿下が立っていた。
「!!」
馬車の中で身体を強張らせたままのソフィーに、ウィリアムはそっと左手を差し出す。
「ようこそ」
その甘く優しいウィリアムの声に、ソフィーは泣き出しそうになったが、ぐっと堪えた。
彼女の表情に何かを読み取ったのか、ウィリアムは少し困ったような笑顔をしていた。
ソフィーをエスコートし、城内を歩き出すと、ウィリアムは人払いをした。
長く、真っ直ぐ続く廊下を、ウィリアムはゆっくり歩いた。彼の真意は解らなかったが、その三歩後ろをソフィーは付いて歩いた。
静かな城内に二人の靴音だけが響く。
ふと、ウィリアムが口を開いた。
「この先の部屋でカミーユを待たせてある。着くまでの間、私の独り言だと思って聞いて欲しい」
「・・・承知しました」
ソフィーの返事にウィリアムはゆっくり語り始めた。
「私の初恋は16歳の夏、ベント地区にあった古い教会で出会った少女だった。歳は14」
(―――――)
自分の記憶と重なる言葉に、ソフィーは王太子殿下へ視線を向けるが、その後ろ姿は振り向く気配がない。ウィリアムの独り言はそのまま続く。
「教会へ行った時だけ会える少女だったが・・・私は欲が出てしまった。これから先の人生でも一緒にいたいと望んだんだ。想いを伝えようと決めた日、嵐で古い教会は崩れ、彼女の胸に傷を付けた」
(――――!!)
その独り言にソフィーはドレスの胸元を強く握りしめた。
「そのまま彼女とは会えなくなった」
コツン・・・
「中にカミーユがいる」
いつの間にかカミーユの待つ部屋の前まで来ていた。
ウィリアムは振り向かないまま扉のノブに手を掛け、今度は独り言ではなくソフィーへ語りかける様に言葉を発した。
「ずっと伝えたかった。君があの日、教会に忘れて行った本は私が持っている、と・・・」
ギィ――――・・・
部屋の扉が開くと、そこには側近のカミーユが立っていた。
ウィリアムはソフィーに、部屋へ入るように促した。
そして、
「11年前、私が恋した少女の名前は―――」
去り際にソフィーの耳元で囁いた。
「“カレン”だ」
バタン。
ソフィーが振り向くのと同時に扉は閉められた。
最初の顔合わせで感じた懐かしさと、ときめきは間違いではなかった。
視界が急に揺らめく。
ソフィーはその場で泣き崩れた。
執務室へ戻るつもりだったウィリアムの足は自室へと向いていた。
部屋の前には、王太子殿下付きの侍従一人と侍女が二人、室内の清掃作業を始めようとしている所だった。
「掃除はいい。少し休む」
王太子殿下の急な戻りに侍女達は困惑したが、侍従が王太子の顔色に気付き、即座に声を掛ける。
「すぐお飲み物を・・・っ」
「いや、いい。―――誰も近付けるな」
ウィリアムは扉を閉めると内側から鍵を掛けた。
ベッドへ腰を掛け深く溜息をついた後、両手で顔を覆って項垂れる。
「ソフィー・・・っ」
そのまま声を殺して泣いた。




