19.冷酷王太子②
ハドリー王国に、色とりどりの花が満開になる季節がやって来た。
その日、城ではウィリアムの17歳の式典が始まろうとしていた。
王城の広間には15歳を迎えたばかりのデビュタント前の令嬢達が王太子の到着に心躍らせていた。
「国王陛下がお見えです」
一同が頭を垂れ迎える。いくつも聞こえる靴音に令嬢達の緊張は高まっていく。
王族が着席し、顔を上げることを許された。気になる王太子へ目を向けると、飛び込んできた王子達の麗しい姿に彼女達は一瞬で心を奪われた。我先にと動き出すが、階級が上の令嬢から順に王太子へ祝辞を伝える事になっている。
公爵から侯爵へと移り、目の前でカーテシーを見せたその令嬢にウィリアムのエメラルドグリーンの瞳が微かに動いた。
「ワイアット侯爵家長女、カレン・ワイアットです」
微笑んだ口元にはアンバランスなルージュが引かれていた。
「本日はおめでとうございます」
「――――あぁ」
ウィリアムは内心、カレン・ワイアット侯爵令嬢に対し心を痛めていた。年齢と名前が同じというだけで性急し、婚約者候補だと期待させてしまったからだ。その後、直ぐ様、詫び状を送ったが、侯爵家から何も返って来ない事も気になっていた。
「・・・殿下から婚約者候補に御指名頂いた日から、お会いできるのを楽しみにしておりました」
「!!!」
カレン・ワイアットの言葉に会場中が一気にざわついた。
ウィリアムから少し離れた席の両陛下とグランヴィルは取り乱すことなく静観していた。
「あの後、書状を送ったが」
「何の事でございましょう?」
侯爵の所業か娘がとぼけているのか―――ウィリアムは近くに控えていた男の従者を目で呼び耳打ちをした。
「それでは皆様、一旦お飲み物とお菓子をご用意致しますので、お寛ぎ下さい」
「ウィリアム!今、令嬢が一人別室に案内されたぞ」
足早に向かってくるウィリアムとグランヴィルに、衛兵の帽子を深く被ったカミーユが駆け寄る。
「あぁ、俺が間違えたワイアット侯爵の娘だ」
「さっき広間で婚約者候補に指名されたって言っちゃったんだよ。あの時慌てて送った詫び状は無かった事にされてる」
「何だって!?」
左前方に衛兵が二人、部屋の扉の前に立っていた。カレン・ワイアットが通された部屋だと分かる。
コンコンコン
「失礼する」
返事がないままウィリアムのみ部屋へと入った。
「殿下!」
駆け寄ろうとするカレン・ワイアットを、ウィリアムは手を突き出し静止させた。
「・・・殿下?」
「ワイアット侯爵から何と聞いている」
「・・・父からは、爵位も問題なく殿下はこのまま進めたいと―――」
ウィリアムは深い溜息をついた。
(侯爵の浅知恵か・・・)
「正直に言おう。私は“カレン”という少女を探している。だが、あなたではなかった」
王太子殿下の言葉に一喜一憂するカレン・ワイアットは理性を無くしつつあった。
「私はカレンです・・・身分も問題ないはずです・・・私ならば―――」
不意にカレン・ワイアットはウィリアムに抱き付いた。
「初めてお会いした時からお慕いしております!!私を王太子妃に―――!!」
「くどい!!」
突然の事にウィリアムも我を見失っていた。
「俺が探しているカレンは胸に傷がある!!」
カレン・ワイアットを突き放し、そのままドレスの胸元を破った。
「キャアァァ―――!!!」
令嬢の悲鳴に扉が勢いよく開かれ、廊下で待機していたグランヴィルとカミーユが部屋へ入って来た。が、目の前の状況が飲み込めない。
胸元を隠すように両腕で自らを抱え座り込むカレン・ワイアットを、ウィリアムは上から見下ろしていた。
「お前ではない!まだ分からないのなら、この場で言い渡す!」
カレン・ワイアットはゆっくり、王太子殿下を見上げた。
「お前との婚約は破棄する!!」
そう吐き捨てると部屋を出て行った。
式典は全日程が中止となった。
三日後、17歳を迎えたウィリアムはベント地区での捜索を再開した。デビュタントを終えた令嬢達へ手当たり次第に書状を送り付けたが、同じ顔に何度も出会い、ここまでかとベントでの捜索を終了した。
その年、各地で行われるデビュタント会場へ足を運んだ。しかし“カレン”に会う事は叶わなかった。
奇しくも、ソフィーはウィリアムの17歳の式典前にデビュタント後の国王陛下への謁見を終えていた。
つまり、カレン・ワイアットの件がなければ、二人は式典2日目に再会出来ていたのだ。
一連の騒動を境に、ウィリアムが笑顔を見せる事はなくなった。




