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第121話 雇われた者たち~sideエディアルド~

 鍛冶屋ロックスを後にした俺たちは、武器屋トト・ノエルに戻ることにした。

 次はアイテムを売っている店にも行ってみたいな。

 ハーディン王国のよろず屋には置いていない商品もあるだろうから。


「セリオット、この辺りで一番大きなよろず屋はどこだ?」

「この辺はあんまり大きなよろず屋はないんだよ。専門店の方が多くて」

「専門店? 例えばどんな専門店があるんだ?」

「水専門店とか、栄養補助食品専門店とか、魔術補助アイテム専門店とか」


 ……なるほど。ダンジョンに挑む前に、各専門店を渡り歩いて準備を整えていく必要があるな。

 セリオットとそんな話をしながら、武器屋トト・ノエルの前に来たとき俺たちは歩く足を止めた。


「!?」


 有り得ない光景に、俺たちは目を丸くした。

 武器屋の前の道路には何人もの人間が倒れていたのだ。


「こいつらが襲ってきやがったから、衝撃波魔術でぶっ飛ばしてやったぜ」


 ジョルジュは魔術師の杖を指揮棒のように振りながら言った。新しい杖の威力をためしたかったのだろうな。

 衝撃波魔術は呪文を唱えた瞬間、目に見えない波動によって身体が吹き飛ばされる魔術だ。

 衝撃波魔術を食らった人間たちは、壁や地面に身体や頭を叩きつけられ、動けなくなったり、気絶したりしている

 ジョルジュの両脇には魔術師の杖を構えたコーネット先輩と、レイピアをいつでも抜けるように構えたアドニスの姿があった。


「エディー、見て見て! 僕、悪い奴らやっつけたんだ」

「お、おう、頼もしいな」


 どや顔で自慢してくるジンのそばには、黒焦げになって倒れている男たちが数人。

 星の杖を使って雷を落としたらしい。杖の効果なのか分からんが、倒れた男達の頭の周りには星のような光がぐるぐる回っている。

 あと建物の影に、クロノム家の護衛も控えているようだが……彼らの出番はなさそうだな。



 倒れている奴らは、みるからに柄が悪そうな人間だ。剣や斧、防具を身に付けている所からして、冒険者であることが窺える。

 仰向けに倒れている男の顔を見てセリオットが驚きの声を上げた。


「あ、コイツらしつこく俺に言い寄ってきた奴らじゃねぇか!」

「ん? 言い寄ってきたって、こいつら《《そっちの趣味》》でもあるのか?」


 目を回して倒れている男達を指差して尋ねてくるジョルジュに、セリオットは顔を青くして首を横に振る。


「そういう意味じゃねぇよ。俺が一緒に行く仲間を探していたら、こいつらがダンジョンに同行したいって言ってきたんだ。でもこいつら、冒険者の間でもあんまり良い評判聞いてなかったし、俺を小馬鹿にした態度がムカついていたから、はっきりと断ったんだけどな。向こうは一緒に行こう、行こうって、しつこくてさぁ」

「じゃあ、セリオットを追いかけてここまで来たのか……うわ、やばい。やっぱりセリオットの事好きなんじゃないの?」

「いやいやいや、ないないない」


 顔を青くするジョルジュに、セリオットは更に首をブンブンと横に振った。

 男の色恋沙汰だったら、まだ平和だったんだけどな。現実はもっとシビアな理由だろう。

 ジョルジュが今の状況を説明してくれた。 


「そいつらはセリオット=クラインに関わるのはやめろって、俺たちを脅してきたんだよ。詳しくは、こいつから聞いてみようか。水撃砲魔術ウォーター・ミサイル


 壁に凭れて目を回していた人物は、顔に水の砲撃をくらい目を覚ますことになる。

 何度かまばたきをして、キョロキョロしていた男は、大剣を持ったウィストと、剣を喉元に突きつけてきたソニアを目の前に「ひっ」と悲鳴を上げた。



「お、お前ら!!セリオット=クラインと関わるな!! こいつとパーティーを組んだらとんでもないことになるからな!!」


 こっちが尋ねる前に、男が脅しをかけてきた……こいつ、今の状況を把握して、ものを言っているのか? 

 するとアドニスが前に出てきて、男の額に人差し指を突きつけた。


「お前たち、出ておいで」


 アドニスが言うと、彼の袖から、懐から、後ろ襟から、服の隙間から白い蛇たちがにゅるっと出てきた。

 ……その服のどこに蛇を隠していたんだ? 

 男の身体に何匹もの蛇が纏わり付く。

 蛇好きにとってはハーレム状態だな。ちなみに俺も実は蛇が好きな方だ。

 一瞬、男が羨ましくなってしまった。二匹の蛇が男の首に絡みつき締めだした光景を見たら、その気持ちはすぐに失せたが。

 アドニスは優しい声で男に問いかける。


「とんでもないこと、というのは具体的には?」

「口には言えないくらいのお偉いさんが、あんたを罰するってことだ! そうなりたくなかったら、早くこの蛇をとりやがれ!!」


 剣を突きつけられ、蛇に拘束されているにも関わらず、余裕顔でにやりと笑う男。

 それだけの大物が自分たちのバックにいるんだという自信の表れだろう。

 ……ま、俺は小説を読んでいるから依頼主の正体は知っているけどな。

 もしかしたら、原作とは違う依頼主かもしれないので、一応男を自供させる必要はあるけど。

 俺が全くビビっていないので、男は焦ったように更に言った。


「あ、あんたら分かっているのか!! 口には出せないくらい偉い人間といったら、大体想像がつくだろうが」

「ジョルジュ、口が出せないくらいお偉いさんってどれくらい?」

「さぁ? 俺、口が軽いから相手が王族でも、皇族でもペラペラしゃべるからな」


 その答えにびくんと男は身を震わせる。

 王族、皇族クラス確定だな。

 アドニスは天使のように美しい微笑みを浮かべて、優しい声音で問いかける。


「ねぇ、君の依頼者ってだぁれ?」


 問いかけた瞬間、二匹の蛇が男の首に巻き付く。

 一匹の蛇はチロチロと男の骨張った右頬を舐めてくる。もう一匹の蛇は牙を剥き出し、男の耳元で威嚇の声を上げる。


「あ、あんたら、後悔してもしらないぞ!! 俺たちに依頼したのがどんな人間か分かったらこんなことは出来ない筈……ぐえっ!!」

「早く教えてくれる?」


 二匹の蛇にきゅっと首を絞められて、男は一瞬白目を剥いた。

 首を絞めたままでは喋ることができないので、蛇の拘束はすぐに解かれたが、男は青白い顔をしていた。


「お、俺に依頼したのは皇太子様だ!……あ、まだ皇太子じゃねぇか。でも皇太子になるお方だ! 第一皇子のヴェラッド様だよ!! これを知ったからには、あんたらも生きてはいられねぇだろうよ」

「ヴェラッド……? ああ、某国の夜会で一度お会いしたことがあります。ははは、あれが皇太子ですか。ユスティ帝国の夜明けは暗そうですねぇ」


 口に手を当て、可笑しそうに笑うアドニスに男は顔を引きつらせる。

 そうだな……向こうからしたら、ヴェラッド皇子の名前は、水戸○門の印籠のようなもんだっただろうから。


「何……あんた……皇太子と知り合い?」

「あんな奴と知り合いだと思われたくないですね」


 アドニスがパチンと指を鳴らすと、二匹の蛇はきゅっと男の首を締め付けた。

 一瞬にして男は白目を剥いて昇天しかける。

 うわ……無慈悲。

 そういえばクロノム公爵も、アドニスも蛇を使った拷問が得意って小説には書いてあったな。

 アドニスは父親の代役で某国の夜会に参加し、そこでヴェラッド皇子と出会ったらしい。


「自分の愛人にならないかって、それはそれはしつこかったですよ。帝国の皇子じゃなかったら、とっくにこの世から消し去っていましたね」

「モテる男は辛いねぇ。気持ちは良く分かるぞ」


 ジョルジュが心底同情したようにアドニスの肩を叩く。ジョルジュもモテそうだもんな、異性からも同性からも。

 そんな俺たちの様子に、先ほどまで白目を剥いていた男は首を横に振る。


「あ……あんたら、何者なんだ? 皇族にビビらないなんて、ただもんじゃねえ」

「それだけの身分だって思ってくれたらいいさ。まぁ、聞いても知らないと思うけど、ヴェラッドは何故、セリオットの命を狙っているのか分かるか?」

 俺の問いかけに、男は首を横に振る。

「そ、そんなの知るか! とにかく俺たちはこいつとパーティーを組んで、ヤバそうなダンジョンに置き去りにするよう依頼されたんだ」


 男の自供に、セリオットはホッと胸をなで下ろす。


「マジで!? 良かったー!! お前らと組まなくて」

「くそっっ、お前らさえ諦めてくれりゃ、俺たちはヴェラッド皇子からがっぽり大金がもらえたのに…ぐぇぇぇ!!」


 今までに無く蛇が男の首を締め付ける。

 アドニスは相変わらず優しい笑顔のまま、男に労い(?)の言葉をかけた。


「自供ご苦労様。じゃ、もう君には用はないから」


 ゴキッ!


 骨が折れる嫌な音が響き渡った。

 えー、男がどうなったかは、これ以上の詳細は言わないでおく。蛇が男の首を今までに無くぎゅーっと絞めて、ゴキッと骨が折れる音がしたら、まぁ、大体どんな状況か想像がつくだろう。


 アドニスは将来冷徹の宰相とよばれるようになる人間だが、早くもその片鱗が見えているな。

 何というか、うん……とりあえず、味方で良かった。


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