17.噂の冷酷王太子16歳の夏(決意)
「待ってて、必ず戻ってくる」
嵐の中、ウィリアムは森を全力疾走した。
別邸に到着するや否や、泥だらけの身なりで邸内を走り回る。
「主治医!!今すぐ救護班を集めろ!!衛兵!!馬を用意しろ!!俺と救護班に、すぐ乗れるやつだ!!残りは馬車で後から付いて来い!!」
邸内に響くウィリアムの怒号に、一気に緊張が走った。
奥から騒ぎを聞いたグランヴィルとカミーユが駆け付け、ずぶ濡れのウィリアムの後ろ姿を見て声を掛けた。
「兄上、一体何が―――」
兄の表情を見て言葉を失った。目を見開き、顔色は真っ青だった。
興奮気味のウィリアムが二人に気付き、呼吸を整えながら口を開いた。
「はぁ・・・っ・・教会の屋根がカレンに落ちてきた・・・胸から血が・・っ止まらないんだっ・・」
強く握られたウィリアムの拳に、カミーユは只事ではないと感じた。
「衛兵!!俺達の馬も用意しろ!!侍従長、外套を!!」
カミーユは追加の指示を出すと、ウィリアムとグランヴィルの背中を叩き、気合いを入れた。
「俺達はすぐ出るぞ!!」
森を抜けると嵐は小康状態になっていた。
先頭を走っていたウィリアムは、教会裏で馬から素早く降りると表の入口へと駆けて行った。グランヴィル、カミーユも後を追い入口へと向かう。建物の角を曲がると、教会前の道でウィリアムが立ちすくんでいた。俯く視線の先に、数頭の蹄と車輪が土を抉った跡が残っていた。
「馬車・・・?」
カミーユが呟くのと同時にウィリアムは教会の中へと入り、叫んだ。
「カレン!!カレン!!」
彼女を寝かせた場所には何もない。隈なく姿を探すが人影すらない。
「カレン!!・・・カレン・・!!」
虚しく響く自分の声に涙が頬をつたった。
雨が止み、大きく広がる空の下、赤く染まったスカーフを水溜まりで見つけた。傍らには血だらけの小鳥が横たわっていた。
(飛び立てなかったか・・・)
ウィリアムは小鳥を濡れたスカーフで包み、手の平で優しく抱え上げた。そのまま教会内をぐるりと見渡し、目当ての長椅子を見つけた。そこには嵐を逃れたバスケットと、カレンが読んでいた本が置かれていた。
入口の内側で静かに様子を見ていたグランヴィルとカミーユに、ウィリアムが声を掛ける。
「悪い。この二つ、持って帰りたい」
“手がいっぱいだ”と手に乗せたスカーフを二人にアピールしてみせた。
「了解」
「兄上、僕は先に戻るよ。こちらへ向かってる皆へ連絡する」
「頼んだ」
グランヴィルはバスケットを手に、森の奥へと馬を走らせた。
カミーユは外套の濡れていない内側部分で本をくるみながらウィリアムに問う。
「で?どうするんだ?」
「探す。何としても見つけ出す」
その表情はいつものウィリアムだった。
別邸に戻ると、父ハドリー国王は激昂していた。
ウィリアムは無断で兵を動かした経緯を毅然と申し開き、ある要望を出した。
「私は、件の女性を王太子妃に迎えたいのです!!」
息子の強い眼差しに、国王はそれ以上問い詰める事が出来なかった。
日が沈み、リカの森の入口で一つの灯が揺れていた。
「きっと皆のところへ行けるさ」
ウィリアムは小鳥に土をかけ、祈った。
「兄上!」
声に振り向くと、近づいて来る二つの灯があった。グランヴィルとカミーユだ。教会から持ち帰ったバスケットと本を手にしている。
育った薬木の盛り上がった根に腰を預け、各々タルトを頬張りながら語らう。
「何これ、論文?14歳の女の子が?」
「ハハ!凄いだろ?」
ウィリアムは自分の事のようにカミーユにカレンを自慢した。
「家督を意識してるの?」
グランヴィルはカレンと同じ歳な事もあり、自分と重ねている所があるようだ。
「多分貴族だろうから―――ないとは言い切れないな。でも楽しそうに読んでた」
ウィリアムは灯を見つめ、カレンのキラキラした横顔を思い出していた。
「それで、父上はどうだったの?」
「・・・・・」
無言のウィリアムに、二人は顔を見合わせる。ダメだったかと思った刹那、
「強行突破だ」
ウィリアムの瞳に映った灯が揺らめいた。
翌朝、件の女性について、ウィリアムに許しが出た。息子の熱意に両陛下が折れた形だ。
同日、ウィリアムは早速動いた。
まず、ベント地区の貴族を洗い出した。そして“カレン”という名の令嬢を探し、そこから14歳という年齢のふるいにかける。
「―――見つけた!!」
ウィリアムは僅か三日で“カレン”を見つけた。




