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第132話 禁書の在処~sideクラリス~

 魔術師セイラ=ライネルが書いた禁止魔術の書。


 クリア・ライトニングの書

 クリア・フレムの書


 この二つは清浄魔術と攻撃魔術を合わせた混合魔術で、聖女が使う聖なる攻撃魔術に近い作用をもたらした。聖女の力が絶対であると主張する神殿側にとって、とても都合が悪い魔術であったため、禁止魔術とされた。

 コーネット先輩が使える転移魔術は、危険魔術に指定されているものの、禁止魔術ではない。資格さえとれれば、使用可能となる。


 けれども、クリア・ライトニングとクリア・フレムは完全に無かったことにされた。


 既に手に入れているクリア・ライトニングの書によると、勇者の迷宮に魔術師セイラが書いた本が、もう一冊あるって書いてあったわ。

 それがこの本なのね。

 私は少し興奮気味にパラパラと頁をめくる。


「炎の魔術と清浄魔術を組み合わせた魔術、クリア・フレムの術式だわ」


 私は息を飲んだ。

 間違いない。これがクリア・ライトニングの書にも書かれていた、もう一冊の混合魔術の書なんだ。

 一番前の頁を開いてみる。

 クリア・ライトニングの書と同様、手書きのメッセージが書かれていた。


【この本は禁書とされている。しかしいつか役に立つ時がくると信じ、ここに本を隠しておくことにする】


【私はクリア・フレムを極めてしまったことで、聖女様に次ぐ力を持つようになってしまった。それが神殿にとっては都合が悪かったのでしょう。私が考え出した混合魔術は、なかったことにされてしまった】


 特に浄化作用のある炎の魔術というのは、強力な清浄魔術で敵を攻撃することができる聖女の力と酷似しているものね。

 もちろん聖女の力の方が強いに決まっているのだけど、クリア・フレムを編み出した女性も、人々から聖女のように崇められていたのかもしれないわね。

 聖女の力が絶対であると信じて疑わない教会や、聖女の信者たちにとって、彼女の存在は面白くなかったでしょうね。


【もう一つの混合魔術、クリア・ライトニングの魔術は、親友に頼み、宮廷にある魔道具保管庫に隠してもらった】


 トールマン先生が預かっていたクリア・ライトニングの書のことね。

 私もクリア・ライトニングの特訓をして、何とか使えるようになったけれど、エディアルド様の方が得意みたいで、破壊力も浄化力も彼の方が上だ。

 私は光の魔術よりは炎の魔術の方が得意だし、クリア・フレムの方がうまく使いこなせるような気がする。


「どうしたんだ、クラリス。難しい顔をして」


 セリオットが不思議そうに私の顔を覗き込む。

 おっと、これ以上読んでも長くなるだけね。

 私は一度本を閉じた。

 聖女のような力とまではいかなくても、聖女に次ぐ力は得ることができるかもしれない。

 私は本をリュックの中に入れておくことにした。

 元来た道に戻り、先ほどとは違う道を選択する……四つ分かれた道のウチの一つ。先ほどは正面の道を選んだので、今度は右側の道を選ぶ。先に続くか、珍しいお宝があって欲しいところね。

 また宝箱が空箱だったら嫌だなぁ。


「あれ、ここの行き止まりは何もない。ハズレだなぁ」


 がっかりするセリオットだけど、私とエディアルド様は、行き止まりの壁に近づいた。

 何か書いてある。

 古代語だったら授業で習っているので少しは解読できる。

 近づいてみると、行き止まりの壁には、古代語で次のように書いてあった。



 この先には最後の分かれ道に続く扉がある。

 一つは茨の道に続く扉

 一つは荒波の道に続く扉

 一つは迷いの道に続く扉


 三つの扉は蛇と炎の証を持つ者だけが開けることができる。

 それ以外の者は開けることはできない。



 壁に書かれたメッセージの内容は小説と同じだ。

 このメッセージを読んで、今までの冒険者たちはここでリタイアしたのよね。

 運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~では、蛇と炎の証を持つ幽霊セリオットが、主人公アーノルドに取り憑いたことで、扉を開くことができた。


 この炎と蛇の入れ墨が皇族の証であることは、外伝で判明する。

 エディアルド様も以前言っていたけれど、外伝の話を広げるために後付けされた設定なのだと思う。

 セリオットが皇族の人間であることは、小説では後付けされた設定でも、今生きている私たちの世界においては既に現実となっている。

 このダンジョンも元々、皇族の試練の為につくられたものとして存在している。

 奥にある秘宝は元々皇族しか手に出来ないように造りあげられたものなの。


 もし三つの扉が開けられたとしても、扉の先には難関が待っている。

 茨の道か、荒波の道か、迷いの道か。

 いずれにしても、どの道もろくな道じゃない。

 もし小説の通りだとしたら、もう少し歩けば……あ、やっぱり。

 三つの扉だ。



「どれか一つが当たりってことですかね?」

「……ああ」


 コーネット先輩の問いにエディアルド様が頷く。

 先ほど書いていた三つの道とは、この三つの扉のことをさしている。

 でも、どの扉が茨で、どの扉が荒波だったっけ?

 私は皆には聞こえないような小声で、エディアルド様に尋ねる。


『エディアルド様、どの扉がどうだったか覚えています?』

『確か……真ん中が茨だった筈』



 実際、目の前に扉が三つあると怖いわぁ。

 どれを選ぶかで運命が変わることもあるわけだから。


「じゃ、右側あけてみるわ」


 何の躊躇もなく開ける馬鹿が約一名。

 ……思わず馬鹿って言っちゃったわよ! セリオット、あんた何をやっているのよ!?

 どういう仕掛けなのか分からないけど、ドアはあっさりと開いて、大量の水がドアから流れ込んで来た。

 セリオットが皇族であることが証明されたけど、今はそれどころじゃない!

 私たちは慌ててドアを閉めようとするけど、流れてくる水圧でドアが動きそうもない、。


「お前たち、このドアを閉じるのを手伝ってくれ!」


 コーネット先輩の命令に、五匹のミニドラゴンたちは頷いて、一緒にドアを押してくれた。

 怪力のミニドラゴンたちのおかげで、水流になんとか逆らってドアを閉めることができた。

 ドアを閉めたら、水が流れてこなくなった。


「ふう、溺れるかと思った」

「お前が言うな!」


 暢気なセリオットの頭を、エディアルド様が叩いた。

 それからエディアルド様は勝手に行動しないよう、セリオットに説教をしはじめた……前世の日本でも、ああやって部下に説教していたのかしら?


「でもさ、開けてみないと始まらねぇだろ」

「確かにそうだが、むやみに開けるもんじゃない。しかも一番ヤバい荒波の道を開けるなよ」

「俺のくじ運を責めてくれるなよ。じゃあ、次はどこを開けるんだ?」

「真ん中だ」



 エディアルド様の即答に私以外の全員が目を点にする。

 そうよね、傍から見れば彼も何の根拠もなく選んでいるものね。だけど小説の通りであれば、真ん中の扉が正解なのよね。

 魔物は出てくるけれど、それを倒せば、その先には宝が待っているのよ。


「あの文章の通りであれば、残るは茨の道と迷いの道だ。どっちにしろ、ろくな道じゃないからな。あけた瞬間、今度は魔物が出てくるかもしれないから、何が出てきてもいいように身構えておけ。セリオットお前の手でその扉をもう一度あけるんだ」

「い……いいけど、何が出ても知らねぇぞ」


 エディアルド様の言葉にセリオットは、今度はそっと扉を開く。

 私もいつでも攻撃魔術がかけられるよう、杖を構えた。

 セリオットが扉を開けた瞬間、一度距離を取り後ろに下がった。

 扉の向こう。

 見えるのは茨に覆われた道だ。小説の通りであれば、扉の向こうから魔物が現れる筈。

 しばらくの間、身構えていたけれど何も起こらない。


「このまま、進んでみる?」


 セリオットが言いかけた時だった。


 ほほほ……

 おほほほほほほ……

 おーーーっっほほほほほほほ!!


 最初は上品な貴婦人のような笑い声が聞こえたかと思うと、だんだん、甲高くけたたましい笑い声が響き渡る。

 そして薔薇の花びらと共に、風が吹き抜けた。

 沢山の花びらがせまってくるものだから、思わず片目を閉じた。


 おーーーっっほほほほほほほ!!

 おーーーっっほほほほほほほ!!

 おーーーっっほほほほほほほ!!



 ううう、ナタリーよりも煩い声だ。しかもダンジョン内にエコーしている。

 私が思わず歯を食いしばった時、薔薇の花びらが風と共に渦を巻きはじめた。

 薔薇の渦はしだいに大きくなり、やがて風が止み舞っていた花びらが全て地面に落ちた時、その女性は現れた。

 いや、人間の女性の形をした魔物といった方が正しいだろう。

 その女は、緑色の肌、そして薔薇のように赤く長い髪をゆらめかせていた。




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