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第173話 天は自ら助くる者を助く~sideミミリア~

 結局、エディアルドは、証人である信者達を見つけることができなかったみたいで、私は北の塔から解放されることになった。

 それでも一ヶ月くらい閉じ込められていたけどね! あー、ムカつく!! 

 塔を出る際、久しぶりにアーノルドが私の元に訪れたわ。


「久しぶりだね、ミミリア」


 ……え? どういうこと?

 何で、アーノルドは神官の服を着ているの?

 王位をエディアルドに渡したとは聞いていたけど、まさか神官になるつもり!? 


 顔がいいから神官服も良く似合うけど、神官って日本で言うと、お坊さんみたいなものでしょ? 

 修行中は禁欲生活を送るって、神官長も言っていたわ……やだ、そんな生真面目な人なんかとは付き合えないわ。

 大体、私を見捨てようとしたことは、まだ忘れていませんからね! 

 アーノルドは無表情で私に告げたわ。


「君とはもう一緒に居ることはできない……」


 そりゃそうよね、私を見捨てておきながら、恋人面なんかできるわけないものね。

 悪いけどこっちから願い下げだわ。

 国王じゃなくなったあなたには何の価値もない。


「いいわよ。綺麗さっぱり別れましょ。私はボルドール家に戻るわ」

「君を可愛がってくれたボルドール家のご両親は亡くなったよ」

「は!?」

「魔族襲来の時、ご両親は君のことが心配で王城に向かっていたそうだ。その道中で魔物に殺された」

「なに……それ」

「ボルドール男爵夫婦は本当に君のことを可愛がっていたんだね」



 何よ……別にこっちは来てくれって頼んだわけじゃないのに。

 私を置いて死ぬんじゃないわよ! 

 これからどうすればいいわけ!? 


「ボルドール家は既に、別の人間が当主に就いている。知らない人間の元に行くよりは、実家に帰った方がいいんじゃないのか?」

「嫌よ!」

「ミミリア……」

「庶民に戻るのなんか嫌! 固いパンしか食べられないし! ワンパターンなママのスープなんかもう二度と食べたくないし!!」

「君の実の親たちじゃないか。しかも君の帰りを心待ちにしているのに」

「嫌よ! あんな貧しい家、絶対戻りたくない!! いいわよ、とりあえずボルドール家に戻るから! 新しい当主にご挨拶をして、家族として迎え入れて貰うようにするんだから!」


 本当に酷いわ、アーノルド。

 私にあんな汚い家に戻れだなんて! 

 あんな家に戻るくらいなら、金持ちの親父の家に嫁いだ方がマシだわ。

 ……何よ、アーノルド、どうして、そんな泣きそうな顔でこっちを見ているのよ。

 泣きたいのはこっちだわ!! 

 あんたがもっとしっかりしていれば、皆に称えられていたのは私だったのに。



 私が城を出たのはそれから一週間後。

 アーノルドはボルドール家に紹介状を書いてくれた。

 私も挨拶の手紙を書いた方がいいって言われたから、一応書いて送っておいたわ。

 アーノルドの話によると、今、男爵家を治めているのは、私の養父だったボルドール男爵の甥に当たる人らしい。

 年は二十代で若いみたい。イケメンだといいけど、あのふくよかだったお義父さまの容姿のことを思うと、あんまり期待はできないわ。

 でも私は聖女だし、それに可愛いから、ボルドール家の新しい当主が誰であろうと、無碍にはしないでしょ。

 男爵邸に向かう馬車の中、私は思案する。

 向かいには護衛騎士がいて、彼は不安そうな顔で私に尋ねてくる。


「……で、ボルドール家に着いたらどうするのですか?」

「まずは新しい当主と仲よくなるわ。それからボルドール家のコネをフルに使って、ユスティ帝国へ行くの」

「ユスティ帝国ですか?」

「そうよ。ボルドール家は貿易の仕事をしていた関係で、ユスティの社交界に出席することが多いの。その社交界に連れて行ってもらおうかなって思って」


 小説のミミリアもボルドール男爵に誘われて、ユスティ帝国の舞踏会に参加したのよ。



「そこでヴェラッド皇子に会うつもり」

「え……でもヴェラッド皇子はつい最近廃嫡されて、斬首刑に処されたと」

「“はいちゃく”って何? “ざんしゅ”って? ?」

「あ……いえ……何でもないです」



 えー、何、呆れたみたいに溜息ついているわけ? 

 私は難しい言葉は苦手なの! 

 小説によるとヴェラッドは愛人が多いけど、顔はいいのよね。とりあえず彼を恋人にして勇者にしたてるの! 聖女である私が伴侶と決めた相手が勇者になるのだから、ヴェラッドだって勇者になれる筈。

 悪役達が違うルートを歩くなら。私だってやってやるわよ。勇者になったヴェラッドと一緒にハーディン王国を攻めてやるわ。

 今だったら魔族との戦いで皆疲れているだろうし、きっとあっという間に征服できちゃうと思うの。


 今に見てなさい、エディアルド、クラリス。


 私があなたたちを支配下においてあげるから。二人とも奴隷にして、ボロボロになるまでこき使って、最後にエディアルドが見ている目の前で、クラリスを処刑にするの。あのムカつく顔を滅多刺しにして、手足を切って、ゆっくり殺すのがいいわね。

 私を敵に回したこと、激しく後悔させてあげる!!


 ふふふ、クラリスの処刑シーンを考えたら、ちょっと楽しくなっちゃった。

 我ながら残酷だわー。でも残酷な処刑シーンってぞくぞくするわよね。

 そんなことを考えていた時、馬車が急に停まった。


 痛っ! 後ろ頭ぶつけたじゃない!! 何なのよ、もう!! 

 車内の窓を開けると……何? 農機具や剣を持った人々が馬車を囲んでいるじゃない。

 そして見覚えのある侍女、ワンザの顔を見て私は「あっ」と叫ぶ。


 こ、この人達私の信者だ! 

 どういうこと?  

 何で信者が私を包囲しているの!? 


「この偽聖女め!!」

「よくも本物の聖女様を俺たちに殺させようとしたな!!」


 に、偽聖女って? 

 私は本物よ!! 


「本物の聖女はクラリス=シャーレット様だった!! 俺は見たんだ、クラリス様が聖なる光を放ち怪物を倒す姿をっっ!!」

「それに白い炎の魔術を使っていた……白の炎は女神の加護を受けていなければ、放つことはできないと言われている」

「お前に騙されてクラリス様を殺そうとした仲間は、その白い炎の壁によって断罪された。お前に騙されたせいで仲間は死んだんだ!!」


 気づいたら私は男達に馬車から引きずり出されていた。

 痛い!! 髪の毛引っ張らないでよっっ!!

 ただでさえ黒炎に燃やされて痛んでいるのに

 何……?

 何で私磔にされているの!?

 あれ?

 護衛騎士の姿がない……えええ!? 私を置いて逃げたの!? 聖女である私を置いてっっ!!


 そこに槍を持った一人の女性が私の前に現れた。

 信者であり私のメイドだった女、ワンザだ。

 彼女は引きつった笑みを浮かべていた。


「この女は聖女なんかとほど遠い女だった! 私や仲間をこき使って、機嫌が悪いと殴ってきて、それに殿下以外の殿方にも色目を使っていたのよ!! こんなふしだらな女に仕えていたなんて」


 な、何を言っているの!?

 ちょっとその槍でどうするつもり!? 

 嫌だ、来ないでよっっ!! 私は聖女よ。危害を加えたら女神ジュリがお怒りになるわ!!

 そうでしょ、ジュリ神。


『あなた、ちっとも私に祈っていなかったじゃない。私の加護なんかいらないってことでしょ?』


 誰?

 知らない女の声が聞こえる。

 聞こえるというよりは、頭の中に直接語りかけてくるような感じだ。

 ちょっと待って。

 女神の加護、いるに決まっているじゃない。私は聖女よ!? 


『Heaven helps those who help themselves』


  ……は!? 

 今、何て言ったの!? 


『あら、ごめんなさい。英語じゃ分からなかった? “天は自ら助くる者を助く”前世、あなたが生きていた世界で使われていた言葉よ。天はつまり神様ってことね。神様はね、人に頼らないで自分自身で努力する人に加護を与えるんですって』


 だんだん女の人の声が遠くなる。

 お腹に激痛を感じたと思った瞬間、私の意識は遠くなっていったから。

 努力って何よ。

 そんなの嫌い。

 努力したくない。楽して贅沢したいから、玉の輿を狙ったんだもん。

 せっかく聖女に生まれ変わったのよ。その地位をフル活用して何が悪いのよ? 

 そんな私の問いかけに、呆れたような声が聞こえてきた。


『あーあ、堕落した魂には何を言っても無駄だったみたいね。ま……信者も信者よね。いくら恨みがあるからって、一人の人間を寄ってたかって大勢で刺し殺すなんて引くわぁ』




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