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第151話 悪役王子、勇者と共闘する①~sideクラリス~

 女性の治療を終えてから、私は少量の万能薬を飲む。魔力はそこまで減っていないけど、常に万全の状態にしておかないと今は安心出来ないから。

 その時イヴァンがエディアルド様に声を掛ける。


「エディアルド様……どうか陛下の元へ」

「ああ、案内を頼む」


 私とエディアルド様は護衛であるウィストとソニアと共に、イヴァンの案内で、国王の寝室へ向かうことになった。

 場所はアーノルド陛下が王子だった頃から使っていた寝室らしい。

 国王の寝室に入ると、そこには数人の魔術師が交代でアーノルド陛下の傷を塞ぐ作業をしていた。

 今、治療を施しているのは、上級魔術師たちだ。しかし全員まだ若いところからして、つい最近上級魔術師になったばかりなのかもしれない。

 エディアルド様は疲労感漂う青年魔術師に問いかける。


「他の上級魔術師たちは?」

「……黒炎の魔女と戦い、殺されてしまいました」


 城内にも多少は上級魔術師が残っていたらしいけど、今、ここにいる三人以外はナタリーに殺されてしまったらしい。

 複数の上級魔術師を倒すなんて……もしかして小説の黒炎の魔女よりも強いのかもしれない。

 エディアルド様はさらに青年魔術師に尋ねる。


「聖女様は?」

「聖女様は身体から膨大な白い光を放ち、襲ってくる魔族たちの多くを消し去りました」




 一応聖女の力は発揮されたのね。神殿に行ってお祈りもしてないから、どうなるかと思ったけれど。

 でも魔術師の青年の表情は浮かないままだ。


「そのまま聖女様は白い光の中に消えてしまったのです。国王陛下もこんな状態で、聖女様の強力な治癒力が必要なのに、あの場で消えてしまうなんて」


 小説ではピンチに陥った聖女ミミリアが、無意識に転移魔術を使ったシーンがあったわね。

 あのシーンが現実になったのかしら? でも小説の場合、ミミリアが転移魔術を発動させたのは、悪女クラリスが放った刺客に襲われそうになった時だ。確か物語の中盤に出てきたシーンだった筈。魔族が攻めてきた段階で現実化して欲しくなかったわ。

 恋人がピンチの時に消えてどうするのよ?

 青年魔術師の言う通り、まだまだ聖女様の力が必要なのに、あの場でいなくなるなんて。

 元々期待はしていなかったから、戻って来なくてもそんなにがっかりはしないけど。


「これ、飲んでおいて」


 魔術師の青年に万能薬を手渡しておく。

 青年は信じられないものを見る目で光り輝く小瓶を凝視する。

 さっきの薬師の少年や魔術師の少女も驚いていたものね。上級魔術師でも中々作る事が出来ず、買うとしたら普通の回復薬が五十本買える値段がつく薬だもの。


 私はアーノルド陛下の元に歩み寄る。

 彼はうっすらと目を開けて私の方を見詰めていた。

 そして何かを言おうとしている。


 ごめん……


 そう言っているような気がした。何に対して謝っているのかは分からない。

 アーノルド陛下の脇腹には黒い穴が開いたかのような刺し傷があった。

 背中から腹を貫通しているので、先ほどのワンザの傷よりもさらに酷い状態だ。

 治癒魔術をかけていた魔術師の女性が額に汗を浮かべながら訴える。



「闇の魔力が染みついた刃で深く刺されているので、私たちの魔力では出血しないように魔術をかけ続けることしかできないのです。城内にある万能薬も全く効果がありません」


 城内にストックしてある万能薬は、恐らく今所属している宮廷薬師たちが作ったものなのだろう。

 万能薬で治るような傷ではないとはいえ、全く効果がない、ということは、残念ながら優れた万能薬を作ることができる薬師は、城内には一人もいなかったということね。

 元々、魔力と体力を完全回復できる万能薬を作ることが出来たのは、前薬師長であるクロノム公爵と、ヴィネだけだったって聞いている。

 それほどまでに作るのが難しく、貴重な薬なのよ。

 私が作った解毒作用のある万能薬を飲ませたら多少は違うかもしれないけど、闇に汚染された傷口を治すのは、普通の毒とは違うから完全回復はできないだろう。

 魔族に傷つけられた傷は、先ほどの信者の女性、ワンザに施した混合魔術をかけるのが一番効果的だ。



「クリア・ヒール・デトリクス」


 水による消毒と風による邪気を払う力、そして光による闇の浄化を交えた混合魔術。

 アーノルド殿下の傷口は薄紫がかった白い光につつまれる。

 先ほどよりも魔力の消費が激しいわね。

 ワンザの傷よりも深く、瘴気がこびりついたようになかなか浄化されない。


「ぐぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 しかも相当痛むのか、アーノルド陛下が背中を仰け反らせ声をあげる。

 瘴気と浄化が戦っている証拠だわ。

 その激痛はかなりのものだけど、耐えていただくしかない。

 薬指に嵌められた指輪、紫魔石の結晶がその時きらっと輝いた。

 魔力の消費は今半分くらいかしら?紫魔石が反応している所からしても、相当な早さで魔力がすり減っているみたい。

 でももう、黒い傷口は紅い傷口に変化し、そしてその紅い傷もみるみる塞がっていったわ。


「す……すごい」

「我々の力では塞ぐことが出来なかった傷口が塞がった」

「まさに聖女がなせるわざ」


 聖女くらい魔力が無限大だったら良かったのだけど。

 魔石を身につけていなかったら、あっという間に魔力が空になっていたと思うわ。

 傷口が完治したおかげで、苦悶に歪んでいた国王陛下の顔は穏やかなものになった。

 良かった……まぁ性格に難ありだけど、一応エディアルド様とは血が繋がった弟だものね。

 アーノルド陛下は茫然とした表情で私を見詰めていた。


「クラリス……ごめん……傷口塞ぐの、大変だっただろうに」

「……」


 気のせいかな。アーノルド陛下、以前より老けたような……ううん、良く言えば大人っぽくなったと言ったらいいのかな。

 以前だったら表情に曇りもなく、空色の瞳には何の迷いもなかったのに。

 今はどこか陰りのある表情で、空色の瞳には迷いと、それから悲哀が浮かんでいた。

 私はアーノルド陛下に告げる。



「謝罪なら私ではなくエディアルド様に。エディアルド様はこの国を守る為に、軍事の強化や魔術師や薬師の育成に力を入れてきたのです。それを台無しにしたのは、国王陛下あなたの罪です」


 私の言葉にアーノルド陛下は大きく目を見張り俯いた。

 エディアルド様はあなたを立てて助けるつもりだったのに、あなたはそれを拒絶した。

 それどころか国を守るための政策を悉く否定したの。

 だから王都にも被害が出て、多くの犠牲者が出てしまった。


「……兄上、僕は何と謝ったら良いのか」


 そう言ってアーノルド陛下はエディアルド様の方を見た。エディアルド様と同じ空色の目から涙が零れる。


「僕は兄上へのくだらない対抗心から、この国を弱体化させてしまいました。聖女の教育も怠り、母上の横暴も止められずに、無能な王でした」

「……」


 エディアルド様は黙ってアーノルド陛下の言葉を聞いていた。

 国王になって全責任が自分に掛かってくるようになり、しかも思いも寄らぬ魔族達の襲撃を目の当たりにして、初めて分かったのね。

 エディアルド様が何故軍を強化したか、強力な魔術師や有能な薬師を育てるのに力を注いだのか。


「思い返すと、僕は母上が作り上げた舞台の上に立つ操り人形だった……それに気づいた時には、あらゆる柵に雁字搦めになった状態で玉座に座っていた」

「そのテレス王太后殿下は?」


 ふと気になったのかエディアルド様はアーノルド陛下に尋ねた。

 息子が重傷だというのに、母親であるテレス妃の姿がない。

 アーノルドは手で目を覆い、力なく苦笑いを浮かべた。


「持てるだけの金品を持ち出して、愛人だった秘書と共に真っ先に逃げていったよ」



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