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第60話 第二王子の告白~sideクラリス~

「兄上よりも、僕の方が君をもっと幸せに出来るっっ!!」

「………………」


 まるでドラマのようなワンシーンだ。

 絵面だけ見ていたら、ときめく乙女も多いと思う。

 小説に登場するエディアルドのようなクズ男が婚約者だったら、アーノルドは救世主に見えただろう。

 でも今の台詞は、先ほどミミリアとの真実の愛宣言をした口が言っている――ええ、堂々と二股宣言です。

 この国は一夫多妻が認められているし、倫理観とか道徳観が日本とは違うのは分かっているけど。


 無理。この男とは絶っっ対に無理っっ!!


 兄上よりも幸せに出来るぅ? その自信はどっから来るわけ? 

 二人を同時に幸せに出来るなんて本当に思っているの? この王子様。

 頭の中、無限の花畑が広がっているみたいね。


 相手が王子じゃなきゃ口に出して、そう怒鳴っていたわよ。

 あー、無駄に爽やかな顔がさらにムカつく。

 

 ……というかミミリアはどこへ行ったの!? ちゃんと恋人のこと見張っていないと駄目でしょ!? 


「初めまして、アドニス様ぁ。私はミミリア=ボルドールといいます。今日はあなたにお会い出来て、とっても嬉しいです」

「あ……はぁ……どうも」

「私、あなたと二人きりでお話がしたいのですが」

「聖女様、あなたは殿下の恋人なのでしょう? 二人きりでお話をしていたら、周囲からあらぬ誤解をうけます」

「誤解だって殿下には言っておきまーす」



 いつの間にかデイジーのお兄さん、アドニス=クロノム先輩にすり寄っている!? アドニス先輩自身はものすごく迷惑そうだけど。


 恋人が他の男に色目を使っていることに気づくことなく、アーノルド殿下は真剣な眼差しで私を見詰めていた。

 

「僕は悪い噂に惑わされて君と会わなかったことを、とても後悔している。学園で君のことを知れば知るほど、僕にとって君がいかに必要な存在なのか自覚させられた」


 その言葉、小説のクラリスが聞いたら泣いて喜んでいただろうな。きっと舞い上がるような気持ちでアーノルドの手を取ったに違いない。

 だけど私と小説のクラリスは違う。 

 今の自分の気持ちは舞い上がるどころか、ブリザードが吹き荒れている。平然と二股をかけようとしているこの男に、殺意すら覚えた。

 元彼にそっくりだわ、この人。今更ながらに、前世の私は何でこんなタイプの人と付き合っていたのだろう? と疑問に思う。



「どうかもう一度僕と婚約して欲しい」

「無理です」

「……は?」


 迷いもなく即答してしまう私に、アーノルドは目を点にした。

 ……うん、自分でももっとオブラートに包んでお断りすれば良かったって、後悔したけれど、拒絶反応故か、ストレートな言葉がすぐに口から飛び出てきてしまった。


「アーノルド殿下、厳密に言えば私はあなたの婚約者候補、婚約者だったわけではありません」

「いや、それは」

「私は、()()()()()()()()()()()()しか愛することができないのです。既に聖女様という最高な恋人がいらっしゃるあなたとは無理です」


 今度はオブラートに包んだわ。ストレートに言うと二股野郎の婚約者になるのなんか、まっぴら御免だ、って事なんだけどね。



「クラリス、そろそろ行こうか」


 一部始終を見守っていたエディアルド様が、タイミングを見計らって私の元に歩み寄ってきた。

 私はほっと安堵の表情を浮かべる。この人がこんなにも安心できる存在であることを今日ほど実感した日はない。

 私は肘を掴んでいるアーノルド殿下の手をそっと外し、エディアルド様の手をとった。

 お互いに目が合うと、嬉しくなって自然と笑みがこぼれる。

 その場から離れる私の背中にアーノルド殿下が堪り兼ねたように問いかける。



「そんな愚か者のどこが良いんだ!?」

「……っ!?」


 アーノルド殿下、見損なったわ。

 取り巻きと違って貴方はエディアルド様をあからさまに見下していなかったけれど、心の底では馬鹿にしていたのね。

 うすうすは分かっていたけれど、弟であるあなたの口から兄が愚か者だとは言って欲しくなかった。


 アーノルド殿下はかなりタチが悪い。

 エディアルド様がこちらに近づいてきているのに、私のことを口説いていた。

 婚約者がいる女性を、婚約者がいる目の前で口説き落とそうとしていたのだ。

 しかも本人は愚かな婚約者から私を救い出そう、という気持ちで口説いてきているのだから始末に負えない。


 私は一度立ち止まり、振り返ってから彼を睨んだ。

 まさか敵視されるとは思っていなかったようで、アーノルド殿下はビクッと肩を上下させる。

 

「エディアルド様は愚か者ではありません」

「何を言うんだ。勉学もろくにできないし、魔術も師匠に見捨てられるほど才能がなかった」

「それは以前の話でしょう? 昔のエディアルド様がどうだったのかは知りませんが、今、私が知っているエディアルド様は、あなたが言うような愚かな方には見えません」

「そ、それは君の前で自分の愚かさを隠しているだけだ」


 私の答えが信じられないのか、アーノルドは何度もかぶりを振る。

 そうよね、母親からも異母兄は愚かであると言い聞かされ、周囲の人間もエディアルド様を馬鹿にしているんだものね。

 あなたがそういう考えになってしまうのも無理はないわ。

 もし小説の通り馬鹿なエディアルドだったら、私も貴方の方がマシだって思って、その手をとったかもしれないわね。

 あなたに近づいている貴族達だって同じ。

 愚かなエディアルドよりはまだマシという理由で、貴方の側にいる者も少なくない。

 とにかくハッキリと断る為に、私はアーノルド殿下に敢えて笑いかけた。

 

「あなたのお言葉をお借りしますと、私も真実の愛を見つけたのです」

「……!?」 


 真実の愛なんて、すっごく安っぽい表現だけど、あなたが大真面目な顔で言った台詞だから、笑い飛ばせないわよね。

 だけど私がエディアルド様をお慕いしているのは本当のことだ。 


「兄上が真実の愛だって……!?」

 

 完全にプライドを打ち砕かれたアーノルド殿下は、身体を小刻みに震わせ唇をかみしめていた。

 エディアルド様は私の肩を抱き寄せ、異母弟に諭すように言った。


「アーノルド、欲張らないでミミリアだけを愛してやれ。彼女を一途に愛することで、聖女の力は初めて発揮されるのだから」

「兄上……」


 口惜しそうにエディアルド様を睨み付けるアーノルド殿下。

 私もエディアルド様も、自分勝手な理由で弟妹に恨まれる星の下に生まれたのかな? 

 突き刺すようなアーノルド殿下の視線を感じながら私は、エディアルド様と共に舞踏会の会場を後にすることにした。

 ソニアとウィスト、デイジーとアドニス先輩も私たちの後に続く。

 デイジーが元気づけるように私と、それからソニアにも言った。


「さ、今日はもう一回お泊まり会ですわ! 次の日は一緒に旅支度をしましょうね!」

「あ、そのことなんだけどさ、デイジー嬢。君たちの旅行に俺も同行できないかな?」


 突然のエディアルド様の申し出にデイジーは目を丸くしてから、オホホと手で口を押さえ、しとやかに笑う。


「あら、殿下は本当にクラリス様が好きなのですね」


 少し揶揄うような口調のデイジーに、エディアルド様は照れくさそうに笑うものの、すぐに真面目な表情に戻った。


「もちろんクラリスと共にいたいというのもある。だけど、実はその時に母上も連れて行けたら、と思っているんだ」

「王妃様でございますか。ですが、王妃様にも予定があるのでは?」

「最近母上は体調を崩しがちで、王室も殆ど予定を入れていないんだ。少し空気の良い静かな所に連れて行きたい」

「そうでしたの。王妃様はお父様にとって従姉妹ですし、きっとお力になれると思いますわ」



 デイジーも表情を引き締め、エディアルド様の申し出に頷いた。

 王妃様、体調を崩していらっしゃるのね。

 無理もない。王妃様ともなれば、膨大な公務に追われているだろうし、休日というものが実質ないに等しいのだから。

 心身共に回復するまで、空気の良い静かな場所で休んで頂いた方がいいわね。

 

 私は一度寮に戻り、すぐさま荷造りをした。必要最低限のものを鞄に詰めて、実家には帰らずに直接デイジーの邸宅へ向かう。

 南の離島って言っていたけれど、この世界の南の島ってどんな感じなのだろう?

 凄く楽しみだな。



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