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第57話 悪役たちの舞踏会③~sideエディアルド~

「ナタリー=シャーレット、いい加減僕につきまとうのはやめてくれ!!」 

「何故……何故ですの!? 私は我が侭なお姉様と違い従順ですし、ミミリアのような賤しい生まれじゃありません。あなたを裏切り、エディアルド殿下に走った姉とは違い、私は精一杯あなたに尽くしてきました」

 

 人間が誰かを悪く言うとき、それは自分をよく見せようとする現れでもある。今のナタリーの姿は分かりやすいくらい自分を上げる為に、クラリスやミミリアを下げている。

 しかしヒロインに夢中なアーノルドには何を言っても無駄だ。彼はミミリアを愛しそうに抱いて宣言をする。



「僕は真実の愛を見つけたんだ。ミミリア=ボルドール。彼女こそが女神ジュリに選ばれた聖女であり、僕が伴侶と定めた女性でもある」



 おお、ここでミミリアが聖女であることを発表するのか。そういや小説でもそんなシーンが書いてあったような気がする。あのシーンってこの舞踏会のことだったか。

 ミミリアが聖女であると公表され、その場は騒然となった。

 テレスもさすがに驚きが隠せないみたいだな。


「有り得ない!! そんな平民上がりの男爵の娘が聖女だなんて」


 小説だとクラリスが言う台詞だったのだが、ナタリーが代わりに言っている。

 ミミリアはアーノルドの後ろに隠れ震えているように見えて、密かに勝ち誇ったような顔をナタリーに向けていた。

 小説だったら自分を貶す相手にも気遣いを忘れない優しい娘だったのに……ヒロインのそんな顔見たくなかったな。


『あの方が聖女様!?』

『聖女様がアーノルド殿下の恋人ということは、アーノルド殿下が皇太子になる可能性が高いのでは?』


 ミミリア=ボルドールが聖女であることに対し、その場にいる人々は半信半疑だ。

 まぁ、清純なイメージがある聖女様だけど、今、甘えたようにアーノルドにしなだれかかっているミミリアは、フリルやビジューがたっぷりで胸元が開いた派手なドレスを纏い、化粧も濃いめだ。

 とても清純とは言い難いイメージだ。


『ミミリアって確か、魔術がからっきしだったよな』

『勉強もあんまり出来ていないみたいだし』

『彼女が聖女!? ……おい、ハーディン王国は大丈夫なのか』


 学園でミミリアのことを知っている貴族子弟は不安げな声をあげている。うん、君たちが不安に思うのも無理はないよね。

 もちろんミミリアの美しさに心を奪われ、崇めている貴族達も多い。特に学園内でミミリアに熱を上げていた者たちは賛辞と同時に嘆いている者もいた。


『今日のミミリアは一段と愛らしい』

『そうか……聖女様だったのか。ううう、アーノルド王子と幸せに』

 

 魔皇子ディノの侵攻のことを考えると、聖女の力があった方が助かるは助かるだろうけど、今のミミリアにそんな力が得られるか、かなり不安がある。

 聖女に選ばれたからには、毎日のように神殿で祈り、なおかつ魔術の鍛錬に励まなければならない。

 真面目に鍛錬を行っていれば、とっくに中級魔術師程度の実力くらいは、身につく筈なのに、そんな話は一切聞かない。

 この聖女様は真面目に鍛錬に取り組んでいないのではないか、と思われる。

 いくら選ばれた人間だからといって、持っている力を発揮出来るようにならなければただの人だ。


 アーノルドへの愛の力がミミリアの力を目覚めさせる可能性はあるが、アドニス=クロノムにも熱視線を送っている聖女様に愛の力が発揮できるかどうかは甚だ疑問だ。

 本来ならアーノルドがそんな聖女を諫めるべきなのだけど、あの様子じゃ相当甘やかしているな。

 やはり聖女の力は当てにしない方がいい。自分の身は自分で守るくらいの力をつけないといけないな。

 その時ベルミーラがクラリスに向かって、ヒステリックな声で怒鳴りつける。


「クラリス、あなたはここに来てはいけない人間よ! あなたはこの舞踏会の場には相応しくないわ。王室にもあなたに代わってナタリーがこの舞踏会に参加することに了承を貰っているのよ」

 

 華やかな格好をしているクラリスを見て、よほど頭にきたのか、感情的になっている。あーあ、クラリスの我が侭に振り回されて困っている可哀想なベルミーラ夫人像が崩壊しているな。

 家の中ではああやってクラリスにいつも怒鳴りつけていたんだな。

 テレスはそんなベルミーラが滑稽に思えたのか、可笑しそうに笑って言った。


「確かにナタリー=シャーレットの舞踏会の参加は了承しましたわ。侯爵家の一員としてね。ですが、クラリス=シャーレット個人にも直接正式な招待状を送っていますの」

「直接って……我が家を通さず直接でございますか?」


 信じられぬと首を横に振るベルミーラに、テレスは小首をかしげ、問いかけるような口調で言った。


「だって、シャーレット侯爵家にお手紙を出したら、永遠にクラリスには届かないでしょう?」

「……!?」

「私ね、三回もお手紙差し上げたのよ? 今度こそクラリスにお手紙を渡すようにって書いたのにね、まるで写したかのように同じ返信ばっかり。クラリスじゃなくてナタリーを代わりに行かせるって」


 ベルミーラの顔が思いっきり引きつる。

 馬鹿だな、王族からの手紙の内容無視したような返信をしたら駄目だろう?

 基本的に手紙は渡された本人が返信を書かなければならない。特に王族からの手紙は、よほどの理由でもないかぎり代筆はしない方が良い。

 その家の信用にも関わるからな。

 最初は母上だけが軽んじられていると思っていたが、テレスに対してもそういう態度だったのであれば、シャーレット家の人間は王族全体を舐めていたわけだ。


 その場にいる人々の突き刺すような視線が、母娘に集中する。

 クラリスに怒鳴りつけるベルミーラの態度、それにテレスの言葉から、二人が継子を虐げていたという噂は本当なのだろう、と思ったに違いない。


「きょ、今日は気分がすぐれないのでこれで失礼しますわ」


 上ずった声で言う母親に、空気が読めないナタリーは不満顔だ。何故、この場から退散しなければならないのか? と言わんばかり。

 周りの視線にまるで気づいていないんだよな。ある意味幸せな人間だと思う。


「お母様、どうして」

「また別の舞踏会に行きましょう。私、気分がすぐれないので」

「お母様、でもクラリスとミミリアが」

「いいから帰りましょう!」


 半ば強引に腕を引っ張られるナタリー。

 彼女は母親の手を振り払おうとするが、母親も簡単にその手を離さない。

 舞踏会に参加できなかったのがよほど悔しかったのか、ベルミーラとナタリーはこちらを振り返り、殺意に近い目つきで睨み付けている。

 デイジーがクラリスの肩に手をかけ、小声で言った。


「クラリス様、今日も私の家にお泊まりくださいませ」

「デイジー様?」

「今のナタリー様達の顔を見たでしょう? 家に戻ったらあなたを衝動的に殺しかねません」

「……」


 ハーディン学園は秋休みに入っている。前世と違って夏休みがなく、秋休みがあるのだ。

 社交が大事な貴族にとって、時節がよい春と秋はあらゆる催し物が催される。貴族の子弟達はその都度参加しなければならないので、学校を休みがちになってしまう。

 故に学校そのものが秋に長期の休みを設けることになったのだ。

 学校が秋休みに入ると、寮生は実家に戻らないといけない。だから今日からクラリスは寮ではなく実家に帰らなくてはならないのだが。

 今、あの家に帰ったらクラリスが何をされるかわかったもんじゃない。

 この際だから俺もかねてから準備していたことをクラリスに言っておくことにする。

 


「城内に君が住める部屋を用意している。もっと前から君をあの家から引き離したかったのだけど、父上と母上がなかなか了承してくれなくてね。説得するのに時間がかかっていたんだ」


 婚約したとはいえ、まだ王室に入ったわけじゃない女性を城内に入れたら、他の貴族達に示しがつかないから、父上と母上が反対するのも無理はないのだけど。

 だけど実家に虐げられている状況なのだから、これは緊急事態だ。

 しかしベルミーラと仲が良かった母上は俺の説得に納得しようとしなかった。

 ベルミーラがいかに母上を軽んじて、友達と称して母上を利用していたか、一から十まで説明したけれど、なかなか信じて貰えずにいた。


 最後の方はもう少し人を見る目を養うように、と警告もしたけど、どうも母上はピンときていない感じなんだよな。

 俺はまだ十七歳の若造だ。しかもつい最近まで馬鹿と呼ばれていた息子に、何を言われても説得力はないのだろうけど。


 誰か母上よりも年長の人が説得してくれたらいいんだけどな。



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