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第39話 悪役令嬢とラブラブポーション②~sideクラリス~

「じょ、ジョルジュ、ちょっといい……?」


 しばらくして顔を赤らめたヴィネが恐る恐る部屋から出てきた。

 するとジョルジュは勢いよく立ち上がり、足早に彼女に歩み寄り、どんっと壁を叩いてヴィネの顔を覗き込んだ。


 おおおお、あれが噂の壁ドン!


 生まれて初めて生で見た! 本当にやっちゃう人がいるんだ。


「色々と聞きたいことがあるんだが……」

「事情は後で話すわよ」


 顔を近づけて問い詰めるジョルジュ。顔を背けるヴィネ。

 甘いマスクの持ち主である魔術師と、妖艶な美女である薬師はとても絵になる。

 私とエディアルド様は完全にラブストーリーのドラマを見るようなノリで二人のことを、固唾を飲んで見守っていた。


「今じゃなきゃ困る。この責任、どうとってくれるんだ?」

「じ、時間が経てば効果がきれるわ」

「馬鹿を言うな。この薬は発火装置のようなものだ。元々くすぶっていたものに刺激を与えたらどうなるか分かっているだろ。この炎は時間の経過だけじゃ消えない。この際だから今日こそ俺の気持ちに応えてもらう」

「……」


 ヴィネは顔を真っ赤にしながらも、しばらく何かを考えるように黙り込んでいた。

 ラブラブポーションは想い合っている相手にしか効かない筈よね? 

 ジョルジュがヴィネのことを好きなのは分かっていたけれど、ヴィネも同じ気持ちだったってことかな。

 ヴィネは私たちに顔を見せないように俯いてから、小声で言った。


「……今日は自習にする。私はジョルジュと一緒に出かけてくるから。ジン、店番たのんだよ」


 そう言ってヴィネはジョルジュの腕を引いて出て行ってしまった。

 事情が分からないエディアルド様とジン君は戸惑うばかり。その時店の方でお客さんが呼ぶ声が聞こえてきたので、ジン君は部屋を出て行った。

 彼が部屋のドアを閉めたのを見て、エディアルド様は私に尋ねてくる。


「君は何か事情を知っていそうだね、クラリス」

「え……何のこと?」

「ジンが苺のシロップを入れたという話をした時、すごく驚いた顔をしていたから」



 よ、よく私の顔を観察していらっしゃる。ジン君の言葉を聞いてギョッとした私の顔を見ていたのね。

 エディアルド様は私の顎を持ち上げて、ささやくような声で問いかけてきた。


「知っていること、教えてくれる?」

「……っっ!?」


 言えるわけないじゃない!! 

 だって、そんなこと言ったら、私とエディアルド様のキスのくだりまで話さなきゃいけなくなる。

 そんな恥ずかしすぎること言えるわけ――


「クラリス、どうしたの? もしかして恥ずかしいことなの?」

「!!!???」


 ど、ど、どうしよう。

 ここで黙っていたら、怪しまれてしまうっっ!!

 も、もしかしたら婚約者に黙って媚薬を作ろうとしている変態女に思われるかもしれないじゃない。


「クラリス、恥ずかしがらなくていいから……ね?」


 ……ね?

 は、反則でしょう!!


 優しい笑顔という何ともタチの悪い圧力に負けて、私は正直にラブラブポーションのくだりをエディアルド様に話した。

 決して、私が望んでそれを作ろうとかしていたわけじゃありませんぞ! あくまでヴィネのおせっかいだから! 

 事情を聞いた彼は何とも言えない苦笑いを浮かべる。


「まぁ、お互いに恋愛感情がなかったら、ラブラブポーションを飲んでも効果がない筈だからな。効果があるってことは、両想いと見ていいだろう。先生たちもいい大人なんだし、放っておけばいいとして」


 エディアルド様は私の方を見た。

 そしてそっと右の手で頬に触れ、私の目を見詰めてくる。


「媚薬なんか俺には必要ない」

「―――」


 そう言って彼は私の唇にキスをした。触れあうほどの軽いキス、お互いの唇の柔らかさと温かさが感じ取れる、そんなキスだった。

 ジン君が戻ってくる足音がしたから、すぐに唇を離したけれど、エディアルド様は人差し指を唇に当て、内緒というジェスチャーをした。


 その姿も絵になるくらい格好よくて。

 き、キスくらい前世の恋愛でもしたけど……全然違うっっ!!

 ドキドキしすぎて、胸が爆発しそう。

 今日安眠できる自信が全然無い!

 ジン君が戻ってきてからも、私は顔の火照りを冷ますことができずにいた。


「クラリスさん、

どうしたの? 部屋、暑い?」


 顔を真っ赤にしている私に気づき、ジン君は首をかしげる。

 私はブンブンと首を横に振って、にこやかに笑って言った。


「今はとっても身体が温かいの。ジン君がくれたお茶が美味しくて一気に飲んじゃったせいかも」

「僕が入れたお茶、美味しかった?」

「うん、美味しかった。ありがとう、ジン君」



 顔を赤くしたまま、なんとか誤魔化す私に、横にいるエディアルド様がクスクスと笑っていた。

 ううう、ジン君がいなかったら背中をポカポカ叩いてやりたい! 

 

「ジンは紅茶を淹れるのがうまいな」

「ほ、ホント!?」


 褒められて、嬉しそうな顔を浮かべるジン君に、エディアルド様はにっこり笑ってティーカップを軽く持ち上げて言った。


「ああ、もう一杯欲しいくらいだ」


 するとジン君は頬を上気させ、何度も首を縦に振ると「すぐに作ってくるねー!」とはりきった声を上げ、隣の調理場へ行った。

 そして部屋の中は再び二人きりに。

 ま、また胸が高鳴ってきた。

 自分でも顔が熱くなっているのが分かる。

 エディアルド様は何も言えず俯いている私を抱き寄せて、もう一度顎をくいっと持ち上げてきた。


 に、二回目のキス。

 今度は、何度か唇が触れあう長いキスだ。


 自分からキスしておいて、エディアルド様の顔も赤い。

 しかも嬉しそうな顔して……女の子とキスするの、初めてなのかな。

 いくら馬鹿王子と言われてきた人とはいえ、それだけ顔が良くて、しかも王族だったら、多くの女性が寄ってきたと思うのだけど。

 エディアルド様はぎゅっと私を抱きしめてきた。


 そういえば、小説のエディアルドもミミリアが初恋だったんだよね。

 初めての恋。いつも憂鬱な学校もミミリアと出会ってからは楽しみになっていた。

 彼女が笑いかけてくれるだけで、エディアルドは幸せだった。

 ミミリアの心がアーノルドのものじゃなかったら、エディアルドは闇落ちしなかったのかもしれない。

 

 エディアルド様、私はあなたを孤独にさせたりはしません。

 絶対にあなたを闇黒の騎士にはさせない。


 私はエディアルド様の背中に手を回す。

 

 ――きっと、今のあなたなら大丈夫。だってあなたはもう孤独じゃない。

 私だけじゃなくて、ジョルジュもいるし、ウィストもいる。ヴィネもあなたのことを弟みたいに思っているから。

 ジン君がこっちにやってくる足音がしたので、エディアルド様は抱擁を解いた。


「今頃、ジョルジュたちもデート中かな。メルン公園も花が見頃だしな」

「……」

 

 まさかこんな形であの二人の距離が縮まるとは思わなかったけど……お互いが想い合っている上で距離が縮まったのだから、素直に祝福すればいいのかな。

 ジョルジュの過去のことを考えると、ついつい小姑な自分が出てくるみたいで、私は思わずぼそっと呟いた。


「ヴィネを泣かせたら絶対に許さないけどね」

「ヴィネが泣くことはないと思うよ。ジョルジュが泣くことはあるかもしれないけど」



 エディアルド様が言うのなら、そうなのかな。

 ジョルジュが今、ヴィネに夢中なことは確かだ。小説でも本気で好きになった女性にはすごく一途だったものね。

 ジョルジュの気持ちを信じて、今は素直に祝福することにしよう。



 ジョルジュ=レーミオが宮廷魔術師の独身寮を去ったのはそれから一ヶ月後のこと。

 ヴィネの家で暮らすことになったらしい。

 元々、独身寮には帰らず、ヴィネの家に居座っていたことが多かったみたいだけどね。

 ヴィネと出会ってからジョルジュは飲みに回るようなことはなくなったし、他の女の人に目移りするようなこともなくなった。

 

 小説ではミミリアと出会ったことでジョルジュは変わったけれど、この世界ではヴィネがその役割を果たしている。

 これでジョルジュがヒロインを庇い、命を落とす確率はぐんと低くなった。そうなるとヒロインを庇う人がいなくなっちゃうけど、誰かが犠牲になるような展開にならないよう、今がんばっている訳だから、そこは気にしないようにしよう。

 


 




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