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第7話 目が覚めたら悪役王子でした~sideエディアルド~

 目を覚ました時、俺は豪奢な寝台の上で眠っていた。

 ここはどこだ? 

 俺はものすごいお金持ちに助けられて介抱されているとか? いや、そんな小説みたいな話は有り得ないだろう。

 とりあえず起きて家主に御礼を言わないと。

 俺はベッドから起きて、ドアに向かって歩き出す。しかし途中、三面鏡に映っている自分の姿を見てぎょっとする。

 誰だ、どこの少年だ? 

 金髪にスカイブルーの目、色白の肌に整った顔立ち。洋画に出てきそうな天使のような少年だ。

 俺は自分の頬に触れてみる。すると鏡のむこうの金髪の少年も自分の頬に手を当てている。

 何、これが俺? ? 

 一体どういうことだ? ? ? 

 混乱しかけて、だんだん思い出してきたのは現在の自分の記憶。

 そうだ、俺はハーディン王国の第一王子。

 エディアルド=ハーディンだ。

 

 だが、そこで前世の記憶が入り交じってきて俺は混乱する。

 エディアルド=ハーディンと言えば、俺が妹に勧められて読まされた“運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~” という小説の登場人物の名前と同じだ。

 

 主人公はハーディン王国第二王子、アーノルド=ハーディンと聖女に選ばれた平民の少女ミミリアだ。

 男爵家の養女となったミミリアは、貴族達が通う学校に行くようになる。そこでアーノルドと出会い、恋に落ちるのだ。

 ところがアーノルドの異母兄である第一王子、エディアルド=ハーディンもミミリアに一目惚れをしていた。

 ただでさえ優秀な異母弟にコンプレックスを抱いていたエディアルドは、アーノルドとミミリアが恋仲であると知り怒り狂う。

 嫉妬と劣等感に苛まれたエディアルドは、アーノルドを亡き者にしようと暗殺を企てるが悉く失敗。

 一方、アーノルドの婚約者であるクラリス=シャーレットも、ミミリアの命を狙っていた。


 そして魔族の皇子ディノによって闇の力を得たクラリスは黒炎の魔女に。エディアルドは闇黒の勇者として魔物の軍勢を率いて城に攻め込む。

 クラリスはミミリアと対峙し、黒炎を彼女に向かって放った。

 アーノルドは身を挺してミミリアを庇い、黒炎を一身に受けてしまう。身を焼かれ瀕死であるアーノルドの姿を見たエディアルドは、チャンスと思いとどめを刺そうとする。 

 しかしアーノルドを失いたくない思いがミミリアの聖女としての力を覚醒させる。

 クラリスが放った黒炎は聖なる白光によって打ち消され、魔物の軍勢を一掃する。それだけに留まらず、白光はアーノルドの傷も治してしまう。

 エディアルドは完全復活したアーノルドの手に寄って、聖剣で心臓を刺され、絶命してしまう。

 クラリスは騎士達に取り囲まれたが、捕らえられそうになった直前、自らの身体を燃やし自害をした。

 そしてミミリアとアーノルドはハッピーエンドという、ベタ中のベタなお話。まぁ恋愛小説初心者の妹にとっては、ドキドキワクワクだったに違いないが。

 

 俺から言わせるとアーノルド=ハーディンという人物は、王子という身分も忘れ、婚約者がいる身の上で、別の女に現をぬかす時点でクズだと思っているし、ましてや王妃教育もしていない平民の少女を王妃に迎えるという無茶な展開がちゃんちゃら可笑しく、まぁご都合主義な話だな、と思ったものだ。


 しかし、現世の記憶を掘り起こせば掘り起こすほど、俺はそのクズ王子に殺された悪役王子、エディアルド=ハーディンになってしまっている。

 何だ、これが噂の転生というものか。小説みたいじゃなくて、小説そのものの世界じゃないか。

 でも確かにあの挿絵の顔を現実にするとこんな感じか。俺は物語の登場人物に転生してしまうアレになってしまったのか。

 何でよりにもよって悪役王子に……とにかく頭の中を整理しよう。

 現在の俺の年齢は十七歳。

 勉強は不得意、魔術も師から才能が無いと言われ、唯一得意な剣術の実力もなかなか認めてもらえず……優秀な弟にコンプレックスを抱く若者だ。

 確か小説ではそろそろアーノルドとクラリスとの婚約が決まる頃じゃなかったか? 

 そうだ、そういや今日はクラリス=シャーレットがここに来る筈。 

 王妃である母上が主催したお茶会に、アーノルドの婚約者候補として彼女がここに来る予定なのだ。

 小説によるとアーノルドは傲慢と噂されている令嬢が、自分の婚約者候補だなんて嫌だと嘆いていたんだよな。それでクラリスには会いたくないが為、お茶会には欠席する。

 噂だけで怖じ気づくとは情けない。そんなものは会ってみないと分からないものだろう? 

 小説の中のエディアルドも噂を鵜呑みにして、最初はクラリスと会うのを避けていたけれど、俺は違うからな。国を震撼させた黒炎の魔女がどんな人物なのか、この目で見て見たい。

 

 

 いつもならメイドを呼んで着替えさせてもらうのだけど、エディアルドよ。お前はもう十七歳だ。前世で言えば高校二年生。

 自分の服ぐらいは自分で着るようにならなければ。

 まずは髪を整えて、あ、眉も整えた方がいいな。よく見たらけっこうゲジ眉じゃないか。

 確か隣の衣装部屋の棚に、化粧セットの箱が置いてあったよな。大抵その中にはカミソリも入っている筈。

 俺は棚の上に置いてある化粧箱の引き出しからカミソリを取り出した。

 そして三面鏡の前に座り、カミソリで眉を整えてから、ブラシで髪の毛をとかし整髪料をつける、さすが王族がつかうだけに天然素材が生かされた極上のヘアオイルだ。こいつで髪を整え、あとは比較的着やすく、動きやすい服を選ぶ。

 さてマントも羽織ったところで部屋を出ますか。

 社交界は面倒だが、この国の王子として生まれた以上義務は果たさないとな。


 

 俺が部屋から出ると、部屋の外に控えていたメイドたちがぎょっとしていた。

 既に俺が完璧に着替えをすませていたからだろう。

 すぐに駆け寄って来たのは側近であるカーティスだ。小説によると、こいつは俺の側に仕えながら実は、アーノルドを王に据えようとしている。

 主人公アーノルドにとっては頼もしい味方だが、俺から見れば裏切り者。まぁ本人は最初からアーノルドに仕えていたわけで、別に裏切ったわけじゃないって言うんだけどな。

 小説のカーティス=ヘイリーは事あるごとに弟と比較するようなことを俺に言ってくる。本人はアーノルドのようにしっかりしてほしいという気持ちで言っているのだけど、エディアルドは彼の言葉を聞く度に劣等感に苛まれるのだ。

 小説だとカーティスに色々言われて落ち込んでいるエディアルドを、ヒロインミミリアが励ますんだよな。エディアルドはそんなミミリアの優しさに感激し、彼女の事がますます好きになる。

 男は自分を持ち上げてくれる女に弱いからな。特にあんまり褒められたことがない箱入り王子だったら、イチコロなのだろうな……と他人事のように思ったり。


 

「驚きました。着替えはご自分で?」

「ああ」

「ははは、そうですね。いい加減ご自分で身支度ができるようにならなくては。アーノルド様もとっくに自身で着替えておりますし」


 ……まぁ、こんな感じでね。俺のことを完全に小馬鹿にしている。

 俺が何かするたびに、こいつは事あるごとにアーノルドと比較したがる。そんなに弟がいいのなら、そっちへ仕えたらいいじゃないかって思うくらいに。

 しかし小説の設定では確か、こいつはアーノルドの母親である第二側妃、テレスの間者だからな。今ある現実も小説の設定通りだとすれば、おいそれと俺の元からは離れられないのだろう。

 でも間者ならそれらしく振る舞って欲しいところだ。あからさまにアーノルドを称えるようなことを言わない方がいいのにな。

 カーティス=ヘイリーは正直、間者には向いていない。



 まぁ、記憶を思い出す前のエディアルドにも問題はあったとは思うが、結局の所権力争いの犠牲者だったわけだ。

 前世の記憶が蘇った以上、周囲の言葉には惑わされないし、人に頼りすぎるようなこともしない。ましてや劣等感に苛まれることもない。弟が優秀なら、それはそれで全然構わないと思っている。はっきり言って、俺は国王という面倒な地位には興味が無いのだから。



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