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第170話 北の塔の尋問~sideエディアルド~

三日後、俺は北の塔の地下にある尋問室に向かっていた。

 そこではテレスの秘書である男の尋問が行われているらしい。

 秘書の身体にはバートンと同様、自白をしないよう呪術がかけられていた。捕らえた呪術師によって呪いはすぐに解けたのだが、秘書はそれから二日ほど昏睡状態にあったらしい。

 呪いが解けた反動で、意識を失うことはよくあることらしく、時にはそのまま目を覚まさないこともあるという。

 バートンも一日気絶した状態だったらしいからな。

 本当は秘書も証人として、裁きの間につれて来る予定だったが、当日まで目を覚まさなかったので、秘書の証言は後日、ということになった。

 もっとも、バートンと呪術師の自白、踊り子の偽証が判明したことで、テレスの罪は確定したので、もう必要ないけどな。

 とりあえず秘書が書いた手記が物的証拠として押収してあるので、内容の裏付けをとるために、今回尋問が行われることになったのだ。

 尋問室の戸をあけた俺は、 なかなかの光景に目を見張った。


 鋼鉄で出来た椅子に座らせられた秘書が、たくさんの毒蛇に囲まれている。

 日本だったら何だか縁起が良さそうな白い蛇が二匹、秘書の首に巻き付き、チロチロと頬やこめかみを舐めている。

 アドニスが自分の肩に乗っている蛇の頭を撫でながら、秘書に尋ねる。


「国王陛下を殺した毒、一部は君のデスクの中から見つかったけど、まだどこかに隠しているよね? 違法薬物の売人から買った量は、もっと多かったみたいなんだけど」

「い、いや……私は一部しか渡されていない……ぐえ!?」


 言い終わらない内に二匹の蛇が、秘書の首を締め上げる。

 相変わらずえぐい光景だな。

 テレスの秘書は、せっかくの美形なのに、げっそりとしていて老人のように見えた。



「ほ……ほんとに……知らないんです……」

「あ、そう。じゃ、他の質問。ベリオース=ゲインって何処に行ったの? あいつ、僕の妹の殺人未遂にも関わっているから、八つ裂きにしてやりたかったんだけど」

「ベリオース…………あ、あれは、別の者の担当なので」

「別の者って誰?」

「それを言ったら、私は殺され……ぐえ!?」

「今死ぬのと後で死ぬのどっちがいい?」


 二匹の蛇がぎゅうぎゅうと秘書の首を容赦なく締め上げている。いや、秘書もいい加減学習しろよ、こいつの前で惚けてもいいことなんか一つも無いことぐらい、もう分かっているだろう?



「はぁー……、はぁー……はぁ……グラップ伯爵です。ケイモス=グラップ伯爵……」

「ああ、自称中立派の方ですか。裏組織の方々とズブズブな関係ですもんね。丁度良かったです。この際だから、ここに来ていただきますかね」


 自称中立派……そういえば、裁きの間で母上のことを、しれっと悪く言っていた奴がいたな。

 母上が重篤だと思って「あの王妃様ならあり得る。少々夢見る乙女のようなお方でしたから」と、あたかも父上を殺した主犯が母上である事を、周りに吹聴していたアイツ。

 テレスの罪が確定した後は、知らん顔していた。ケイモスのことは後で徹底的に調べてやろうとは思っていたが、俺が手を下すまでもなさそうだな。

 どうやらアドニスはケイモスを標的に定めたようだ。


 後に自称中立派のケイモス=グラップ伯爵は、国外逃亡を図っていたが、クロノム家の密偵により、あえなく捕らえられることになる。刑罰は死刑。国内では禁止されている人身売買や、呪術師の斡旋、違法薬物の売買、そして口封じで殺した人間の数があまりにも多かった為、早い段階で死刑が確定したそうだ。

 アドニスはまるで氷のように冷たい笑みを浮かべ、囁くような声で秘書に言った。

 

 

 

「まだまだ、あなたには色々聞きたいことがあるんですよ」

「も……もう許してください」

「ふふふ、テレスの怒りを買い、処刑された使用人の中には、あなたに助けを求めた人たちもいたでしょ? あなた、その人達のこと助けました?」

「……」

「楽しい尋問の時間はまだまだ続きそうですね」



 美貌に満面の笑みを浮かべて、恐ろしいことを言うアドニスに、秘書は白目を剥く。

 この調子だったら、芋づる式で悪徳貴族を捕らえることが出来そうだな。

 近い将来宰相として働くことになっているアドニス=クロノムは、その後テレスの悪事に荷担した貴族や、神殿と結託して私腹を肥やしていた商人や貴族、魔族襲来の際に王城地下に保管してあった薬やアイテムを持ち出し逃亡した騎士達などを捜査および尋問し、有罪が確定次第、鉱山の労働もしくは流刑島への追放、重罪の場合は終身刑及び死刑執行の命を下した。

 父親であるオリバー=クロノムにも勝る容赦のなさに、人々から畏れられるようになったアドニスは、小説の通り、冷徹の宰相と呼ばれるようになった。



 一方ナタリーとカーティスは地下の牢獄に幽閉されていた。カーティスは地下牢の独房に、ナタリーは両親やトレッドと共に大部屋に閉じ込められていた。

 幽閉されてからシャーレット元侯爵と、元侯爵夫人であるベルミーラは喧嘩が絶えなかった。

 お互いに憎み合うようになってから、ベルミーラはナタリーが執事のトレッドの子であることを隠さなくなった。

 

「誰が好き好んであんたの子供を産むものですか! ナタリーは本当に愛する人との子供だったのよ!」


 そう言ってトレッドの腕を両手で抱きしめるベルミーラに、シャーレット元侯爵は血走った目で執事と妻を睨み付ける。


「な……ナタリーが儂の子ではない?」

「そうよ! あんたの子はクラリスだけ。唯一の自分の子供をあんたは嬉しそうに虐げていたのよっっ!!」

「なんだと……なんだとぉぉぉ」


 シャーレット元侯爵はベルミーラにつかみかかろうとするが、トレッドによって腹を蹴られる。

 蹲る元主に対し、執事は冷ややかな声を漏らす。


「頭が悪すぎるのも考えものだ。おかげで私の計画が台無しだよ」

「ねぇ、あなた。全部の罪をこの男に背負わせましょ。私とあなたが証言すれば間違いないわ」


 トレッドに向かって“あなた”呼ばわりするベルミーラに、シャーレット元侯爵は「この売女め」と吐き捨てる。

 そして牢の鉄格子を掴みガタガタ揺らす。


「おい! そこの衛兵! 真の儂の娘、クラリスに伝えろ! 本当の家族はお前だけだ!! だから、儂を助けろ!! 儂はお前を殺そうとはしなかったし、王子の殺害にも関与しとらん!! 儂は無実だ!!」

「へーい、つたえときやーす」


 必死に訴えるシャーレット侯爵に対し、衛兵は欠伸をしながら答えていたそうだ。

 俺も事の次第を衛兵からは聞いているが、絶対にクラリスには伝えるつもりはなかった。

 クラリスが虐げられていたのを黙って見ていたこと、ベルミーラがクラリスを毒殺しようとしていたことを一切咎めていない時点で同罪だからな。

 牢獄でのメニューはクラリスに出されていたメニューと全く同じものが出されたという。

 牢の窓際に置かれた椅子に座っていたナタリーは、醜く言い争う大人達を冷めた目で見ていたらしい。


「馬鹿みたい……どうせ皆死んじゃうのに」


 ナタリーは聖女の光を浴びて肌は若返ったものの、髪の毛だけは老婆のように白くなっていたそうだ。

 一度は老婆のように干からびて死ぬ寸前まで追い込まれ、何とか生きながらえたものの、魔族となって大量虐殺した罪で投獄されている今、生きる希望を見いだせなくなっているようで、茫然としていることが多いらしい。

 嘘か本当かは分からないが、まだ悪足掻きをしている両親が滑稽すぎて、苦笑いを浮かべながらも、ナタリーはこう呟いていたそうだ。

 


「お姉様……ホントは私、お姉様みたいになりたかったの」


  


 後に侯爵夫人、そして執事のトレッド、一部の使用人や騎士達は、王族とその婚約者、そして公爵令息の殺人未遂により、絞首刑に処された。

 シャーレット侯爵と他の使用人たちは、王族の殺害には直接関わっていなかったので、処刑は免れたが、離島の鉱山での重労働生活を送ることになる。

 

 

 ナタリーとカーティスは闇の魔術の研究の為に生かされることになった。

 彼らの肉体はまだ魔族化したままなので、研究材料として有効だと判断したのだ。

 研究所の衣食住は牢獄よりは恵まれているが、何かと実験台にされることが多くなるから、精神的にも肉体的にも辛い日々を送ることになるだろう。

 しかし闇の魔術の研究が進むことで、これからは聖女や勇者に頼らず魔族と対抗出来る術を見出すことが出来るかも知れない。多くの人間を殺めた罪を贖う為にも、多くの人間を救う術を見出す贄になって貰うことにした。


 あとは聖女様だが……彼女とは一度話をしなければならない。

 その日、俺はクラリスと共にミミリアがいる北の塔の一室へ向かうことにした。


 

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