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第48話 悪役たちはダンジョンを攻略する④~sideエディアルド~

 そこに現れたのは、魔術教師ケープスの姿ではなく、捕縛魔術に捕らわれた宮廷魔術師、ベリオース=ゲインの姿だった。

 まさか別人が教師になりすましているとは思わなかったのか、アーノルド達も驚愕する。

 ベリオースは、憎々しげな目でこちらを睨み付け、声高に訴えてきた。



「わ、私は今日、代理で此処に来たのです! そんな私を貴方は、クビにしたばかりか……こんな乱暴なことを! やはりエディアルド=ハーディン殿下は王太子には相応しくない!!」

「俺が王太子に相応しいかどうかは置いておいて、あんた、ダンジョンにドラゴンがいることに気づいていたよな?」

「……いや、それは」

「マイヤー先生の代わりに教師としてここに来たんだろ? 気づいていなかったとしたら、とんだ無能だし、気づいていて放置していたのであれば、職務怠慢だ。このことは父上に報告しておく」


 俺の言葉にベリオースは顔を蒼白にし、その場に土下座をして、額を地面にくっつけて懇願をする。


「お、お許しを!何卒、陛下には内密にっっ」

「俺が殺され掛けたのに内密に? 王族をなんだと思っている?」


 アーノルドは何が起こったのか分からないのか、俺とベリオースを交互に見ている。

 他の生徒たちも土下座をする教員にざわざわとしていた。

 するとコーネットが不自然なほどにこやかに笑って言った。


「上級者向けのダンジョンとはいっても、学生の授業の一環として使われるダンジョンです。学校側は生徒に危険が及ばないよう、一定のレベル以上の魔物はあらかじめ駆逐しておかなくてはいけないのに、Sランクの冒険者が対処するべき魔物が残っていたことは重大な問題ですね」


 その言葉を聞いて、アーノルドのパーティーもざわつく。

 もし自分たちが反対のダンジョンを選んでいたら、自分たちがドラゴンと戦う羽目になっていたからだ。

 ベリオースはそうならないように、アーノルドたちを安全なダンジョンへ誘導していたのだが、忖度を受けた本人達はそれに気づいていない。

 アーノルド側の人間にまで非難の目を向けられたベリオースは、土下座の状態のまま縮こまっていた。

 そんな彼に追い討ちをかけるようにデイジーも言った。


「そしてそんな危険な魔物を残したダンジョンに王族、貴族の子弟を入れたことは重罪にも値しますわ。私も父に今日のことは報告しておきますね」

「ど、どうか宰相様には内密に」

「あら。私が殺されかけたことを、どうして父に秘密にしなければならないのですか?」

「――――」



 デイジーの声がこの上なく冷ややかなものになった。

 ハーディン王国の宰相、オリバー=クロノムは鋼鉄の宰相と呼ばれる一方、娘を溺愛しているという噂だ。

 鋼鉄の宰相が、娘を危険にさらした人間を許すとは思えない。

 ベリオースの顔はすっかり真っ青になっていた。


 いくら俺を殺す為とはいえ、宰相の娘まで巻き込んだのは間違いだったな。もしデイジーがダンジョン探究中に運悪く死んだとしても、テレスがうまくもみ消してくれるとでも思っていたのだろうか? 


 俺がベリオースを解雇しても、テレスは結局何も言って来なかった。

 授業料を受け取っておきながら、第一王子の教育を怠っていたという噂が宮廷に広まっていたからだ。多分、ジョルジュあたりが広めたんだろうな。

 テレスはベリオースを庇うどころか、アーノルドの魔術師範役も解雇した。

 ベリオースを解雇する際、恐らくテレスは彼にこう命じたのであろう。


 名誉を回復したいのであれば、エディアルドを始末するように、と。


 もし俺たちがダンジョンで死んだとしても、テレスがベリオースを庇うことはなかっただろう。

 全ての罪を彼に被せた上で口封じをしたに違いない。



 ベリオースが助けを求めるかのようにアーノルドの方を見た。

 しかしデイジーの話を聞いたアーノルドは、軽蔑の眼差しを元師匠に向けている。


「そんなことがあったとはね……先生が職務怠慢で兄上に解雇された時は信じられなかったけれど、今の話を聞いていたら納得だよ。一体何をやっているんだ?」

「わ、私は、その、テレス妃殿下に命令されて」

「母上に何を命令されたんだ? でまかせを言ったらその場で処刑だよ?」


 アーノルドはベリオースに剣を突きつける。

 純粋な主人公様は、母親が暗躍していることを知らずにいる。小説でもテレスは息子を王に据える為、汚れ役を買って出ていることが、サラッと書かれていた。

 当然ベリオースは口をぱくぱくさせたまま、何も言えなくなる。


 事実を言えないのも無理はない。恐らくテレスからは俺を殺すよう命じられているのではないかと思う。

 アーノルドは母親に鬼のような一面があることなど信じはしないだろう。ベリオースは真実を喋った瞬間、アーノルドに処されることが分かっているから言えずにいるのだ。


「まぁいい。あとは王室が追って沙汰を下すだろうから。兄上が無事だったのは本当に幸いだったよ」


 心底安堵したような表情を浮かべ、俺の方を見るアーノルド。

 思慮はまだまだ足りない部分はあるが、根は悪い人間じゃないことは分かる。何だかんだ言っても血の繋がった兄弟だからな。俺だって異母弟と敵対するような関係にはなりたくない。

 アーノルドが王になるにしても、出来るだけ穏便な形で身を引こうと俺は思う。


「クラリスも兄上のことを守ってくれてありがとう」

「恐れ入ります。私は大した事はしておりません。むしろ私の方がエディアルド様に守って頂いていた程で」


 礼を言うアーノルドに対し、意外だと思ったのか一瞬驚いたような表情を浮かべたクラリスだが、すぐに気を取り直し、胸に手を当てて頭垂れた。


「君がいなければ兄上は生きて帰って来なかっただろう」

「いえ、全てはエディアルド様の指示がなければ、皆無事に帰ってくることはなかったと思います」


 クラリスの答えにコーネットやデイジーも同意するかのように頷く。しかし、多分心の奥底では俺のことを見くびっているであろう、アーノルドは可笑しそうに笑う。


「そんなに兄上を立てなくてもいいんだよ」

「……」


 クラリスは一瞬、苛っときたようで、眉間に皺を寄せたが、すぐに愛想笑いを浮かべてみせる。いかにも作った営業スマイルなのだが、空気が読めないアーノルドはそんな彼女の笑顔に目を奪われ、惚けたように見詰めている。


 こいつ、まさかクラリスの事を……。


 おいおいおい、主人公が悪役令嬢に惚れるって――そういうよくある設定は、この場ではやめてくれよ。

 言っておくが、クラリスをお前に渡す気は全くないからな。

 お前はヒロインのミミリアがいるだろ? 二人で勝手に幸せになってくれ。

 絶対にこっちを巻き込むんじゃないぞ!? 



 ◇◆◇


 こうして俺たちのダンジョンの課題授業は無事に終了した。

 ちなみにマイヤー先生とケープス先生はネズミの姿で見つかったらしい。

 独身寮の部屋が同室だった二人は、一年生のダンジョンはどのようなものを用意するか、相談し合っていた所、宮廷魔術師であるベリオースが、突然自分たちの部屋に押しかけて、二人をネズミの姿に変えてしまったのだという。

 そしてベリオースはケープスの姿に変身し、学校には体調をくずしたマイヤーに代わり、自分が一年生の実技を受け持つと申し出たそうだ。


 ネズミの姿に変えられた二人の魔術教師たちは、小さな箱に詰められ井戸に投げ捨てられたそうだが、幸い井戸は水が涸れた状態。しかもやわらかな土がたまっていた為、ネズミたちが溺れて死ぬことも、身体を打ち付けて死ぬこともなかったという。

 井戸のロープをつかって何とか地上に戻った教師達は、学園長の下へ行き魔術を解いて貰ったのだという。


 ベリオース=ゲインはその後、前世で言う警察の役割を担う、宮廷捜索隊たちによって指名手配を受けることになった。

 しかし、彼の姿を見た者は誰もいない。

 鋼鉄の宰相が密かに鉄槌を下したか、またはテレスが口封じの為に奴を始末したのか。

 どちらにしても、この世にはもういない可能性が高い。


 アーノルドのパーティーは、ダンジョンを早々とクリアし、決められたアイテムも回収、それ以上にレアなアイテムも手に入れたので優秀な成績をおさめた。

 俺たちのパーティーは、制限時間ぎりぎりだったものの、決められたアイテムの回収もすませ、その上、世界中の魔術師を震撼させるレア魔石の回収により、追加点が加算された。

 総合得点は俺とアーノルドのパーティーは満点。一位が二組でるという結果になった。


『第一王子は先輩に助けられたな』

『婚約者のクラリスの力も大きい』

『いやいや、そういった人材を集めた第一王子の力は侮れないぞ?』

『でもアーノルド殿下の人望には叶うまい』


 学園内は俺やアーノルドが、かつてない成績でダンジョンをクリアしたことで話題がもちきりだった。相変わらずアーノルドを称える声が大きいが、A組のクラスメイトたちは、興味津々といった感じでダンジョンで起こった出来事を聞きに来た。

 俺たちがドラゴンと戦ったという話は、その後学園の伝説となったのだった。






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