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第114話 お飾りの国王と王太后①~sideクラリス~

「恐れながら申し上げます。国王陛下は現在、軍事費の削減と私が進めている軍事強化案を撤廃すると聞き及んでおります。今一度ご再考願いませんでしょうか?」

「今は戦もない和平の世。和を乱すような軍事強化など到底受け入れられない」


 この時ばかりはアーノルド陛下も、国王らしく泰然たる態度で答えた。

 顔はいいから絵にはなるんだけど、言っていることは残念だわ。

 エディアルド様は息をついてから、真剣な目をアーノルド陛下に向けた。


「この国は、半年後に魔物の軍勢の襲撃に遭うことになります。私は以前からそのような女神の神託を受けておりました」


 エディアルド様の言葉に、謁見の間はざわつく。

 その中には「ついに気が触れたか……」「嘘を言い出したぞ!」と言う者もいる。

 テレス妃側の貴族たちは、そう言うわよね。中立の貴族たちですら、信じがたい、半信半疑な様子だ。

 アーノルド陛下は戸惑いながらもエディアルド様の方を見た。


「……シャーレット侯爵家に魔族の人間が現れた、という報告は聞いている」


 アーノルド陛下の言葉に、謁見の間はますますざわめく。

 魔族のことを知っているのは軍と官僚の上層部と王族のみ。あと神官長も聞いているとは思うけど、嘘つき呼ばわりしていたんだっけ。

 人々は魔族が実在したことに、かなりの衝撃を受けているようだった。


「魔物の軍勢は人間の軍勢の比ではありません。陛下、なにとぞ襲撃に備え、軍強化の推進を。魔術師の育成、薬師の育成とともに、回復薬、解毒薬など一つでも多くの薬を作り、備蓄しておく必要があります」

「魔族が一人現れたところで、そこまでする必要がどこにある? 魔物の軍勢も単なる兄上の夢なのだろう? 夢如きで自分の意見を通さないでほしい」

「女神の神託が信じられないのであれば、今はそれでもかまいません。軍強化の理由は、諸外国への牽制もあります。特に隣国のユスティ帝国は屈指の軍事国家。つい最近も隣国を支配下におきました。もしハーディン王国の現在の軍事力の実態があちらに知られてしまうと、こちらにも侵攻する恐れがあります」


 本当につい最近の出来事だ。

 ユスティ帝国が大陸北東にある小国を手中に収めたのは。

 小説にも書かれていなかった諸外国の動き。

 それも注視しないといけないのよね。


「その侵略戦争ももう終わったじゃないか。侵略された国はハーディン王国よりも小国」

「小国とは言ってもかの国は、我が国にも劣らぬ軍事力……」

「さっきも言ったように今は平和な世の中だ。戦が終わったばかりなのに、財政負担が大きい戦争をわざわざ仕掛ける国なんかあるわけがない!」


 エディアルド様の言葉をかぶせて言い放つアーノルド陛下の言葉に、周囲の貴族は笑った。軍関係の貴族たちは苦々しい表情を浮かべているけど。

 カーティスも腹を抱えて笑っているわ……あいつ腹立つ。

 テレス妃もそんなエディアルド様を嘲笑する。


 女神の神託の事は今すぐ信じられないことはわかる。だけど周辺諸国の牽制にはちゃんと耳を傾けて欲しいわ。

 今の言い方だと、侵略された国は、ハーディン王国よりも小さな国だから支配されてもしょうがないように聞こえるわ。


 しかも戦が終わったばかりなのに、財政負担がかかる戦をわざわざ仕掛ける国なんかないって……確かに戦は終わったばかりだから、ユスティはすぐには攻めてくることはないだろうけど、あちらの軍の体勢が整えばどうなるか分からないじゃない。何でこっちに攻めて来ないって断言できるのだろう?

 


 エディアルド様は密かに溜息をついてから、アーノルド陛下に一礼した。

 軍事費削減に関しては、ロバート将軍もだいぶがんばって説得したみたいだけどね。

 アーノルド陛下はエディアルド様がすすめていた政策はすべて否定しないと気が済まないのかしら?


「分かりました。これ以上何も言うことはありません。陛下、退出の許可を願います」

「ああ、もう下がって良い」


 先ほどの問いかけは、エディアルド様がアーノルド陛下に与えた最後のチャンスだった。

 もし、エディアルド様の政策を引き継ぐのであれば、兄として影からサポートするつもりだったのだと思うわ。

 けれども、今のアーノルド陛下はその対抗心からか、エディアルド様のやること、なすことには否定的だ。


 そうなるともう力になることはできない。


 本当に悔しいわね……せっかくエディアルド様がこの国を守る為に力を注いできたのに。

 それを認めない人たちが台頭するなんて。

 何で、主人公はこんなにポンコツになってしまったのか?

 でも、今はその怒りの気持ちは抑えておかないとね。



 私たちはもう一度一礼をしてから、身を翻した。

 その時側に控えていたクロノム公爵がとことこと私たちの前にやってきた。そして陛下の前で一礼をする。



「陛下、私、オリバー=クロノムはこの日をもって宰相の座を辞したいと思います」

「ま、待て。クロノム、お前はこれからも僕を助けてくれるんじゃなかったのか? 母上は、あなたが僕の味方になったと喜んでいたのに」

「申し訳ありません。私は先王に仕えていた人間。新たな王の誕生を見届けた後、この座を退くことにしておりました」

「考え直してくれ! クロノム、貴方はこの国の要。今去られたら、王政が混乱する」

「病床である王妃殿下は今も目を離せぬ状況です。今後は王妃殿下の容態を見守りながら余生を過ごしたく思います」

「……」



 アーノルド陛下はショックが隠せないみたいね。

 私もまさかこの場で辞意表明するとは思わなかったけど。

 さらに追い討ちをかけるかのように、今度はロバート将軍がクロノム公爵の横に立ち、跪いた。


「私も将軍の座を辞したいと思います」

「ロバート、何故だ!?」

「陛下はエディアルド様が考案した軍の強化案を、平和を乱す行為という理由で撤廃すると仰せになりました」

「そ、そうだ。そもそも軍など、平和な世の中には無意味なこと」

「私は軍事でしか国に尽くすことが出来ぬ身です。ならば平和な世の中に私も不要ということになります。私も今日限り、将軍の座から退くことに致します」

「ま、待て!!」



 アーノルド陛下は止めようと声を上げたけれど、クロノム公爵もロバート将軍も玉座から背を向け振り返ることはなかった。


「王命だ! 二人とも待ってくれ!!」


 アーノルド陛下は声を上げた。

 王命に逆らうと不敬罪。二人はたちまち近衛兵に囲まれることになる所だけど。

 クロノム公爵の側に立つ近衛兵も一人、二人と、次々と頭を下げその場を去ってゆく。

 残った近衛兵は、アーノルド陛下の脇に立つ二人だけ。

 王命の重みが一気に軽くなった瞬間を見てしまった気がした。


「お、おい!国王陛下に逆らうのか!?」

「お、お前らも不敬罪で捕まるぞ!!」


 アーノルド側の貴族達は去って行く近衛兵達に向かって喚くけれど、今度は軍関係の貴族達が、彼らの前に立ちはだかりお辞儀をする。


「それでは我々もこれで」

「魔族襲来に備え、我が領土の強化を図りたいと思いますので」

「私もユスティ帝国の国境近くですからな。どうせ軍事費削減をするのであれば、誰かを辞めさせねばならぬのでしょう?我が領土出身の部下たちが去りますよ」


 アーノルド側の貴族たちは「どうぞ、どうぞ」とへらへらと笑っているが、中立派の貴族達は顔が真っ青になる。

 軍関係の貴族が治める領地は、精兵が多いの。本来なら弱い兵士から解雇させたいところ、強い兵士が去られては、王国軍の弱体化に拍車がかかってしまうから。


 ハーディン王国は国王中心で動いていたと思われていたけれど、実際はクロノム公爵が影の支配者だったのよね。お友達のよしみで、ずっと先王様を立てていたのよ。




 

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