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第167話 裁きの時~sideエディアルド~

 俺はエディアルド=ハーディン。

 これまで馬鹿王子とか、無人島公爵とか散々言われてきた人生を送っていたが、今は俺をそんな風に呼ぶ人間はいなくなった。

 俺がダークドラゴンを一撃で倒し、その上クラリスと共に巨大化した魔族を倒したという武勇伝は、瞬く間に国内に広がったらしく、一転して俺は英雄扱いされるようになった。

 その為、アーノルドが国王の座を俺に譲渡する声明を公表した時も、国民は歓迎ムードとなった。



 二週間後――――


 俺は裁きの間にいた。

 見た目は謁見の間とそんなに変わりはない。

 ただ両側には貴族達の傍聴席があり、王の両脇の席には裁判官、検察官、弁護官が座る。


 謁見の間の絨毯は赤だったのに対し、ここの絨毯は黒、カーテンなどの装飾品も黒で統一されている。

 この国でも裁判所はあるが、それはあくまで貴族や平民のために設けられたもの。

 ここは王自ら裁く場として設けられた、裁きの間だ。


 玉座の右脇に用意された席は、第一継承権を持つ王族の席。

 本来は左脇の席は王妃の席だが、そこは空席状態だ。

 俺はアーノルドの右隣の席に着くことになる。


「ちょっと! ここは裁きの間じゃない!? 何故、私がここに連れて来られるの!?」


 両手首を手錠結びにされ、騎士二人に引き連れられたテレスが俺たちの前に現れる。

 つい最近まで美しく着飾っていた彼女だが、セットされていた髪は乱れ、服装も囚人が着るワンピースだった。

 彼女はアーノルドの隣、次期国王となる人間の椅子に俺が座っているのを見て目を剥いた。


「ま、待ちなさい! エディアルド、何故、あんたがここにいるの!? あんたは無人島の公爵でしょ!? アーノルドの隣にいるような人間じゃないわ!!」


 ヒステリックに喚いて俺に躍りかかろうとするが、両脇にいる騎士に両腕を捕らえられているので、身じろぐことしかできずにいた。アーノルドはそんな母親を冷めた目で見下ろし、落ち着いた声で答える。


「僕が次期国王に兄上を指名しました。兄上は王位継承者として、今回の裁判を見守っていただく義務があります」


 テレスは目を大きく見開き、信じがたいものを見る目で息子を見る。

 彼女は首を横に振り、震えた声を漏らす。


「王位継承者……エディアルドが? アーノルド、あなた、何て愚かなことを」

「愚かなのは貴方の方でしょう? 罪人を前へ」


 アーノルドが命を下すと、右脇にいた騎士がテレスの背中を強く押した。

 突然後ろから押された彼女は、バランスを崩し俺たちの前に倒れ込む。

 テレスはキッと自分の背中を押した騎士を睨み付ける。


「私を誰だと思っているの!? 現国王の生母であり、王太后なのよ!?」


 その騎士は端正な顔であるが、まるで人形のように無表情だった。

 彼は淡々とした口調でテレスに告げる。


「自分は先王の暗殺の首謀者であり、王室の責務を放棄し、王城から逃亡を謀った罪人を突き出したまでです」

「私が罪人ですって!? 無礼なっっ。アーノルド、この無礼な騎士を今すぐ投獄して頂戴!! 何しているの!? 相変わらず愚図な子ね。そんなんだから、エディアルドに出し抜かれるんじゃないの!! 早く私を助けなさいよ!!」


 助ける気が失せる言葉がこれでもかというぐらいに出て来るな。このババア……おっと王族らしからぬ、悪い言葉を使ってしまった。

 言葉の端々にアーノルドも常に俺と比較されて、重圧を与えられ続けていたことがうかがえる。

 しかし肝心なアーノルドは傷ついた顔一つせず、そんな母親を冷然と見下ろしていた。


「その騎士には妹がいたのです。あなたの給仕係だったそうですよ」

「ちょっと、何を言っているの?」

「あなたはその侍女が粗相をしたという理由で、彼女を処刑したそうですね? 彼女だけじゃない。あなたは気に入らない人間、邪魔な人間を簡単に始末してきた」


 俺はテレスの右脇に立つ騎士の方へ目をやる。

 頬に三日月型の傷があるものの、端正な顔をした青年だ。恐らく処刑された給仕の女性も王室に召し抱えられるだけに、美しい女性だったのだろう。

 今は人形のように無表情だが、目には悲哀の色が見え隠れしていた。


「そこの騎士はケニーといってね。元々平民だったけど功績が認められて騎士爵になった。彼は実行部隊に所属していたんだけど、魔物との戦いで重傷を負っていた。残念ながら彼の上司は平民をゴミのように扱う人間だったみたいでね。ケニーは回復薬を与えて貰えず、半年間自宅でずっと寝たきりだったそうだ」


 ハーディン王国の実行七部隊は、実力主義と謳いつつそれが実現できているのは第一部隊だけだった。

 それ以外の部隊はほぼ身分でその地位が決まっていた。

 特に酷かったのは第三部隊だ。

 そこの隊長は王城の地下に保管してあった回復薬を全て持ち出して、魔族との戦いにも挑まずそのまま逃亡していたのだから。

 ケニーは第三部隊所属だったが、常に前線に追いやられ、しかも怪我をしても回復薬を与えられていなかったそうだ。



「ケニーの妹リニーは、自分や他の兄弟を助けるために、貴方の元で真面目に懸命に働いていたそうですよ。だけど彼女は無情にも機嫌を損ねたあなたによって、処刑されてしまった」



 ケニーは魔族の襲来で家が被災し、教会施設に運ばれてきた。その時、救助にやってきたヴィネの回復薬によって身体が全快し、騎士として復帰することができたそうだ。

 ちなみに、部下に回復薬を与えなかった第三部隊の隊長は、王室の地下倉庫から回復薬を勝手に持ち出した罪により投獄されている。

 ケニーは負傷する以前の実行部隊での功績が認められ、騎士爵から子爵に陞爵していた。


 テレスは、息子に自分の所業が知れていることに狼狽したらしく、やや上ずった声で必死に言い訳をする。


「そ……それは、あなたの為よ!! あなたを王位に就かせる為には、どうしても邪魔な人間がいたの。だから私は鬼になるって決めたのよ」

「でも、給仕の女性については僕とは関係ないですよね? あなたが気に入らなかったから殺しただけ」

「そ、それは……」

「それに僕を王位に就かせる為に邪魔だった人間を始末したのも、決して僕の為じゃないですよね?」

「な……何いっているの!? 貴方のために決まっているじゃない」

「いいや。僕の為じゃない。あなたは国王の母になりたかった。自分が王太后になり、今よりも贅を尽くした暮らしをする為に、自分の手を汚してきたんだ」


 アーノルドが母に語る口調は、まるで母親が子供に物語を聞かせるかのように、優しい口調だった。

 しかしテレスは息子の言葉を認めたくないのか首を横に振る。


「あなたの為よ……っっ!あなたの為に私は」

「百歩譲って僕の為だったとしても、父上を殺した罪は許されるものじゃない」

「わ……私は関係ないわっっ。私が国王陛下を殺すわけがないじゃない!! 調べたら分かるわよっっ」


 この時テレスは、口元はやや引きつっているものの、不敵に笑ってみせた。

 先王暗殺の主犯は自分であることは絶対に明らかにはならないという自信があるのだろう。

 両手を縛られた踊り子の女性が、弁護官によって連れて来られたのはその時だ。

 煌びやかな衣装はボロボロ、髪もぼさついて、顔も痩せ細っていた。国王暗殺の罪で追われていた踊り子は浮浪者のような生活を送っていたらしい。

 アーノルドは踊り子に問いかけた。



「名も無き踊り子よ、誰の命で君は国王を暗殺した?」




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