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第164話 女神様、悪役達を招待する②~sideクラリス~

「堕落した魂……」

『そ。クラリス、エディアルド、あなた達と同じ日本人よ。あなたたちが死んでから、半年後に亡くなった娘よ」

「俺たちが死んだ半年後に亡くなっているということは、死んだ順番に生まれ変わるわけじゃないんだな」

「生まれ変わりはランダムよ。私が戦国時代の武将の魂を、今、あなたたちが住んでいる世界に転生させようと思えばできるわよ」


 ……転生した武将が、剣と魔術の世界に転生したらどうなるのか、見て見たい気はするけどね。


「堕落した魂の持ち主だった娘は、ずっと甘やかされて育ってきたからかしらね。傲慢で怠惰、そして欲しがり屋な娘。欲しいものを手に入れる為なら、人を蹴落とすことなんか何とも思わないような娘だった』

「その娘の魂をミミリアに?」

『ええ。堕落した魂は聖女に。キアラの魂は勇者の母親となる女の身体に埋め込まれたわ。このままでは聖女の力が発揮されず、魔族によって世界が荒らされることを危惧した私は、強力な魔力を持つクラリスとエディアルドの身体に、運命に逆らう強い意志と努力を惜しまない人間の魂を入れることにしたの』


 運命に逆らう強い意志と努力を惜しまない人間、というのは私たちのことなんだろうな。確かに私は運命に逆らって生きてきた自覚はある。だって逆らって生きないと死んでしまうと思っていたから。

 私はふと気になったことを、ジュリ神に尋ねた。


「あ、あの、魔族との戦いで、私に助言して下さったのは」

『ええ。私よ。今、あなたが身に付けているペンダントは純粋な心を持った信者が強く願うと、私とコンタクトがとれるようになっているの。ペンダント越しに、私が力を貸すこともできるのよ。この世界にはあんまり干渉しないことにしていたんだけど、私を信じてくれる純粋な信者の願いくらいなら、叶えてもいいかなって思って、このペンダントを作ったの』


 ……あれ?

 身に付けた覚えはないのだけど、いつのまにか私は女神のペンダントを身につけていた。

 最終的には聖女様がつけるものだと思っていたから、つけずに持っていたのだけど。


『そのペンダント、似合っているわ。あなたが生きている間は、あなたが身につけていて』


 ま、まさか、ジュリ神自ら付けて下さったの!?

 何か……恐れ多いような。

 でも嬉しそうに笑っていらっしゃるし、遠慮無く受け取っておいたらいいのかな?



『本当は悪役として生きる筈だったあなたたちだったけれど、あなたたちはその運命を断ち切って、魔族の侵攻から世界を守ってくれたわ。だからお礼が言いたくて、ここに招待したのよ』

「……お礼を言うだけですか?」


 エディアルド様はジト目で女神様を見上げる。ま、まさか、女神様相手に交渉しようとしている!?

 でも女神様からしたら、そんなエディアルド様もお子様に睨まれたような感覚なのだろう。くすくすと笑いながら小首をかしげる。


『何か望みのものは?』

「今後はクラリスと共に穏やかに平和に暮らしたい。あと平均寿命くらいは長生きをしたい」



 それは私自身もすごく願っていたことだ。

 大きな富とか、絶対的な権力なんていらない。

 とにかく、これからは穏やかに、平和に暮らしたい

 エディアルド様も同じ気持ちだったんだ……この人が婚約者で本当によかった。

 女神様はそんな私たちを見て可笑しそうに笑った。



『あなたたちって無欲なのね。そんなの私にお願いするまでもないわよ。あなたは今後、この国の王になるからしばらくは忙しいとは思うけれど、落ち着いたら穏やかに過ごすことができるわ』


「……俺が王に」

「当然でしょう? アーノルドは王をやめるつもりよ。私に仕えることを強く強く望んでいる」

「アーノルドがあなたに?」

「彼は神職に就くことになるわ。自分のせいで犠牲になった国民に生涯祈りを捧げるつもりなのよ」

「……」


 エディアルド様は複雑な表情を浮かべた。

 まさかこんな形で自分に王位が回ってくるとは思っていなかったのだろう。

 神殿も再建しなければいけないし、亡くなった神官長に代わる人物も必要だ。確かにそれが一番いいのかもしれないけど。


「王になるかどうかはともかく、王都や神殿の再建の為に忙しくなることは確かだな」

「そうね。私たちが出来る事はしなければ」


 エディアルド様と顔を見合わせうなずき合うと、ジュリ神はそんな私たちを微笑ましそうに見詰めた。



『あなたたちは結ばれるべくして結ばれたのかもしれないわね』

「「……?」」


 不思議そうに首を傾げる私たちに女神様は両手で頬杖をついて、くすくすと鈴を転がすような声音で笑った。



『前世であなたたちはお見合いをする予定だったのよ。結城大知くんに山本穂香さん』

「「え!?」」


 女神様に言われた瞬間、結城大知という名前が、前世の時私の手元にきたお見合いの人の名前がユウキタイチだったことを思い出した。

 あの写真の印象は平凡で地味な感じだったけれど、好みではあったんだよね。だけど、その結城大知も亡くなってエディアルド様に転生したってこと?


「君が……山本穂香」


 茫然と呟くエディアルド様に私は息を飲む。

 エディアルド様も私の釣書と見合い写真を見ていたってことだよね? しかも覚えていたんだ。

 彼は顔を真っ赤にして照れくさそうに笑って言った。


「前世、君の見合い写真を見た時一目惚れしていた」

「……っっ!?」

「今世でも君に一目惚れしたし、本当に運命だったのかも」



 う、運命。

 安っぽい言葉だと思っていたけれど、今、この状況を運命と言わないで何て言ったらいいの?


『あーあ、見せつけてくれるわね。そのお茶飲んだらとっとと元の世界に帰りなさい。もうお腹いっぱいだから』


 揶揄うような口調で女神様に言われてしまい私たちは顔を紅くし、胸をどきどきさせながら冷めた紅茶を一気に飲んだ。

 その瞬間、目の前に広がっていた桜の風景は消えて視界が真っ白になった。



 ◇◆◇



「…………っっ!?」



 目を覚ますと真っ白な天井、そしていくつもの顔があった。

 心配そうにこちらを覗き込むのは、ヴィネ、ソニア、デイジーだ。


「ここは?」

「エミリア宮殿にあるクラリスの部屋よ」


 尋ねる私にヴィネが目に涙をうかべながら答える。

 そっか、エミリア宮殿の一室か。よく見たら見慣れた家具や寝具が置かれている。

 そういえば、女神様にも聞きそびれていたことがあったわ。


「今、どうなっているの? あの怪物は? ?」

「クラリス様とエディアルド公爵のお陰で完全に消滅しました。残った魔物達も大人しくなり、森へと帰って行きました」


 ソニアもまた涙を堪えながら私に報告をしてくれる。

 皆、どうしてそんなに泣いているのだろう?

 そこまで大怪我をしたわけじゃないし、少し気絶していただけだよね?

 私の疑問を察したのか、デイジーは涙を拭いながら怒鳴ってきた。


「クラリス様、貴方は三日間ずっと眠り続けていましたのよ!? 一向にお目覚めになる気配がないからどれだけ心配したことか」

「そうなの……?」

「このままお目覚めにならなかったら……そう思うと怖くて……」


 デイジーはベッドに顔を埋めてわっと泣き出した。

 それにつられヴィネやデイジーの目からも次から次へ涙が零れた。


 そっか……皆、心配してくれていたんだ。


 それにあの怪物もいなくなって、魔物も森へ帰って。

 全部終わったのね。

 悪役令嬢として生まれてきた私は、まだ生きている。

 そして心の底から心配してくれる仲間もいて……。

 私はゆっくりと上体を起こし、周囲を見回した。今、ここにいるのは女性陣だけだ。

 まぁ女性の寝室に男性が入るのはマナー違反だしね。でも、今ここに居ない仲間の安否も気になるので、私はソニアに尋ねた。


「エディアルド様は? ……それに他の皆は」

「エディアルド公爵は昨日お目覚めになりました。今は王城の会議室でクロノム公爵やアドニス先輩、それにロバート将軍閣下たちと共に、今後のことについて打ち合わせをしていらっしゃいます」

「他の皆も、無事なのね……?」

「はい」


 にこやかに答えるソニアに私はホッと胸をなで下ろす。

 エディアルド様は無事だってことは分かっていたけれど、ちゃんと目を覚ましたという報告を聞いて安心する。

 だけど目覚めて早々働いているなんて……女神様には平和で穏やかな生活を願ったけれど、それが叶うのはだいぶ先になりそう。

 小説では魔族との戦いで死ぬことになっていたジョルジュも無事だったみたいね。

 その時扉のノックの音がして、メイドが入って来た。


「エディアルド殿下がお越しになりました」


 その言葉を聞いて女三人は顔を見合わせてから、わざとらしく手で口元を押さえ、クスクスと笑う。


「うふふふ、あとはお若い二人だけで」とヴィネ。

「お邪魔虫たちは退散しますわね」とデイジー。

「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」とソニア。


 エディアルド様が部屋に入って来ると、三人は淑女の礼をとり、すすすすすと足音を立てずに部屋を出る。振り向きざまデイジーが親指を立ててウィンクをしたけど。

 私はかぁぁぁっと顔を真っ赤にして俯いた。

 前世でもそこまで恋愛経験が豊かだったわけじゃないから、デイジーの応援(?)にどうリアクションしていいのか分からないわ。



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