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第172話 ミミリアの前世~sideミコ~

「ミコちゃんは可愛いなぁ」

「本当に、僕たちの妹とは思えないくらい」

「ミコ、今日は欲しいものはないのかい?」

「ミコ、大好きだよ!」


 私の名前はミミリア。そして前世の名前は中辺ミコ。

 平凡な家庭に生まれたけど、容姿が可愛かったおかげで両親や兄弟たちに、いーっぱい可愛がられて育ってきた。

 小さい頃から男子にモテて、女子からは嫉妬されることも多かったわ。

 苛められそうになっても、大抵、騎士役の男子が現れて、私をかばってくれた。

 小学校高学年くらいから、男子から告白されることが多くなった。

 中には彼女がいるのに私に告白してきた人もいた。

 サッカー部の主将で、すっごいイケメンだったから、彼女がいるって分かっていてもOKしちゃった。

 私がその人と一緒に学校へ行くようになったのを見て、悔しそうな顔をしている元カノの顔を見た時、何とも言えないくらい快感だったわ。

 それからは友達の彼氏とか、後輩が思いを寄せていた人とか、バイト先の先輩の旦那とか、色んな人と付き合ったわ。

 我ながら悪い女だとは思っているけどね。

 病み付きになるくらい気持ちいいの。人のもの奪うのって。

 中には幸せだった家庭を壊されて、ショックのあまり死んじゃった人もいたけど、知ったことじゃないわ。旦那に裏切られるくらい魅力が無い自分が悪いのよ。


 お気に入りのバッグやアクセサリーを買うために、最初はバイトしていたけど、彼氏が買ってくれるから、働くのも馬鹿らしくなったわ。

 ただ付き合っても、長続きしないのよねー。

 破局してもすぐ新しい彼氏ができるから問題なかったけど。



 せっかく可愛く生まれたから、容姿を生かして芸能界に入ろうと思い、いくつかのオーディションも受けたけれど、いずれも予選落ち。

 世の中そんなには甘くなかったわ。

 でも芸能界だけが全てじゃない。今度、私が考えたのは幸せな結婚。

 しかも勝ち組の人との結婚を考えたの。

 私はカフェのアルバイトをしながら、婚活を始めることにしたわ。

 だって婚活ってお金がいるんだもん。

 バッグやアクセサリーと違って婚活代を支払ってくれる彼氏はいないから、仕方なく働きはじめたの。

 バイト先は制服も可愛くて、自画自賛してしまうくらい私に良く似合っていた。

 でもランチタイムの忙しさや、皿洗いやゴミ捨てとか面倒な雑用が多くて、すぐに嫌になっちゃった。

 ある日、仕事を同僚の男の子に押しつけて、仕事をサボったのがバレてバイト先を解雇されたわ。

 婚活をするのにも多少お金がいるから、どうしようかと思っていた所、一流企業の社員である男性と合コンがあるって友達から誘われたので、私は行くことにした。

 本当はお医者さんとか会社社長が良いのだけど、一流企業のリーマンもエリートだし、うまく出世すればセレブな生活だって夢じゃない。

 期待に胸を膨らませ合コンに参加したら、そこで運命の出会いがあった。

 背が高く、スタイルも良い。スーツのセンスも良くて、芸能人かってくらいに、洗練されたイケメンがいたの。


「俺の名前は清水マサヤです。〇〇社に勤めています」


 〇〇社と言えば、CMにも出ているくらい一流企業だ。

 ぜったいこの人のこと捕まえる! 

 私は彼に猛プッシュしたわ。彼もまんざらじゃなかったみたいで、その日のうちに私たちは男女の関係になったの。

 それから何度かデートを繰り返すようになったのだけど、ある日彼にカミングアウトされたわ。

 自分には婚約者がいるって。でも、結婚は君としたいとも。


「彼女、何かと口うるさくてさ。お前は俺の母親かって感じ。その点君は可愛いよな……俺の癒やしだよ」

「マサヤ、どうしてそんな彼女と付き合っているのよ?」

「親が決めた婚約者だったんだよ。そもそも恋愛感情なんかなかったんだよな」


 それを聞いて、私は俄然燃えたわ。

 素敵な男性だし、婚約者が一人や二人既にいるくらい当たり前よね。

 私は彼に振り向いて貰うために、自分を売り込んだわ。私だったら彼女より尽くせるし、疲れた彼の心を癒やしてあげられるって。

 それに彼女の写真を見たけど私より年増だし、顔も整っているけど地味め。

 勝てる自信はあったわ。

 マサヤの心は完全に私のものになり、そして彼は私を紹介がてら、婚約者である女性に別れを告げたの。

 ショックをうけた表情を浮かべる婚約者を見て、私は心の中で「勝った!」と思った。

 私はミミリアのように、困難を乗り越えて愛しい人と結ばれた――――あの時が一番痛快で幸せだったわ。



 でも、やっぱり現実は甘くなかったの。

 婚約者と別れた彼は、あんなにスタイリッシュだった筈なのに髪の毛もやぼったくなり、スーツもヨレヨレ。おまけに無精髭も目立つようになった。

 同棲するようになって分かったことだけど、彼、何にもしないのよ。

 料理もしないし、掃除や洗濯もしない。

 しかもマサヤってば、それは私の仕事だって言うの。料理や洗濯は百歩譲ってしてもいいけど、何であんたが散らかしたものまで私が片付けるわけ!?

 

 しかも会社の仕事を家に持ち込んで、「こんな企画があるんだけど、君だったらどうする?」って尋ねてくるのよ!? 知らないわよ、あんたの仕事でしょ!?

 だけど彼は言うのよ。

 彼女より尽くしてくれるって約束だっただろって。まさか仕事まで手伝っていたなんて知らなかったわよ!

 私が文句を言うと彼は言うの。


「前の彼女は掃除もしてくれたし、会社の仕事も手伝ってくれた。服のアイロンだって毎日掛けてくれたし」


 元婚約者と比較するような事ばっかり言うのよ。

 後で分かったんだけど、元カノは親が決めた婚約者じゃなかったの。れっきとした恋愛で付き合っていたのよ、しかもマサヤが何ヶ月も口説き倒して、根負けしたその人が折れたんだって話を、他の人から聞いたわ。あの大嘘つき!


 そこで私はやっと分かったの。

 あんなスタイリッシュだったのはぜーんぶ、元婚約者がお膳立てしてたお陰なんだって。

 彼女がいなくなったら、身支度の一つも出来ない奴だったんだってことが。



 最初は気が向いたら掃除や料理もしてたけど、前の彼女と比べるようなことばっか言うから馬鹿らしくてしなくなったわよ。

 家はだんだんゴミ屋敷になって、どっちが片付けるかケンカになって。

 そんな暮らしに耐えられなくなった私は、新しい出会いを求めるようになった。

 そしてこっそり行っていた合コンで、本当の運命に出会うの。

 今度はお医者さんで、高収入間違いなし。

 家にはお手伝いさんもいるんですって。

 どうも奥さんと子供がいるみたいだけど、そんなのは関係ないわ。

 彼だって奥さんに不満があったから、合コンに参加したんだと思うの。ということは、もう夫婦仲はとっくに冷めちゃっているってこと。

 それに私、相手がいる方が燃えるタイプなのよね。

 私は新しい彼に会いに行くべく、家を出た。

 いつになくお洒落もして。

 青信号になったので横断歩道を歩いていた所、一台の乗用車が猛スピードでこっちに向かってきた。


 ドン……ッ!!


 私を轢いた車の中には、憎しみの表情を浮かべたマサヤがハンドルを持っていた。

 何でそんな目で見るわけ? 

 あんただって同じ事してたじゃない? 

 婚約者がいたのに合コンに行って、私とデートして。

 今度はあんたが捨てられる番になっただけ。

 それなのに私を轢き殺すって……有り得なくない? 

 ホント、クズ男。

 こんな奴に殺されるなんて。



 私の前世は最悪な形で終わった。

 だからミミリアに生まれ変わったって分かった時には、ラッキーだって思っていたのに。

 何で小説の通りにいかないの?

 今ある現実が小説に忠実だったら、こんなことにはならなかったのに。




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