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だからあなたも幸せに 最終話~sideクラリスそしてside結唯~

 私の名はクラリス=シャーレット。

 国王になったエディアルド様と結婚して、王妃として忙しいことが多いけれど、とても充実した幸せな日々を送っている。

 ある時から妹のように可愛がっていた私の姪っ子、結唯が夢に出てくるようになった。

 すっかり大人になって綺麗になっていたけれど、彼女は自分が綺麗だという自覚があまりなかった。昔から自己評価が低い子だったのよね。

 しかも私が婚約破棄された直後に亡くなったショックからか、恋愛にも消極的になっていたみたいだった。

 可愛い姪が悩んでいても、何も協力できない、相談にも乗れないことが、とてももどかしかった。

 エディアルド様や大切な仲間たちとも出会えて異世界に転生出来たことには感謝している。

 だけど、前世の家族を置いて死んでしまったことは、とても悲しかった。

 エディアルド様もその気持ちは同じみたいで、二人で前世の話をしている時、時折表情に翳りを浮かべることがあった。


 


 そんなある日、いつもと違う夢を見た。

 結唯が一人の男性から告白されている。

 どことなく大知君に似ている、とても誠実そうなイケメンだ。

 結唯もその人のことが好きみたいだけど、緊張のあまりなかなか告白に応えられずにいた。

 だから私は彼女の背中を押して言ったの。


『結唯、今度はあなたが幸せになって』


 結唯が告白に応えた所で私は目を覚ました。

 隣にはエディアルド様が規則正しい寝息をたてている。

  私は思わずクスッと笑う。

 いつ見ても綺麗な顔だ。

  ずっと見ていたいくらいだ。

 ふと昨日の夜のことを思い出し、かぁぁぁっと顔が熱くなる。


『クラリス、愛しているよ……凄く愛している』

『エディアルド様、私も……その……凄く愛しています』


 触れてくる度にナチュラルに愛してると囁くエディアルド様に対し、未だに愛しているという一言がぎこちない私。

 前世、まったく恋愛をしてこなかったエディアルド様。今世は絶対に後悔しないという気持ちがとても強く、結婚してから、ますます積極的な言葉をかけてくるようになった。

 それに対して、ここまで溺愛されたことがない私は嬉しい気持ちと共に戸惑うばかりだ。

 結婚してから、日中は忙しない日々を送っているけれど、夜はいつも甘い時間が流れている。


 私の視線に気づいたのか、エディアルド様はパチッと目を覚ました。


「ごめんなさい、起こしたかしら?」

「いや……丁度目覚めた所だ」


 そう言って上体を起こし、私の額に口づけをするエディアルド様。

 額から頬、そして首筋にも口づけてから、彼は私をきゅっと抱きしめた。


「エディアルド様?」

「さっきまで不思議な夢を見ていた」

「不思議な夢?」


 首を傾げる私に、エディアルド様は抱擁を解いて、私の両肩に手を置いた。


「前に話したかな? 前世に弟妹がいたことは」

「ええ。妹さんはあの小説を読んでいたのでしょう?」

「そう。夢に登場したのは弟の方だ……あいつも俺に似て奥手だったからな。多分、俺が死んでからも浮いた話が一度もなかったんだと思う。今日見た夢はあいつが生まれて初めて女性に告白している夢だった」

「え……」

「相手の女性は、君によく似ていたよ」

「……」


 エディアルド様の言葉を聞いて、私は目頭が熱くなるのを感じた。

 もし私達が見ていた今の夢が、女神ジュリの計らいだとしたら?


「クラリス……泣いているのか?」


 戸惑うエディアルド様に、私は首を横に振る。

 泣いているけど、悲しみの涙じゃない。

 今や遠くの世界の人となった姪が、ようやく好きな人と巡り会えたことが嬉しかったのだ。


「エディアルド様、私も夢を見ていました……妹のように思っていた私の姪が、あなたに似た男性に告白されて、その思いに応えていた夢を」

「……!?」


 ついにこらえきれず涙をこぼす私をエディアルド様はもう一度優しく抱き寄せてくれた。

 私の姪が、エディアルド様の、大知君の弟と出会い、恋人同士になった。

 何とも言えない不思議な縁を感じた。

 そして私は心の底から願った。


 結唯、どうか幸せに。



 ◇◆◇




 一年後――

 順調な交際を経て、私と瑛吾さんは結婚することになった。

 今日は結婚式当日。

 純白のウエディングドレスを身にまとった私は、お父さんにエスコートされながらバージンロードを歩く。


「綺麗な花嫁さんねぇ」

「二人ともお似合いよ」

「結唯ちゃん、瑛吾くん、こっち向いてー」


 私の花嫁姿を見て両親はもちろん喜んでくれたけれど、一番嬉しそうだったのは、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんだった。

 瑛吾さんのご両親も本当に嬉しそうで、お義父さんは泣き崩れていた程だった。


「結唯ちゃん、瑛吾のことよろしくね!」


 瑛吾さんのお姉さんも現在外国の恋人と婚約中らしい。結婚式は来年ハワイで挙げる予定だ。私にとっては義理の姉になるその人も読書好きで何かと気が合った。

 今度一緒に猫カフェに行って、そこでのんびり読書を楽しむ予定だ。

 式には会社の先輩である池口先輩もいて、受付の菊池さんと共に涙ぐんでいた。

 結婚する前に亡くなった姉さんのことを思っていたのかもしれない。


 今は遠くの世界に住んでいる穂香姉さんに伝えたかった。


 私、山本結唯は初めて好きになった人と結婚します。

 穂香姉さん、私は今、とても幸せです。

 だから心配しないで。


 誰かこの気持ちを姉さんに伝えてほしい。



【OK、伝えとくわね!】



 ……誰!?

 今、私の頭の中に声が響いてきたんだけど!?


「どうした? 結唯」


 きょろきょろ周囲を見回す私に、瑛吾さんは首をかしげる。

 あ……まだ結婚式中だったわ。今は、フラワーシャワーを浴びながら教会を出るところだ。

 よく分からないけれど、なんとなく私の気持ち、穂香姉さんに伝わっているような気がする。

 周りのみんなに笑顔で答えながら歩いていた私たちだけど、瑛吾さんがふと足を止めて驚いたような小声を漏らす。


「兄さん……」


 瑛吾さんが目を見張って通路を挟んで拍手している来客たちの向こうに立つ人物の方へ眼をやる。

 そこには金髪碧眼の青年と、紅い髪にピンクゴールドの瞳がきれいな女性が並んで立っていた。


「ほのか、姉さん……」


 他の人たちには、二人の姿は見えていないみたいだ。

 見えているのは私と瑛吾さんだけ。

 私は瑛吾さんの目から涙が一粒零れ落ちるのを見た。


 穂香姉さんと大知義兄さんが私たちの結婚式を見ている……きっと私が夢で二人の結婚式を見たように、あの二人もきっと。


 そう思うと、私の目からも知らず知らずの内に涙がこぼれていた。




 ◇◆◇


 結婚式からさらに一年後。

 休日、私たちは久々に本屋に立ち寄った。

 目的の本を手に取った時、棚に置いてある一冊の本に目が留まり私は思わずクスッと笑った。


 

「あのね、実は瑛吾さんと出会ったのって、穂香姉さんのお墓参りの時が初めてじゃないの」

「え!?」


 驚きに目を見張る瑛吾さんに、私は棚に置いてある本を手に取って言った。

 クラリスとエディアルドを主人公にした綾小路樹里作の話だ。

 初めて瑛吾さんを見たのは駅前の本屋さん。

 あの時は通りすがりの人に過ぎなかったのに、私は何故かあなたの綺麗な横顔が忘れられなかった。

 今にしてみると私はあなたに一目惚れをしていたのかもしれないわね。


「あの駅前の本屋さんで、この本を買っているのを見かけて……ちょっと印象的だったから」

「印象的? 変な表情でもしていたのかな」

「そうじゃなくて、たまたま、この本が私にとって思い入れのある本だったから。あなたがその本を手に取って嬉しそうに笑ったのがちょっと印象的だったのよ」

「成る程……」


 瑛吾さんは少し考えるように天井を見上げた。

 話そうか、話すまいか迷っているみたいだったけれど、やがて考えがまとまったのか一つ頷いてから話をしはじめた。


「兄さん達の結婚式の夢を見た時、その時の兄さんは今の日本人の姿じゃなくて、金色の髪に空色の瞳をした青年の姿だった。それから穂香義姉さんの姿も紅い髪の毛のピンク色の瞳をした女性だった」

「……うん、そうだね。私もその夢を見ていた」

「この本は姉さんに頼まれて買ったものだったんだけど、表紙に描かれた男女があまりにも兄さん達に似ていたし、二人とも幸せそうな笑顔だったから、つい嬉しくなって笑っていたんだと思う」

「そっか」


 瑛吾さんも私も、家族皆も同じ夢を見ていた。

 穂香姉さんと大知さんが結婚する夢。

 こんなことってあるのだろうか? 

 姉さん達は私たちが住んでいる世界とは違う世界で生まれ変わって、今度は幸せな結婚をしている。

 嘘みたいな話だけど、私はそうだと信じている。

 そうじゃないと何の面識もなかった、私と瑛吾さんが全く同じ夢を見るなんてこと、ないのだから。



「そういえば、この本まだ読んでいなかったな」

「姉さんによると、エディアルドとクラリスが主人公で、二人とも幸せになる話らしい。ミミリアやアーノルドが主人公だった話よりも面白いって」

「クラリスが幸せになる話か、読んでみようかな」


 私はその本を手に取ることにした。

 そして心の中でその本のタイトルを読む。



『悪役令嬢に転生した私と悪役王子に転生した俺』





 END 




 


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