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第34話 悪役王子と無名の騎士①~sideエディアルド~

 はっきり言ってしまおう。

 俺の婚約者クラリス=シャーレットは可愛い。

 まず笑う顔が可愛い。

 真面目に勉強をする姿も可愛いし、不思議そうに首を傾げる顔も可愛い。

 そしてどこか不安そうに俺を見詰める目も、抱きしめたくなるくらいに可愛い。


「エディアルド様、一人で魔物を追いかけるなんて無茶をしないでください」

「ちょっと油断していたからな。まぁ、軽い引っかき傷だし、ほっといても治るから」

「ちゃんと治療しなくてはいけません!」


 怒る顔も可愛いんだよなぁ。

 しかも俺のことを思って怒ってくれているのだから、ますます愛しくなる。

 最近、学校が始まる前の早朝にウィストと共に、魔物退治をするようになった。

 戦闘力、経験値を上げるにはやはり実戦を重ねるのが一番だからな。

 しかし今日は魔物を深追いしてしまい、思わぬ反撃をくらったのだ。

 とはいっても猫系の魔物に軽く腕を引っ掻かれただけなのだが。

 何事もなかったかのように学校へ行くと、俺の怪我を見つけたクラリスはすぐに治癒魔術で俺の傷口を塞いでくれた。クラリスの治癒魔術の実力は魔術師の中でもトップクラスといってもいい。ひっかき傷など一瞬でなかったかのように治してしまう。


 しかもヴィネ直伝の質の良い上回復薬もくれるので、どんなに疲労困憊になった身体でも、元気な身体を取り戻すことが出来る。

 クラリスが作る上回復薬は即効性がある上に力が漲る。万能薬に近い上質なクラリスの回復薬はかなりの高値で取引されているのだとか。


 傷が治ってほっとする婚約者の顔を見て、俺はじーんと幸せを感じてしまう。

 前世は順風満帆な人生で、突然不慮の事故で死んだ時には理不尽に感じたものだが、今はこの世界に生まれ変わって良かったとさえ思っている。

 前世にはなかった女の子との青春の日々に、俺の毎日は充実している。

 

 クラリスは我が侭で傲慢という噂を真に受けていたクラスメイトたちも、最初は遠巻きにクラリスのことを見ていたが、俺と仲よく話をしている姿や、真面目に授業に取り組んでいる姿、それにクラスメイトのソニアの怪我を回復魔術で治したことや、他の生徒達にも親切にしている事が知れ渡り、次第に噂が間違いであることに気づき始めた。

 そして、いつしかクラリスの周りにはクラスメイトたちが話しかけるようになっていた。

 まぁ、一部の生徒はその様子を苦々しく見ているんだけどな。


 俺は俺で有能な騎士や魔術師たちを見極め、自分の味方に引き入れるべくクラスメイトとの交流は積極的に行った。



「エディアルド殿下、先ほどの実戦授業で旋風を繰り出しておりましたが、あれはどうやるのですか」

「ああ、魔力の集中とタイミングにコツがいるんだ。風向きを読むのも大事だぞ。君は将来魔術師になるのか?」

「いえ……家が代々騎士なので、自分も騎士になるつもりなのですが、魔術にも興味があって」

「もしその気があるのなら、宮廷魔術師になる為の勉強をしたらどうだ? 君は騎士よりは魔術師の方が向いていると思うよ」

「ですが、我が家は騎士になるのが当たり前な風潮なので」

「もし両親が反対するのであれば、俺からも説得する。出来るだけ魔術の勉学に集中できるよう支援する」

「あ、ありがとうございます!自分の一存では難しいかもしれませんが……だけど、可能なら是非!」


 世間話をしている内に、授業内容のことや魔術のコツなど聞かれるようになり、さらに悩み相談、進路相談までするようになっていた。

 ただSクラスの人間は殆どアーノルドの信者、そしてAクラスの中にもアーノルド側の人間がいたので、なかなか人脈を広げるのは難しい部分もあった。

 とりあえずは親交のある生徒たちを有能な人材に育てることから始めないといけないな。

 Aクラスは文武両道のSクラスと違い、実力に偏りがある人間が多いものの、その特技を極める方向へ持って行けば、学園を卒園したと同時に即戦力となる。

 先ほど話をした生徒のように、家業とは違う、向いている職業に導くのも悪くない。

 その為には就職先の伝も作っておきたいところだな。

 宮廷内であれば、王子の権限を使えば大抵のコネは通じるとは思うが、冒険者ギルドや商人ギルド、情報屋ギルドの伝も作っておきたい。

 とにかく俺の周りを使える人材で固めることが重要だ。

 カーティスは一応俺の側近ということになっているのだが、休み時間になると、教室を出てどこかへ行ってしまう。

 まぁ、大方アーノルドに俺の近況を報告しているのだろう。


 周りを有能な人材で固めることも大事だが、俺自身も精進しなければならない。特に実戦で使える戦闘能力をものにしたい。その為には自分の実力を高めてくれる稽古相手が必要だ。


 その相手として目を付けたのがウィスト=ベルモンドだった。


 小説では脇役だが、魔物の軍勢をたった一人で半壊させた猛者。

 現時点では平民上がりの騎士の息子という身分の低さと、小柄な体型のせいでクラス内では舐められた存在だ。騎士団に所属しているものの、なかなか実力を発揮する場がないせいで認めてもらえず、実行部隊に入れて貰えない。

 実行部隊とは騎士団の中でも認められた実力者しか入ることが出来ず、大体はスカウトされる形で入ることが多い。

 ただ実力はあっても、それを推薦してくれる人や、スカウトしてくれる人がいないと実行部隊には入れないのだ。


 俺はウィストが誰よりも強いことを知っている。そしてその強さを生かす地位に就かせるつもりだ。


 アーノルドには劣るかもしれないが、俺自身も剣術は嫌いじゃない。記憶が蘇る前も、毎日剣の稽古だけは怠っていなかった。

 しかも決まった騎士を相手にしていない。毎日、違う騎士に稽古をしてほしいと頼んでは手合わせをしている。そしてその騎士の戦い方や特徴を学び取ろうとしていたようで、エディアルドの記憶には膨大な戦い方のデータが収納されている。

 尤も、アーノルドにべったりな一部の騎士との稽古は避けていたみたいだけど。


 小説を読んでいなかったら、俺がウィストに声を掛けるなんてことはなかっただろうな。

 最近ではウィストと共に魔物退治をしに行くことにハマっている。ジョルジュも気が向いたら参加することがある。経験値も得られるし、何よりお金になる。

 倒した魔物は冒険者ギルドの館に持って行くと高く買ってくれるのだ。

 俺自身の小遣いも増えるから一石二鳥。

 貴族のおぼっちゃま騎士が相手だと、魔物退治なんか付き合って貰えそうもないので、本当にウィストの存在は有り難い。


 その日の休み時間も中庭に出るとお互いに向き合い剣を構えた。

 俺が腰を据え、かまえを変えると、それまでおどおどしていたウィストの目が鋭くなる。

 仔犬はその瞬間狼に変貌する。

 ウィストは俺が手加減出来ない相手、油断していたらやられる相手だと心得ている。俺もそれだけの剣技は兼ね備えているからな。

 俺が距離をつめ、剣を振りおろすと、ウィストはそれを受け止めた。

 く……右手で受け止めやがったよ。

 俺は両手で剣を振り下ろしたのに対し、彼は軽々とそれを受け止めているのだ。

 言っておくが、俺が弱いわけじゃない。こいつがとんでもなく馬鹿力なのだ。

 他の騎士は、俺の攻撃を両手で受け止めていた。それくらいの重みはあるはずだ。

 力の差が歴然としていることが分かっている以上、剣の押し合いは賢明じゃない。

 俺はすぐさま後ろに飛び退き、剣を横に薙ぐ。

 当然ウィストも後退し、刃をかわす。

 今度は連続で俺がウィストに斬りかかる。

 しかし悉く避けられ、時々反撃をくらう。俺は振り下ろされた剣を慌てて避ける。

 動きについていくのが精一杯だな。だけど、いいぞ。このスピードに最後までついていけるようになれば、俺の実力は格段と上がるはず。

 夢中になって打ち合いをしている内に予鈴が鳴ったので、俺たちは稽古を止めることにした。


「ありがとう、いい勉強になった」

「滅相もございません!自分で良ければいつでも」


 嬉しそうに頬を上気させるウィストに、俺も自然と笑みがこぼれた。

 本当に人懐こい犬みたいだな。

 彼の実力を学校に通う他の騎士たちが気に掛けてくれると良いのだが。

 俺は敢えて校舎の窓から生徒の目に付くよう中庭を稽古場に選んだ。

 


「知ってる? 昼休みになると第一王子が剣の稽古をしているって」

「ええ~!! どうせ遊びの延長でしょ?」

「それが結構見応えあるみたいよ。時々騎士の子も参加しているんだって」


 俺たちの稽古風景は迫力があるという理由で、時々見物人がくるようになった。

 あと噂を聞いて熱心な騎士は「自分も参加させて欲しい」と申し出る者も。

 噂は次第に学園中に広がり、そのことは弟のアーノルドの耳にも届いたようだった。

 いつものように剣を構えウィストと向かい合っていると、ふと視線を感じたので校舎の方を見上げるとアーノルドが、背後の取り巻き達とじっとこっちを見ていた。

 アーノルドはともかく、背後にいる取り巻き達は怨霊みたいな視線でこっちを見ているけどな。あいつらは背後霊か? 

 俺は肩をすくめてから、ウィストとうなずき合い稽古を再開することにした。

 

 


 

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