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最終話 悪役令嬢と悪役王子に幸あれ~sideクラリス~

 エミリア宮殿にある一室にて。

 私はエルダにネイルアートを施してもらっていた。

 今日の為に伸ばした爪を整え、綺麗に磨いた後、ベースカラーを塗ってもらう。

 今回は白を基調とし、ピンクのスイトピーの花模様、クリスタルのストーンを遇ったデザインだ。


「本当に、いつ見てもミュラー卿が描くネイルアートは素敵ですね」

「私の結婚式の時も是非お願いしたいわ」

「私も自分で塗ってみたのですがミュラー卿のようにはなかなか……」


 私の爪を見て華やぐメイドたち。

 ネイルアートは今、貴族女性を中心に徐々に流行りはじめている。

 嬉しそうに私の爪を塗ってくれるエルダ=ミュラーの姿を見ていると、これからも職業の幅を広げて行く必要性を感じずにはいられなかった。


 四守護士の一人だったエルダは、エディアルド様が即位した後、私の専属騎士となる。彼は護衛兼ネイリストとして私に仕えることになったの。

 まぁ平和な日が続いている今、九割がネイリストの仕事なんだけどね。

 最近ではネイルアートに興味がある人物を集め、教室を開いているわ。


「さぁ、爪は綺麗に仕上がりましたので、あとはよろしくね!」


 エルダの言葉に側に控えていたメイド達の目に炎が宿る。

 こうなったら私は彼女たちを止めることは出来ない。

 化粧筆を何本も持ったメイド、パフを持ったメイド、ブラシを持ったメイドが私を取り囲む。

 彼女たちは満面の笑みを浮かべて私に言った。



「「「私たちが王妃様を最高に美しい花嫁にしてみせます!」」」


 ◇◆◇


 私とエディアルド様の結婚式を挙げることになったのは、戴冠式から一年。

 復興事業を最優先にしていたから、今になったの。

 国内はまだまだ完全に復興したとは言い難いのだけど、完全な復興後だと挙式は十年後になるって周りに急かされたのよね。


「まぁ……何て美しい」

「この世のものとは思えません!」

「きっと多くの殿方がクラリス様に恋をしてしまいますよ!」


 メイドたちの賛辞の言葉はかなり大袈裟だとは思うけど、鏡にうつる自分の姿を見て息を飲む。


 これが私……? 


 まるで別人のように綺麗になった自分に驚くと同時に、胸が熱くなってきた。

 前世は花嫁衣装に手を通す前に死んでしまったから。

 もし死んでいなかったら、エディアルド様の前世でもある結城大知君と結婚していたのかな? 


「…………」


 ああ……前世のお父さんとお母さんに花嫁姿を見せたかったな。

 これまでずっと前世の家族のことは、考えないようにしてきたけれど。

 今の家族と違って、前世では父と母、それに兄弟からも愛されていたと思う。

 私が死んで前世の家族達はどう思っただろうか……私のことを姉のように慕っていた姪っ子は泣いているかな? 

 ああ、ダメダメ。思い出したら泣きたくなる。せっかくメイクもしてもらったんだから、泣かないようにしないとね。

 私は心の中で、前世の家族達に報告をする。


 今まで育ててくれてありがとうございました。

 あなたたちの家族であったこと、とても幸せでした。


 私、穂香はお見合い相手である結城大知君の元にお嫁に行きます。

 今、とても幸せです。

 だからどうか安心してください。


 この声が前世の家族に届きますように。

 ジュリ神に頼んでおけばよかったな……今からでもお願いできますか? 

 私は心の中でペンダントに問いかけてみる。



『OK!』



 ……え!?

 今の、女神様の声? だとしたら軽っ!

 だけど、もしかしたら今の私の気持ち、何かしらの形で家族に伝えてくれるのかも。

 そうだったらいいな。



 雲一つない晴れやかな空の下、ピンクのブーケを手に、純白のドレスを身に纏った私は、エミリア宮殿入り口から続く、紅い絨毯の道を歩いていた。

 地面まで伸びたベールは正装したジン君が持ってくれている。

 行く先にはオープンタイプの馬車が停まっていて、エディアルド様が待っていた。


「綺麗だよ、クラリス」


 眩しい笑顔を浮かべ、手を差し伸べるエディアルド様。

 いいえ、真っ白な軍服に身を包んだあなたの方こそ美しいわ。

 私は彼の手を取り馬車に乗る。

 するとベールを持っていたジン君が涙ぐんで、私とエディアルド様に言った。


「エディアルド陛下、クラリス妃殿下どうか幸せに」

「ありがとう、ジン君」

「ありがとう、ジン」

「僕は宮廷魔術師になります。エディアルド陛下とクラリス妃殿下をお守りするために」


 小説では宮廷薬師になったジン君。だけど、この世界では父親となったジョルジュへの強い憧れもあって、魔術師になることを選択した。

 ジン君は鼻を啜ってから一礼をして、馬車を見守る観衆達の中にいるヴィネとジョルジュの元へ走って行った。

 ヴィネのお腹は今ふっくらと膨らんでいる。

 近々、子供が生まれるのだそう。

 ジョルジュとヴィネは私たちと目が合うと、嬉しそうに笑って手を振った。

 私たちの魔術の師匠ジョルジュ=レーミオは、後に宮廷魔術師長となる。

 ヴィネと出会う前までは、やんちゃをしていた彼も、良き師として多くの弟子を抱えるようになり、彼の教え子の多くは上級魔術師まで昇格したと言われている。

 ヴィネは宮廷薬師に戻るよう誘いもあったみたいだけど、それを断って、変わらず薬屋をやっている。

 だけど店の場所はレニーの街から王都へ移転し、よろず屋ペコリンの隣に店を構えることになった。

 噂を聞いた宮廷薬師の卵たちがヴィネに教えを請うこともあり、彼女もまた多くの有能な薬師を育てることになる。


 結婚式にはセリオットもユスティ帝国からお祝いに来ていて、戴冠式の時に一緒だった女性騎士もいた。

 二人がこっそり手を繋いでいるのを見て、ちょっとニヤッとしちゃったけどね。

 彼女ならセリオットをしっかりサポートしてくれそうだ。



「クラリス様ーっ!! こっちを見て下さいませっっ!!ああ……とっても素敵です」


 セリオットたちの隣で、嬉しそうな歓声をあげるのはデイジーだ。まるで自分の事のように喜んでくれる友人に、私はくすぐったい気持ちになる。

 彼女の隣には正装したコーネット先輩がいる。

 後に彼は新たに設立した王立魔石研究所の所長に就任。魔石の成分や効能、新種の魔石の分析、さらに魔石製品の開発など、魔石研究者の第一人者となる。

 二人は相思相愛となり結婚も間近らしいけれど、最後のハードルであるクロノム公爵がまだ認めていないみたいなのよね。

 アドニス先輩の後押しもあって、デイジーとコーネット先輩はトントン拍子で婚約までは進んだの。あとは結婚式の日取りを決めるだけなのだけど、クロノム公爵は何かにつけてごねているみたい。

 コーネット先輩の隣にはアドニス先輩、その隣にはいつもニコニコなクロノム公爵が仏頂面だ。

 クロノム公爵……仲睦まじいデイジーとコーネット先輩の姿を見て拗ねているのね。アドニス先輩はコーネット先輩に害が及ばないよう、堤防になっているのかな? 


 ウィストとソニアは、ブルーの騎士服に身を包み、白い馬に騎乗し、私たちが乗る馬車の護衛をしてくれている。

 二人も半年後、結婚式を挙げることになっているわ。私やエディアルド様も式には出席する予定だ。


 白いワンピースを着た少女達がフラワーシャワーを撒く。

 魔術師が唱える風の魔術によって、色とりどりの花や花びらが舞い、私たち周辺を彩る。

 国民達の歓声が響き渡る中、馬車は出発した。

 私は笑顔を浮かべ人々に手を振っていると、どこからともなく声が聞こえてきた。



『悪役令嬢と悪役王子に幸あれ』




 女神ジュリの祝福の声が聞こえてきた。






 FIN




最後までお付き合い頂きありがとうございました。

途中、話が飛んでしまうトラブルがあり、大変ご迷惑をおかけしました。

なにかとそそっかしいもので、色々やらかしてしまいましたが、なんとか完結までたどり着いてほっとしています。

本当にここまで来ることが出来たのは応援してくださった皆様のおかげです。

重ねて御礼申し上げます。

                                         秋作







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