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第18話 主人公は兄の所業を嘆く~sideアーノルド~

 僕の名前はアーノルド=ハーディン。ハーディン王国の第二王子だ。


 十七歳になると王族、貴族は皆、王立ハーディン学園に通うことになる。

 入学するに当たって、教科書だけじゃなくて魔術書、あと魔術師専門の新聞である魔道新聞も読んでおいた方が良いという情報を得ていたので、ここ半年の魔道新聞を取り寄せて、今読み込んでいるところだ。

 そんな中、僕の側近であるカーティスが兄上の近況を報告しにきた。



「兄上が新しい魔術師を迎えた? ベリオースがいるのに?」

「まったく、勝手なことをしてくれて困っているのです」

「兄上も馬鹿だな。もうベリオースに教えて貰えなくなるじゃないか」

「それも自業自得ですね」

 




 やれやれと、僕は大きな溜息をついた。カーティスからの報告を聞く度に、兄の所業に呆れるばかりた。

 ベリオースという魔術の先生がいるにも関わらず、新しい教師を迎え入れるなんて。

 ベリオース=ゲインは親切丁寧に教えてくれる良い先生だと思うんだけど、一体何の不満があったというのだろう? 勝手に新しい魔術師を迎えるって、ベリオースに喧嘩を売っているようなものじゃないか。

 

「エディアルド殿下が新しい魔術師を迎え入れたという噂はすぐに広まり、ベリオースはカンカンだそうです」

「それはそうだろう? 自分を差し置いて新しい魔術師を呼ぶなんて。僕がフォローしてもいいけど、そんなことをしたら、兄上のことだから“余計なことをするな”って言いそうだしね」


 僕は思わず額に手を当て溜息をつく。

 本当に兄上は何を考えているのだろう? 

 初級魔術も少ししか出来ていないのに、先生を変えるなんて。魔術もろくに出来ないままハーディン学園に入学したら、王室はとんだ笑いものだ。



「で、兄上が新しく迎えた魔術師ってどんな人?」

「ベリオースによると、かなり素行が悪く、宮廷魔術師の間でも鼻つまみ者。とても王子を教えられるような器の人間じゃないそうです」

「兄上は人を見る目がないよね」

「あなたとエディアルド殿下とでは雲泥の差ですよ」

「そんなことを言ったら兄上が可哀想だろう?」


 いくら相手が愚かな兄とは言え、さすがに王族に対して言葉がすぎる。カーティスは僕にはとても忠実だけど、王族である兄を軽んじている所はいただけない。

 いつ不敬を言い渡されてもおかしくないのに。

 兄上はああ見えて寛大なのか、不思議とカーティスには何も言わない。幼い頃からともに過ごしているから、情が湧いているのかもしれない。


「あなたはエディアルド殿下に甘いのですよ!」


 カーティスは僕が少しでも兄上の肩を持つような発言をすると不機嫌になる。兄弟なんだから、兄を庇うのは当たり前だ。何故、そこまで不機嫌になるんだか。


 カーティスは兄上を完全に見下している。

 今や多くの臣下が僕の味方に付いていることは知っている。カーティスの実家であるヘイリー伯爵家をはじめ、王太子として僕を推す貴族も多い。

 今までの兄上の所業のことを思えば、カーティスが見下したくなるのも無理はなく、多くの貴族が僕に味方するのも仕方がないと思っている。

 僕自身、王太子は僕しかいないんだろうなと思うよ。

 とはいっても、兄上はやはり王妃様の子であり、第一王子だ。

 勉学や魔術は僕よりも劣っているかもしれないけれど、剣術は同世代の騎士の中ではかなり長けている方だ。


 恐ろしいことに今のうちに兄上のことをとことん潰しておかなければならない、と呟いていた貴族もいる。残念ながらカーティスも近い考えだ。

 僕は兄上を潰すまではしなくても良いと思っている。出来れば兄弟仲よくしていきたいのだけど、そうはいかないのだろうか。

 

「しかもあの我が侭で傲慢なクラリスを自分の婚約者に指名するなんて……僕から婚約者候補を横取りした気でいるのかな?」

「そ、そうですね」


 その点に付いてはカーティスも何とも言えない表情を浮かべている。

 彼が言うには前回のお茶会でクラリスのことを見ていたが、噂ほど傲慢な令嬢には見えなかったという。

 

「どちらかというと、妹のナタリーの方が態度が悪く、我が侭な印象でしたね」


 カーティスの言葉に僕は首を捻る。

 うーん、クラリスとナタリーの噂が混同しているのかな? 名前も似ているし、噂は人伝だから、実は妹のことを指していたのかもしれない。

 しかし、いくら噂とは違っていた人物だったとしても、今更僕の気持ちが変わるわけがない。

 その場で殊勝に振る舞っている可能性もある。妹が我が侭なら、姉も我が侭な可能性が高い。いずれはボロが出るだろう。

 婚約者にするのであれば、もっと心優しい、外見も清楚で美しい女性と結婚すべきなのだ。

 カーティスは大仰に息をついてから話を続ける。

 

「エディアルド殿下は、最近やっとメイドの力を借りずに自分で着替えるようになりましたよ」

「へぇ、良いことじゃないか」

「遅すぎるくらいですよ、嘆かわしい!!」


 そんなカーティスを僕はまぁまぁとなだめる。

 母上は何故、カーティスを兄上の側に置くようにしたのだろう? 兄上の所業を諫めるために彼を敢えて側に置いているらしいけれど、カーティスの口からは兄上の愚痴しか聞いたことがない。

 メイドに身支度をさせているのは父上もそうだし、うちの母上もそうなんだけどな。特に女性は一人じゃドレスを着ることが出来ないんだし。

 僕は自分が着た方が早いと思っているから、自分で着ているだけだ。

 そこまで目くじらを立てて怒ることじゃないと思うけどね。


「今までのメイドはエディアルド殿下を甘やかしすぎていると私が訴えたところ、テレス妃殿下が新しいメイドに変えた方が良いと考え、信頼できるメイドを王妃様に紹介したそうです」

「信頼出来るメイド?」

「エディアルド殿下の自立を促す為に、必要なことのみ行うメイドだそうです」

「メイドに任せきりだった兄上が耐えられるかな?」

「耐えられないようでは困りますので」



 まぁ、不測の事態が起きた時の為にも、ある程度の自立は必要かもしれない。母上もいくら王妃さまと仲がいいからって、向こうの生活に干渉しすぎなような気がするんだけど。

 そもそも兄上がもっとしっかりしてくれたら、母上の手を煩わせるようなことにはならないのに。

 本当に迷惑極まりない。

 もう少し王族としての自覚を持って欲しいものだ。




 翌日。

 僕は宰相であるクロノム公爵に用事があったので、執務室へ向かって足早に歩いていた。階段を降りていたところ、兄上の部屋の前でメイドたちが立ち話をしているのが見えた。

 何か報告し合っているのだろうと思い、さして気に留めていなかったけれど、用事が終わった小一時間後に階段を昇ろうとした所、メイドたちはまだ話を続けていた。

 しかも立ち話じゃなく、側に設置されている椅子に座り込んでいた。

 彼女たちは僕の存在に気づくと、慌てて立ち上がり頭を下げた。


「君たち仕事はどうしたの?」

「わ、わたしたちは、今休憩中なのです!! もう少ししたら業務を再開いたします」

「長い休憩だね」

「え……エディアルド様の計らいで」


 僕が尋ねると、彼女たちは頭を下げたまま上ずった声で言った。

 兄上の計らい?

 いくら何でも休ませすぎじゃないのか?

 僕は首を傾げたくなったが、でもまぁ、兄上がメイドの力を借りずに、自分自身の力でやろうとしているのかもしれないし、あまり口出ししない方がいいか。


 三日後――――


 母上が紹介したという兄上専属の新しいメイドたちは、配属二日で解雇されたという噂を聞いた。

 廊下でずっと喋っていたあのメイドたちのことだ。

 あれは長い休み時間を与えていたわけじゃなくて、実際は部屋から追い出されていたのだろうか?


 それ以降、兄上の世話をするメイドは一人もいないという。誰も兄上の世話をしたがらないのだ。あんなにメイドに頼りっぱなしだった兄上が、たった一人でやっていけるのだろうか?

 何だか心配だ。






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