12.逡巡
「先月、改修工事が終わったばかりです」
館内をキョロキョロとするソフィーに、案内役の司書が声を掛けた。
(殿下が案内すると言っていたのは、こういう事だったのね)
何度か訪れている王立図書館で、忙しい司書の時間を割いてまで・・・と思っていたが、様変わりした館内を見てソフィーは納得した。
(素晴らしいわ・・・)
そして所々に新たに施された王家の紋章を目にする度、ドキリとする。
カサブランカ―――。
王族のみが公務で身に着ける紋章。
11年前、あの教会でカミーユが差し出したスカーフ。何の躊躇いもなくソフィーを雨から守るため広げたカサブランカの刺繍を、忘れた事はなかった。
(カミーユは王族の方だわ)
ソフィーは14歳にして確信していた。
どうしたら王族に会えるのか?日々考えた。
春を間近に感じる季節、ソフィーは15歳のデビュタントを領地がある南のスコット区で迎えた。
童話のお姫様の様な淡い期待を抱き、会場でカミーユを待ったが、勿論現れない。
王都へ戻り、国王陛下の謁見に再び期待を寄せる。王城ですれ違うかもしれない。しかし暗い顔で帰路へ着いた。
翌月には王太子殿下の生誕の式典に呼ばれ、三度期待した。が、ソフィーが登城する前に何故か中止となった。
そして領地の経営が逼迫し始め、舞踏会へ赴く回数も減っていった。
25歳を迎え、カミーユへの恋心を諦めていた矢先、王太子殿下からの書状。
顔合わせで心臓が止まりそうになった。シルバーブロンドにエメラルドグリーンの瞳・・・懐かしい面影―――。
(カミーユだわ!!)
「ウィリアム・ユージン・ハドリーだ」
カミーユではなかった。
別人だと分かっても、ウィリアムを目で追っていた。
時折見せる、何かを言いたげな彼の表情に思わず尋ねてみたくなる。
『あなたはカミーユなの?』
ソフィーは固く目を瞑り、軽く頭を振った。
(婚約破棄を言い渡された時にお願いするって決めたじゃない!)
そう自分に言い聞かせるが、視界に入るカサブランカの紋章は、もう、ウィリアムの顔しか思い浮かばなくなっていた。




