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第160話 魔皇子、変貌~sideエディアルド~

一方、アーノルドの剣とカーティスの剣は何度もぶつかり合っていた。

 女神の力を内包した勇者の剣と魔族のエネルギーの源でもある瘴気を纏う闇黒剣。

 剣がぶつかり合う度に勇者の剣は光の雨が降り、そして闇黒剣は瘴気の空気が広がる。

 ぶつかり合う光と闇の剣は、俺とディノの剣と同様、反発し合っている。その衝撃は腕が痺れる程だが、魔族化したカーティスはともかく、アーノルドは平然としているな。

 やはり、選ばれた勇者だからだろうな。女神の加護が勇者を衝撃から守っているのだろう。

 

「……カーティス、君は本当に強くなった」

「今更、そのような世辞は不要です」

「お世辞じゃない。本気でそう思っている」

「……」


 俺はその時、凍り付いていたアーノルドの表情が和らいでいるのに気づいた。

 命をかけた戦いの筈なのだが。

 カーティスとの剣の打ち合いが楽しく思えたのかもしれない。今まで彼とこれほどまでに互角に戦えたことがなかったから。

 恐らくカーティスも同じ気持ちなのではないか? 

 もしずる賢い奴だったら、魔術の不意打ちを食らわせているところだ。

 しかし、敢えてそれをしないのは、今しばらくアーノルドとの打ち合いを続けたい気持ちがあるように俺には思えた。



 俺とディノは睨み合いが続いていた。

 奴から視線を離さないまま、俺は小声で呪文を唱える。


身体強化魔術リイン・フォース


 ぶつかり合う剣と剣の衝撃に耐えられる身体にしておく。

 俺は勇者じゃないからな。そこは魔術で補う必要がある。俺の身体は淡い青の光の膜に覆われる。

 

「聖女を捕らえた時は、この国は落ちた……と思っていたのだがな」


 ディノはボロボロになって倒れているミミリアの方を見て苦笑いを浮かべる。

 こいつにとっても、今の状況は想定外だったのだろうな。

 

「いつまでも聖女や勇者だけに頼るわけにはいかないからな」

「エディアルド=ハーディンよ。何なら我とともに来ないか? お前の存在を蔑ろにするようなハーディン王国など、滅びた方が良いと思わないか?」

「今度は俺を口説くつもりか?」

「だとしたら、どうする?」

「死んでも御免だな」


 

 俺は剣を構えながら丁重に(?)お断りをする。

 そもそもお前の配下になるのが嫌だから、小説とは違う道を歩んできたんだよ。ここでお前の手を取ったら、全てが無意味になるだろうが。

 

「……ふん、まったく揺らぎがないな。つまらん」

「生憎、あんたの好物である負の感情は持ち合わせていないんでね」

「負の感情など、生み出そうと思えばすぐに生み出せる。例えば、クラリス=シャーレットの首をはねたら? ああ、それともクラリスを我が妻にしたら、お前はこの上もない嫉妬心が生まれるんじゃないのか?」

「嫉妬心以上に貴様への殺意が芽生えるわ」

 


 俺はディノに斬りかかる。

 正直、クラリスの唇に触れたその手をすぐにでも切り落としてやりたいところだ。

 身体強化のお陰で、剣と剣がぶつかり合う衝撃に手が痺れることはなくなった。


「殺意も大好物なんだがな」

「ほざけ」


 剣と剣で押し合いながら、そんな会話を交わす。

 俺の連続斬りを悉く受け止めるディノ。小説には奴の剣技についてはそこまで詳しく触れていなかったが、こいつの剣技は相当な腕前だ。

 今度はディノが反撃の連続斬りを繰り出す。

 俺は全ての攻撃を剣で受け、最後の一振りは受け流す。今度は俺の反撃だ。

 ディノは横に薙ぐ俺の剣を軽やかにジャンプしてまずかわし、俺が突進し、次に振り下ろした剣を受け止める。

 何度も剣と剣がぶつかり合い、俺が剣を大きくふりおろすと、ディノは後ろへ飛び退き、漆黒の剣を天に掲げた。

 すると俺の身体が黒炎に包まれる。勇者の剣が光の雨を降らせるように、その剣は天に掲げることで、ダーク・フレムと同じ効果があるらしい。


「ギガ・クリアード」


 俺は最上級の清浄魔術を唱え、身体を浄める。普通の清浄魔術だと黒炎を消すことは不可能だが、黒炎の瘴気よりも濃度の濃い清浄魔術を使うことで強引に消し止めることは可能だ。

 お返しに俺も剣を振り下ろし空を切る。

 次の瞬間、いくつもの雷がディノを襲う。

 小さなクリア・ライトニングだが、相手を怯ませ、所々に傷を負わせることはできる、

 怯んだディノに、俺は続けて呪文を唱えた。


「ギガ・クリア・ライトニング!」

「ダーク・シールド」


 クリア・ライトニングのような混合魔術は、浄化には強いが破壊力に欠ける部分があった。

 クリア・フレムが習得できないと分かった時から、俺はクリア・ライトニングの強化に力を入れることにしたのだ。

 何度も実戦でクリア・ライトニングを唱え、魔力を集中させる鍛錬をした結果、上級魔術以上の破壊力を持つ混合魔術を体得することに成功した。

 全魔力を注ぎ込んだ渾身の雷撃だ。



 ドォォォォォン!!



「ディノ殿下!」

「ディノ様ぁ!!」


 カーティスとナタリーが同時に声を上げた。

 今まで以上に大きな稲妻が生じ、闇の防御魔術を破り、ディノの身体を直撃したのだ。

 魔力がほとんどなくなってしまったので、俺はすぐさま万能薬を飲んだ。

 奴があれで倒れるとは思えないからだ。

 雷撃の衝撃は強く、神殿が地震のように揺れる。

 しかし、やはりラスボスだ。

 無傷ではないが、両足で立っていた。

 黒髪は縮れているが、肌に目立った外傷はない。


「エディアルドォォォォ!!」


 ディノが憎悪を滾らせた咆哮をあげ、こちらに突進してくる。

 しかし清浄な光を多量に浴び、ディノの身体が一気に弱ったようだ。先ほどよりも動きが鈍くなり、奴が両手で剣を振り下そうとする前に、俺は剣を振り上げた。

 ドラゴンネストの刃はディノの右脇腹から左胸にかけて深く切り裂いた。

 ディノは苦悶に顔を歪め、その場に膝をつく。

 俺たち人間にとって瘴気が猛毒であるように、剣に込められた清浄魔術は、ディノにとっては猛毒だ。


「やだ、ディノ様、死なないで……!!」

「あなたが死んだら私たちはどうしたら?」



 蹲って呻くディノを見たナタリーとカーティスは狼狽える。

 このまま力尽きてくれると良いのだが……。

 俺は内心そう願うが、なかなか倒れてくれそうもない。ディノは胸部の傷口を押さえながら、ふらつく足でもう一度立ち上がる。

 


「あまり力は解放したくないが、そうも言ってはいられないようだ」

「力……?」


 え――――

 ディノにはまだ秘めたる力があるというのか。そんなこと小説には書かれていなかったぞ? 

 突如、ディノの身体から大量の黒霧が勢い良く集まる。

 ディノは小声で呪文を唱えているようだ。

 魔族の言葉なのか、何を言っているのかは分からない。


「クリア・ライトニング」


 先ほどのギガ・クリア・ライトニングの威力はないものの、かなり強烈な雷撃を浴びせてみる。しかし今まで以上に濃い黒霧が強固な防御魔術の役割を果たし、それはあっさりかき消される。

 黒霧を体内に吸収したディノの身体が先ほどより大きくなっている。

 しかも一回り、二回り、風船が膨らむかのように大きくなっているのだ。

 俺はその場にいる皆に向かって叫んだ。


「皆、この場から離れろ。神殿の外に出るんだ!!」



 俺の言葉に、アーノルドやカーティスは訝るが、身体が大きくなったディノが壁や柱を破壊しはじめ、建物がぐらぐら揺れ始めたのを見て、顔を蒼白にする。

 ここはお互い休戦し、建物から出ることを最優先にする。


「やだ、ディノ様。どうしたの?」


 ナタリーはディノに走り寄ろうとするが、ディノの血走った目、裂けた口、異様に発達する顔の筋肉を見て、恐怖に顔を引きつらせる。

 しかも身体はどんどん膨らむ一方だ。


「クラリス様、こちらへ」


 神殿が揺れているにも関わらず、衛兵である魔物達が襲ってくるので、ウィストはそいつらを倒しながら突破口を開く。脱出ルートを確保した上、ソニアがクラリスの手を引き、出口へと導く。

 アーノルドは倒れているミミリアをしばらく見詰めていたけれど、結局見捨てることができなかったのか、彼女を抱き上げ、出口に向かって走り出す。


「ちょっとぉぉ、どうなってんのよ」

「とにかく今はこの場を離れろ。神殿が崩れるぞ!!」


 何が起こったのか分からず、オロオロするナタリーに、カーティスが叱咤して促す。

 そんなに怒るように言わなくたって……とブツブツ言いながらもカーティスについていく。

 全員逃げたのを確認してから俺も祈りの間を出ようとしたが、ふとディノのことが気になり、今一度振り返った。


「――――」


 見るんじゃなかった。

 あんなに美麗だった魔族の皇子の顔は、世にもおぞましい姿に変化していた。

 黒と赤の斑の鱗に覆われ、頭からは水牛のような角が、身体を覆うのは鎧というよりは甲殻なのだろう。身体を纏う黒霧はまるで無数の蛇のようにうねる。

 もはや見る影もない怪物だ。


 何なんだよ、こんな設定小説にはなかったぞ!? 

 ここにきて、まさかの裏設定という奴か? 

 小説の中のディノは本来の力を発揮することなく、勇者アーノルドに倒されてしまったのだろうか。

 徐々に神殿は崩れてきているのか、壁にかけてある絵が落ちてきたり、壁を塗装していた石膏の欠片がボロボロおちてきている。

 

 ……RPGのラスボスじゃないんだから、マジで勘弁してほしい。


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