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第116話 その後について① ~sideクラリス~

 クロノム公爵とロバート将軍の辞意をきっかけに、軍関係の職務に就いていた貴族達もその座を退き始めた。

 宮廷魔術師長や宮廷薬師長も辞意を表明したわ。

 ジョルジュ=レーミオをはじめ宮廷魔術師と宮廷薬師の半分は王宮から去ることになった。

 残ったのは最初からアーノルド陛下の腰巾着や、テレス妃と利権を分かち合った者ばかり。そしてわずかながらに、国王に忠義を誓う者たちもいる。イヴァンとエルダはその典型的な例だ。

 乗っている船が泥船と分かっていても、友人でもあったアーノルド殿下を見捨てることが出来ないのかもしれないわね。

 テレス妃は「却ってスッキリした」と大いに喜んでいたらしいけれど、政治や軍事をクロノム公爵とロバート将軍に任せるつもりだったアーノルド=ハーディン国王は複雑みたいね。




「…………アーノルドが軍事削減を考え直さないようだったら、クロノム公爵は宰相をやめるだろうなとは思っていたが、まさかあの場で辞めるとはな」


 溜息交じりに言うエディアルド様。


「仕方がありませんね。軍事費削減だけじゃなく、軍事強化の撤廃、ああ、それに宮廷魔術師や宮廷薬師の助成金廃止もありますね……他にも色々やらかしていますけど、今まで押し進めてきた計画を全部なかったことにしてくれましたからね。あの馬鹿国王は」


 言うだけ言ってハーブティーを飲むアドニス先輩の額には米印が浮かんでいた。

 現在、私とエディアルド様は領地であるウェデリア島には行かずに、ヴィネの家にお邪魔をしていた。

 デイジーとアドニス先輩の兄妹、コーネット先輩にソニアやウィストも一緒だ。

 皆で平民の姿に変身してここまで来たのよね。


 デイジーは薬師のフードマントに、やや色褪せたワンピース。

 ソニアとウィストは着古したマント、チュニックワンピースの上に、鉄の胸当て。傭兵のような、冒険者のような姿をしている。

 アドニス先輩もデイジーと同様、薬師のフードマントの下、シンプルな白シャツと、ジーンズのような素材のパンツをはいている。ジーンズといえば、藍色か黒のイメージがあるけど、こっちの世界では深緑色が主流なのよね。


 私は魔術師のローブをかぶり、ベルミーラがくれた服は着たくなかったから、街で買ったチュニックドレスを身に纏っている。

 エディアルド様とコーネット先輩は魔術師の格好の下、古びたジャケットとズボンを着ている。

 私たちが来た時、ヴィネは開口一番「どこかの冒険者のパーティーかと思った」と言っていたわね。


 ヴィネの家はいつになく賑やかだった。


 一人で変装してヴィネの家に訪れていた時は何も思わなかったけれど、皆で変装していると、ちょっと仮装パーティーみたいで楽しかったわ。


 私たちはテーブルを囲んでお茶をしながら、その後のアーノルド国王やテレス妃について話をしていた。


 

 本当に、クロノム公爵があの場で辞めるとは思わなかったわね。

 クロノム公爵は以前から実力のある騎士を引き抜いていたし、要となる官僚や軍関係の貴族を自分の傘下に入れていた。

 侯爵家である私の実家よりはるかに大きな宮殿は、王城なみの規模。強力な私兵、それに魔術師や薬師の育成にも力をいれている。


 一国を名乗っても差し支えない勢力があるとも言われるクロノム家。

 もともといつ独立してもおかしくないくらい力を持っている人だった。

 アーノルド陛下の政策に呆れたのもあるだろうけど、元々先王様に頼まれて宰相になった人だから、先王様が亡くなった時点で去る予定だったのかもね。

 確か小説でも国王が病気で亡くなった時点で、クロノム公爵は宰相の座を息子であるアドニスに譲っていた。

 ただロバート将軍まで辞めてしまうのは予想外だった。元々、クロノム公爵と示し合わせていたのかな?


 アーノルド殿下の即位後、宮廷を去った魔術師はトールマン先生の弟子、薬師の多くはクロノム公爵の弟子だった人たちだ。

 既に再就職先もきまっているらしく、クロノム家の専属として働いている……ぶっちゃけ宮廷魔術師や宮廷薬師の時よりも給料がいいらしい。


「アーノルドにも機会を与えたんだけどな。俺が進めている軍事強化案を引き継いでくれるのなら、クロノム公爵を通して助けてやるつもりだったんだが」


 エディアルド様は息をついてから、ハーブティーを一口飲む。

 デイジーもまた溜息交じりに言った。


「それがあの方の選んだ道なのでしょう。ウィリアム領、シュタイナー領、これまで王政の要であった他の貴族たちも、皆お父様につきました。あと中立派の貴族達も今、父に面会を求めていますわ。しばらくは各々の領内で軍強化、魔術師の強化、薬師の育成など行うようです」

「ほとんどクロノム公国じゃないか」


 呆れるエディアルド様に、アドニス先輩はきっぱりと答えた。


「まだハーティン王国の一貴族ですよ。有事の時には、条件付きで駆けつけるつもりですから」


 条件付きって何かしら?

 私は首を傾げたけど、アドニス先輩はニコニコ笑うだけで、そこは答えてくれなかった。

 エディアルド様はアドニス先輩に別の質問をする。


「王国の内政は今、どういう状況だ?」

「宰相はマーティス=ヘイリー伯爵が引き継いだようです。息子のカーティスは父親の補佐をしているようです。マーティス=ヘイリー卿は真面目ですし、地道に王を支えると思いますよ……ま、無能な貴族達が幅を利かせた王政を、どう取り仕切るのか見物ですけどね」


 カーティスの父親であるマーティスが宰相か。

 小説にそんなキャラいたかな……?

 コーネット先輩と一緒で、重要モブ(?)なポジションだったのかしら?

 エディアルド様は腕組みをして、軽く眉間に皺を寄せる。


「一応、アーノルド側にも有能な人材がいるから、しばらくすれば政局も安定するだろうが」

「その有能な人材が無能な人材の分まで、馬車馬の如く働くことになるでしょうね……」


 冷たい口調でアドニス先輩は言った。 

 うん……仕方がないね。そんなに有能な人だったら、どっちの王子が国にとって良いか分かっていた筈だけど、利権のためにアーノルド側についたわけだから。



「ハーディン王国の現在の軍事状況はどうなっている?」

「そうですね、騎士達の三分の一はクロノム領、シュタイナー領、ウィリアム領に流れていきました。いずれも優秀な人材で、僕もほくほくしています」

「じゃあ三分の二は残っているのか」

「まぁ、多くはカス……いえ発展途上の騎士たちですけどね。もちろん有能な騎士も少なからず残っていますよ? 現在、ロバート将軍の意志を受け継いだイヴァン=スティークが将軍となり、できる限りの強化を図っています。とりあえず、王城、王都、王国領内の主要都市を防衛する兵力は残っていると思います」

「イヴァンが将軍か……大出世したな。しかも軍強化を引き継いでくれているのも有り難い。魔族が急に攻めてきた時、こちらが駆けつけるまで持ちこたえて欲しいところだな」

「我がクロノム家をはじめ、シュタイナー家やウィリアム家、他の貴族たちも条件付きで、王国領に駆けつける予定です。条件を満たさない場合は、潔く滅んでいただくしかありませんね」

「……だから、その条件って何だ?」


 エディアルド様も気になったみたいで、アドニス先輩に尋ねたけど、アドニス先輩は答えてくれなかった。

 するとハーブティーを飲み終えたデイジーが私に尋ねてきた。


「そういえば、あのオバさん。まだクラリス様にご執心ですの?」


 あのオバさんというのはテレス妃のことね。

 テレス妃ねぇ……。

 私はハーブティーが入ったカップをソーサーの上に置いてから、デイジーの質問に答えることにした。


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