15.ずれる歯車
部屋に差し込む月の光は、シーツに流れるソフィーの柔らかなプラチナブロンドを艶やかに照らしていた。
ベッドが揺れる。
ウィリアムが覆いかぶさるようにソフィーを覗き込んできた。
エメラルドグリーンの瞳に見つめられ、ソフィーは身動きが出来なかった。それは恐怖ではなく、目の前のウィリアムへの特別な感情からだった。彼がカミーユに似ているからか、それとも新たな恋心なのか―――ふいに肩に手が触れ、大きく身体を反応させた。それが感情に乗り、心臓の音が速くなる。
ウィリアムはそんなソフィーに気付きながらも、ドレスに手を掛け、ゆっくり、下していく。
肩、両乳房、更にへそ、腰まで露わにされ、ソフィーは顔を真っ赤にして目を閉じ耐えた。
羞恥に身体を震わせていると、腰の下でウィリアムの手が止まった。
「――――」
ウィリアムは自分の着ている上着を脱ぎ、ソフィーの肌へと優しく掛けた。そしてベッドに腰を掛け直し、ゆっくりと口を開いた。
「ソフィー・ニコル伯爵令嬢、今この場であなたとの婚約を破棄する」
ウィリアムの冷めた声色に、ソフィーの顔は一気に白くなった。
身体が僅かに揺れ、ウィリアムがベッドから降りたと分かった。
その振動で、ゆるく開いたブルーの瞳から涙が零れ落ちた。
ソフィーは身なりを整えるとベッドから立ち上がるが、両足は震え、支えるのがやっとでなかなか歩き出せない。今にも倒れそうな彼女の姿を見てウィリアムは抱きしめてしまいたい衝動に駆られたが、ギリギリ堪えた。
「ソフィー嬢、今夜は伯爵家へ帰るといい。改めて話の場を設ける。あなたが望む婚約者を私が見つけよう」
「はい・・・」
「城の馬車で送るが、夜も遅く危険だ。護衛に私の側近を付ける」
ウィリアムは扉へ向かって側近を呼んだ。
「カミーユ!」
(――――え?)
ソフィーはその名に顔を上げた。
コンコンコン
「失礼します。お呼びでしょうか、王太子殿下」
扉を開け入ってきた側近の青年は、ウィリアムと瓜二つ・・とまではいかないが、シルバーブロンドにエメラルドグリーンの瞳をしていた。
その名、その容姿に、11年前の想いが弾け、ソフィーは感情を抑えられなかった。
背を向けたままのウィリアムはそんなソフィーに気付かず話を
進める。
「カミーユ、ソフィー嬢を伯爵家まで送り届けて欲し――――」
「カミーユ!!」
「―――え?」
ソフィーの大きな声にウィリアムは振り返ると、彼女は駆け出し、カミーユへと抱き付いた。
「・・・なっ」
突然の出来事にウィリアムは動揺した。
抱き付かれた“カミーユ”もかなり動揺していた。
「カミーユ!カミーユ!」
「えっと・・あなたはソフィー様・・・?」
「わからない?私よ!」
この後、ウィリアムはソフィーの口から衝撃の事実を聞く。
「カレンよ!カミーユ!」
ウィリアムは息が止まりそうだった―――。
カミーユはその名に驚いた。
「え?カレン?君があのカレン!?」
その反応に、ソフィーは彼がカミーユ本人だと信じ、更に強く抱き付いた。
カミーユは事態が呑み込めず主へ助けを求めようとしたが、肝心のウィリアムは目を見開き立ち尽くしていた。
そんな二人をよそに、ソフィーのセピア色の初恋が再び色づき始める。
『殿下は恋を実らせてくれる天使様』
セリーヌ嬢の言葉が脳裏をよぎる。ソフィーは意を決した。
カミーユへ微笑みかけ一旦離れると、ウィリアムへ向き合った。
「王太子殿下、お願いがございます」
先刻まで弱々しく立っているのが精一杯だったソフィーと打って変わった凛とした姿だった。
ウィリアムはそんな彼女の次の言葉が予測出来、苦しくなった。
「私、ソフィー・ニコルは――――」
「言うな・・・」
「カミーユとの婚約を希望します」
―――ウィリアムは絶望の淵に沈んだ。




