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第55話 悪役たちの舞踏会①~sideエディアルド~

「ハーディン王国栄華の象徴であらせられる国王陛下にご挨拶申し上げます。この度は私の為に、かくも盛大な舞踏会を催していただき、心から御礼を申し上げます」


 例え実の親子でも、この場では父上のことを国王陛下とお呼びしなければならない。

 アーノルドは胸に手を当て深々とお辞儀をする。

 その立ち振る舞いはとても優雅だ。

 記憶が蘇る前の俺って、あんな挨拶してたかな? ……駄目だ、思い出せない。


「王様、お妃様、この度は素敵なパーティーに招待してくださって、ありがとうございます」


 ミミリアにしては挨拶を頑張っている方か。淑女の挨拶カーテシーもできているし……今までの彼女の言動を鑑みて、採点基準は低めだが。

 アーノルドとミミリアはまるで夫婦のように並んで、国王陛下とテレスの前で挨拶をする。

 ふと気になってテレスの方を見ると……うわ……凄い目でミミリアのことを睨んでいる。

 ありゃ視線だけで相手を殺しそうだ。

 


『何であんたが来るのよ!? あんたは招待していないでしょ!?』


 という心の怒鳴り声が聞こえてくるようだ。

 クラリスを自分の味方に引き入れる予定が、俺が来ることになり、さらにアーノルドが勝手にミミリアを連れてくる始末だからな。

 悉く思い通りにならなくて苛立っているようだ。手に持っている扇子が折れ曲がっている。怒り任せに折ってしまったらしい。

 しかし鈍感なミミリアはそんなテレスの視線に全くと言って気づいていない。当然、空気が読めないアーノルドも母親の怒りに気づいていない。

 ある意味、鈍感力も勇者パワーと聖女パワーの内なのかもしれない。


 俺にとってはエイリアンだが、ミミリアのことをあまり知らない貴族にとっては、麗しい女性に見えたようだ。

 


「あの美しくも愛らしいご令嬢は?」

「ボルドール家の令嬢、ミミリア=ボルドールだ」

「ボルドール家? あの家に令嬢はいたかな?」


 ミミリアは元々平民で、ボルドール家の養女になっているのだ。社交界に知られていないのも無理はない。

 さすがヒロインだけに美しい顔立ちでありながら、笑うと何とも言えない可愛らしさがある。

 主人公のアーノルドの容姿端麗さ、そして存在感も手伝って二人は瞬く間に注目の的となる。

 カーティスが感嘆の息をつきながらアーノルドを称える。


「さすがアーノルド様……(エディアルド様とは)格が違う」

「ヘイリー卿、エディアルド殿下の護衛なら自分一人で十分ですので、アーノルド殿下の護衛にまわったら如何ですか? アーノルド殿下は今、護衛を連れていないようですし」


 すかさずウィストが嫌味混じりに言った。するとカーティスは慌てて首を横に振り、うろたえた口調で言った。


「何を言う。私はあくまでエディアルド殿下の側近だ」

「エディアルド殿下のことは自分にお任せください。あなたと違い誠心誠意おそばに仕える所存ですので」

「き、貴様、まさか側近の座を狙っているのではあるまいな?」

「自分はあなたと違って心の底からエディアルド様に仕えたいだけです」


 ウィストは実際に野心というものはない。自分の強さを初めて認めてくれた俺を純粋に慕ってくれているのだ。だから事あるごとにアーノルドを褒め称えているカーティスのことを快く思っていない。


「だけどウィストの言葉にも一理あるな。アーノルドたちには護衛がいないのは心許ない。まぁ城内だから誰かに狙われる心配もないから、アーノルドも四守護士を連れて来なかったのだろうが、念のためお前が側にいてやってくれないか」

「エディアルド殿下、しかし……」

「頼む。弟のことを守ってくれ」


 俺が真剣な目で訴えてみせると、カーティスは目を輝かせて大きく頷いた。

 堂々とアーノルドの側にいることが出来ると思っているのだろうな。

 多分、ミミリアには邪魔者扱いされるだろうけど。

 さっそくアーノルドの方へ走っていって、俺の命令で護衛に来たことをアーノルドに伝える。

 アーノルドはこっちを見て、軽くお辞儀をする。カーティスを護衛として寄越してくれた礼だろう。

 一方ミミリアには軽く睨まれたけどな。余計な奴を寄越すな、と言わんばかりだ。



 アーノルドが宮廷楽団の指揮者に向けて、指を鳴らして合図をする。

 指揮者は一礼して、両手をあげる。

 優雅な音楽が広間に流れ、その場にいる人々はパートナーと踊り始めた。

 そしてアーノルドもミミリアと共にダンスを始める。

 ほう、聖女様、ダンスは上手いんだな。さすが主人公とヒロイン。クリスタルを背景に絵になるダンスシーンを繰り広げている。

 ああやって見ていると、本当に主人公様とヒロイン様だよなぁ。


 俺はしばらくの間、ぼーっとその様子を見ていたが、伝令係の男がすすすとこちらに近づいてきた。


「クロノム家の馬車が到着いたしました」

「ああ……」


 クラリスを乗せたクロノム家の馬車が到着したことを知らせたので、俺はその場から立ち上がった。

 俺のそんな姿を見て、何を勘違いしたのかせせら笑う貴族たちがいる。


『やっぱり、その場にいるのが耐えられなくなったのだな』

『アーノルド殿下とは格が違うからな』

『あの高慢なクラリスと違って、親しみやすく、愛らしい美女と幸せそうにしているのも面白くなかったんだろうな』


 おいおい、好き勝手に解釈してくれているな。

 さっきまでミミリアにキレていたテレスまで、こっちを見て嘲笑している。

 まぁ、今のうちに喜んでろ。

 俺の愛しい婚約者を連れて、すぐにカムバックしてやる。



 俺とウィストは王門までクラリスを迎えにいった。

 ちょうどデイジーが美麗な青年の手を借りて馬車から降りているところだった。あの青年は、デイジーと同じプラチナブロンドとオレンジ色の瞳だから、恐らく兄であるアドニス=クロノムだろう。

 俺のもう一人のはとこということになるな。

 デイジーが俺の存在に気づくと、パッと顔を輝かせ「クラリス様のエスコートをお願いします」と言った。

 俺は頷いてから、馬車に近づいた。


「エディアルド様……」



 馬車の中から出てきたクラリスが俺の名前を呼ぶ。

 思わず、息を飲んだ。

 彼女が綺麗な女性であることは最初から分かっていた。

 だけど、今日のクラリスはこの世のものとは思えないくらい美しかった。


「クラリス」

 

 俺はクラリスの手を取って舞踏会会場へエスコートする。

 デイジー兄妹がそれに続き、護衛としてウィストとソニアが並んでその後ろを歩く。


 く……彼女に見惚れて転ばないようにしないとな。

 し、しかし視線を外すことができない。

 彼女をずっと見ていたい。くそ……何故この世界には写真がないのだ。彼女の姿を永久に記録したいのに。

 

 俺たちが会場に入ると貴族たちがざわついた。


「おお、エディアルド殿下がクラリス様を連れて戻って来られた!」

「な……なんと、あの方がクラリス令嬢!?」

「絶世の美女ではないか!誰だ、不細工だとかいい加減な噂を流した人間は」


 沢山の視線の矢がこっちに飛んでくる。

 もちろん俺たちだけじゃなく、後ろに続くクロノム兄妹、そしてウィストたちにもその視線は向けられる。

 

「あの眼鏡を掛けた令嬢は、クロノム公爵家令嬢、デイジー=クロノム嬢ですね」

「クロノム公爵令嬢!?……と、ということはエスコートしている方は、アドニス公爵令息ですか」


 着飾ったクロノム兄妹も絵に描いたような美しさだからな。

 後ろに続く護衛、ソニア、ウィストも共に容姿端麗だ。


「先ほどからエディアルド殿下と共にいるあの若者は?」

「あれはこの前、グリフォンを生け捕りにしたウィスト第一部隊副隊長だ。その驚異的な強さと統率力を買われ、第一部隊の副隊長に抜擢されたそうだ」


 実行部隊に入隊して以来、ウィストは目覚ましい活躍を遂げていた。

 第一部隊副隊長にあたる人物が老齢により引退する際、彼は新人であるウィストを次期副隊長に指名した。

 そのことは騎士団の間で衝撃が走ったとか。

 反対の声ももちろんあったそうだが、将軍であるロバートがウィストの実力に太鼓判をおしたので、その声はすぐに消えたという。


「あの背の高い美しい女性は?」

「彼女は第七部隊副隊長のソニア=ケリーですね。女性で副隊長にまでのぼり詰めたのは、今の所彼女だけだそうですよ」


 ソニアはソニアで、女性初の実行部隊副隊長に就任し話題になっていた。

 比較的女性騎士が多く所属している部隊ではあったが、それでも実力のある男性騎士たちもいる中で、女性が選ばれるのは稀なこと。

 彼女は騎士を目指す女性にとって憧れの的になっていた。


「クラリス=シャーレットか……成る程、エディアルド殿下が夢中になるのも分かる」

「あれほどの美女、そう簡単には手放すまいよ」


 苦々しい顔でこっちを見る貴族たちも多いが、素直に賞賛する貴族たちも少なからずいる。

 しかも俺という相手がいることが分かっていながらも、彼女に熱視線を送る貴公子が何人もいる。

 恋をしてしまったら、周りが見えなくなってしまう人間は一定数いるからな。俺の恋人は誠に罪深い。


 俺たちもまた国王陛下とテレスたちに挨拶をすべく、玉座へと向かった。

 第二側妃の視線が痛い。突き刺すような視線だけはやたらに感じる。俺はお辞儀をしているから、今彼女がどんな表情をしているのか分からない。

 しかし、お辞儀が終わり俺が顔を上げた時、テレスは既に淑やかな笑顔を浮かべていた。

 ……前世だったらなかなかの名女優になれたのではないだろうか。

 

 




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