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第162話 悪女は聖女の力を放つ~sideクラリス~

私の名はクラリス=シャーレット。

 ただ今、ラスボスたちと戦闘中です。

 エディアルド様が鮮やかにダークドラゴンを倒して、安心したのも束の間。

 今度は神殿が大きくくずれはじめた。

 


 荘厳かつ壮麗な建築物だった神殿が無残なまでに崩壊し、現れたのは見るもおぞましい怪物、水牛のような角が頭、赤い目は半分剥き出しのように飛び出ていて、口から見える鋭い牙は黒々と光っている。

 顔の皮膚はすべて赤と黒の斑模様の鱗に覆われて、身体も黒い甲冑に覆われて、蛇のような尾が八つに分かれていた。



 こ、これは恋愛小説の世界じゃなかったの?

 なんなのよ、あの怪物は!?  



 神殿の倒壊に巻き込まれない距離まで離れたものの、まるで大地震でも起きたかのように地面が揺れ、それ以上走ることすらままならくなる。

 


 ごあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



 聞いたことがないような凄まじい咆哮と共に、怪物は大きな掌で地面を叩きつけたのだ。

 地震のごとく揺れる地面、そして周辺には多くの黒魔石が置かれていたようで、山林や地面から大量の瘴気が吹き出し、それらは全てディノの元に集中する。


「クリア・シールド」


 すぐさま私は清浄防御魔術の呪文を唱え、周辺の瘴気をかき消す。

 瘴気を吸ったらこちらの体力、気力、魔力も削がれる。

 他の魔術師たちも清浄魔術や防御魔術をかけ周辺の騎士たちを守る。

 さらに怪物は大きな口をあけ、こちらに向かって黒炎を放つ。

 ダークドラゴンの黒炎よりもはるかに威力があり、防御の壁にピシピシと罅が入る。


 

 ごあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!



 怪物がさらに天に向かって吠えた。

 声に呼応するかのように地鳴りがし、大地が震える。濃厚な瘴気は神殿周辺にある森を瞬く間に枯れ木に変えてしまう。

 この状態が広がったら世界は大変なことになる。

 なんとか食い止めたいけれど、どうすれば……

 その時、ナタリーの甲高い悲鳴が耳に直撃した。


「いやぁぁぁぁ、何なのっっ!? 力が……力が……」


 ナタリーは頬を抑え、地面に膝を着く。

 ナタリーの身体から黒霧があふれ出ている。しかもその霧は怪物の方へ吸い寄せられているようだ。

 ナタリーの闇の魔力が怪物によって吸い取られてしまっているのだ。

 魔力だけではなく、生命力も奪い取られているのか、ナタリーの顔は次第に皺がきざまれ、髪も白髪に変わってゆく。

 瞬く間に年老いてしまった妹の姿に私は息を飲む。

 その現象は彼女だけではなく、闇の恩恵を受けていたカーティスにも起こっていた。

 彼は自分の手が枯れて行く様を信じがたい目で凝視していた。


「私の力が……力が……」



 防御魔術も持って半時間。このままだと私たちも瘴気に当てられ、倒れることになってしまう。


「ギガ・クリア・ライトニング!」


 エディアルド様が雷撃と清浄を合わせた最強の混合魔術を怪物に向かって放つけれど、分厚い黒霧の壁によってかき消えてしまう。

 ソニアやウィスト、三守護士たちも果敢に怪物に立ち向かい、足を斬りつけるが、足を覆う甲冑は頑丈すぎてびくともしない状態だ。

 しかもその際、瘴気も吸い込んでしまい彼らの顔色が悪い。

 エディアルド様は二本目の万能薬を飲んで魔力と体力は取り戻すものの、どうすることも出来ない状態に唇を噛む。


 もう聖女様の力しかないのだろうか……だけど肝心なミミリアはアーノルド陛下の腕の中で気絶したまま。

 私は手を組み、天に向かって女神様に祈る。


 ジュリ神、聖女様程の力が欲しいとは言いません。

 だけど、どうか今の状況を脱却できる方法をお与えください。

 私は大切な人たちを守りたい。


 最愛の婚約者エディアルド様、一緒に戦ってくれているソニアやウィスト。コーネット先輩。

 今頃街の人々を避難させているであろうヴィネやジョルジュ。

 

 そしてデイジーや、アドニス、クロノム公爵、王妃様も私たちを助ける為に、他国の貴族や魔術師たちに協力を仰いでいる。

 

 今も魔族と戦っている人々、魔族に怯える人々もいます。

 このままでは他国の人々も魔族の脅威に脅かされることになります。

 

 どうか、この国を……いいえ、この世界をお守り下さい。

 ジュリ神、どうか力を……



『ようやく私を頼ってくれたわね、クラリス』



 どこからともなく聞こえる声に私は目を見張った。

 周りを見回すけれど誰もいない。

 だけどふと視界の隅、ウエストポーチから光が漏れているのに気づき、私はポーチをあけてみる。

 光っていたのは女神のペンダントだ。

 もしかして私が祈ったことで、このペンダントが反応した? 

 すると、再びどこからともなく、凜とした声が聞こえてきた。


『女神のペンダントをミミリアの身体の上に置いて。その上に貴方の手を置くの。そうしたら聖女の力をあなたの身体に移動させることができるわ』


 私以外聞こえていないのか、周囲の人々はその声に対するリアクションがなく、怪物の方を見ている。

 今の私は藁にもすがる思いだった。


「陛下、ミミリアをここに寝かせてください」


 声の主に言われるまま、私はアーノルド陛下にミミリアを地面に寝かせるように言った。アーノルドは訝りながらも、枯れた芝生の上にミミリアを仰向けに寝かせる。

 私はミミリアのみぞおちあたりにそっとペンダントを置き、その上に左手を置く。


 次の瞬間。

 

 ミミリアの身体が強烈な光に包まれる。

 純白の光だ。

 周囲にいた全員が、驚きに目を見張る。

 その光は瞬く間に広がり、周囲にある瘴気を浄化させ、しかも枯れていた木々を元の緑色に蘇らせるまでになる。

 ミミリアが寝ている芝生も青々としたものになり、どんよりしていた空も黒い雲が消滅し、明るいものになる。


 皺だらけの老人姿だったナタリーやカーティスも徐々に元の姿に戻りつつあった。

 ミミリアを覆っていた光はやがて消失し、その代わり聖なる純白の光は私の身体をつつみこんだ。

 ふしぎなほど優しい温かさにくるまれた気分。

 これが聖女の力なんだ。

 


『さぁ、ありったけの聖なる力を怪物にぶつけちゃって!』


 

 なんともフランクな口調で指示する声の主がまさかの女神様!? ……かどうかは、まだ分からないけれど、私はとにかくいわれるままにした。

 本能的に、この声の主を疑っては駄目だと思ったのだ。

 私は両方の掌を怪物に向け、与えられた聖なる白光を怪物に向かって放った。


 聖女様の力は本当に膨大で、純白の光がものすごい早さで広がってゆく。

 ミミリアがそれを発揮させる力があれば早く解決していたのだけど、修行を怠った彼女はそんな力を持ち合わせていなかった。

 だから魔力を最大限に引き出せる力を持つ私が、ミミリアの秘めたる力を引き出す役割を果たした。

 聖なる光をぶつけられ、怪物は苦しそうに呻いているけれど、倒れるまでには至らない。


 ……やっぱり私自身は聖女じゃないから?


 するとエディアルド様が私の肩に左手を置いて目を閉じた。

 白い光はエディアルド様の身体も覆う。そして私と同じように右の掌を怪物の方に向け白い光を放った。

 エディアルド様も私と同じように声が聞こえたのだろうか。それとも私の様子を見て、見よう見まねでやっているとか? 

 どちらにしろ白光の威力は数倍に膨れ上がり、周辺の魔物たちを消し去り、また怪物をとりまく黒霧を完全に浄化する。


 その時コーネット先輩の発明品であるエディアルド様のブレスレットが、紅く燃え上がるように輝き、砕け散った。


 あのブレスレットは魔術の効能を数百倍にするアイテム!?


 

 膨大すぎる力をさらに倍増させたことで、過熱して破損してしまったのね。

 ブレスレット効果によって聖なる光はとてつもないパワーを発揮することになる。

 



 ごぁぁぁぁぁ……ごぁぁぁ……ごぁぁ!!



 怪物は咆哮をあげるものの、その声は次第に小さくなり、人間と変わらない叫び声に変わる。

 やがて人型に戻ったディノは、聖なる光によってかき消えてしまった。


 そして私も……


 視界が白一色に覆われて気が遠くなる。

 力を使いすぎたのかな。

 エディアルド様が私の身体を抱きしめてくれる感触だけは感じ取ることができた。

 このまま愛しい人の腕の中、死ぬのも悪くないかも。

 前世と比べたら遙かに幸せだ。

 だけど、今まで言えてなかった事があったから、死ぬ前に言っておかないと。



「エディー……大好き……」


 

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