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第111話 悪役王子と鋼鉄の宰相②~sideクラリス~

 もしエディアルド様が、前世の記憶が蘇らないままの、世間知らずな若者だったら、クロノム公爵の言われるままに行動していたでしょうね。

 今のエディアルド様は、ハーディン王国を動かして来た百戦錬磨の政治家を前に、臆すること無くハッキリと意見を述べている。

 クロノム公爵は、ふうっと一度溜息をついた…………うん、反抗的な息子に困っている親みたいなリアクションだわ。


「君のパパはもう少し素直だったけどねー」


 と口を尖らせている。

 ちょっと、拗ねているのかな?

 お父さんっぽいリアクションをするかと思ったら、子供っぽいリアクションをする人だな。

 この人は裏で狸って呼ばれているみたいだけど、その理由の一つはコロコロと印象が変わるからかもしれない。


「アーノルドは、まだ若い故、視野が狭い部分もあるし、世間知らずな所もあります」

「若いって……君、弟と同い年でしょ?」

「ええ、まぁ、そうなんですけど」

「君には前世の記憶がある分、年を取っているのかもしれないけど、僕からしたらまだまだひよっこだからね」


 可愛らしい童顔でそんなこと言われましても……と思うけど、実際クロノム公爵は四十代半ばぐらい、エディアルド様も前世の記憶は三十路手前だから、ひよっこであることは確かだわ。

 エディアルド様はその時何とも言えない複雑な笑みを浮かべた。


「前世の記憶が蘇る前の俺は本当にどうしようもない奴でした。公爵もご存知だとは思いますが、あの頃の俺はあまりにも愚かでした。平民を見下していたし、弟への劣等感から、歩みよってくるあいつに牙を剥いていた。それに自分の欠点を認めず、努力することも放棄していた」


 記憶が蘇る前のエディアルド様のことね。

 その頃のエディアルド様は小説の原作通り愚かな王子だったのね。


「俺が至らなかった分、あいつは自分が王になるしかないと思うようになり、そしてその為に血の滲むような努力もしてきました。まだ至らない所もありますが、あいつはあいつで人々の為に尽くす良い王になると思っています」

「アーノルド君自身には問題はないと思うよ。王の足りない所を支えるのが臣下の役割だしね。だけど、テレスちゃんは消しちゃった方がいいと思うんだよね。この際だから……聖女に新しい恋人を与えてみたら? それが勇者になるわけだし、戦力的には問題なくなるんじゃない?」

「あの聖女様は気が多いですが、アーノルドの恋人という地位は簡単に手放さないと思いますよ。それに俺が王となり、クラリスが王妃になることを受け入れるとは思えません。信者を使ってクラリスを殺そうとした女ですからね」


 小説の内容を知るミミリアは、主人公がアーノルドであることを知っている。そして原作通りにいけば彼が王になることも。この世界は小説の通りに事が進むとは限らないけれど、小説通りに進んでいる部分もある。

 現実でも耳に聞こえてくるのはアーノルドが優勢の話ばかり。ミミリアもこのアーノルドが王になる部分は小説の通りにいく可能性が高いと思っている筈。

 ミミリアは主人公の恋人のポジションをそう簡単に手放さないでしょうね。



 それに聖女に選ばれた勇者もまた聖なる魔力が使えるようになるが、その魔力を生かす為のスキルや技、能力までは与えてくれないのよね。それは自分自身で努力して手に入れなければいけない。新たな勇者が生まれたら、その勇者は一から鍛え直さないといけなくなるし。今のアーノルド殿下のレベルを越えられるかどうかも保証できない。


 剣術だけで言うと今一番強いのはウィストだけど、魔術と剣術の両方を駆使した戦いになれば、エディアルド様とアーノルド殿下の方が強い。

 この二人は主役と悪役だけに尋常ならざる力を持っているし、その力を生かす為に努力もしている。

 まぁ、今の所はエディアルド様の方が強いみたいだけど。


「アーノルドも俺に負けたことが相当悔しかったみたいですからね。人知れず鍛錬をつんでいるようです。あと、四守護士と近隣の森で魔物退治もしているという報告も、ロバート将軍から聞いています。せっかく勇者として着実に力をつけているのに、それを無駄にはしたくない」

「まぁ、そりゃ分かるけどね。あの子にはハーディン騎士団の隊長クラスが束になっても勝てないだろうから」

「鍛錬を重ね、近場でも良いので実戦の経験値も重ねてくれれば、勇者の力が目覚めた時、この上ない戦力になりますから」

「うーん、だけどアーノルド君が王になったら、君はどうするつもりなの?」

「俺は旅に出ようと思います」

「旅?」


 小首を傾げる姿はリスみたいで可愛いクロノム公爵。

 実際はリスの皮を被った鬼だけどね。

 もしエディアルド様に冤罪を着せようものなら、テレス妃をすぐにでも処刑台に送る気でいるから。


「俺が見た予知夢によると、アーノルドは学園を休業し、聖女や四守護士と共に修行の旅に出掛けます。そこで実力をあげ、伝説の剣を手に入れるのです」

「……君は詳しい予知夢を見るんだね」

「そういう予知夢を見たのだから仕方がないでしょう?」


 エディアルド様は以前、自分には前世の記憶があることと、この世界が小説の世界であるという説明はせずに、女神の神託――――すなわち予知夢として、この先、起こる出来事をクロノム公爵に話してきかせていた。

 ま、予知夢というには今のは説明臭いわよね。

 なんだか公爵に怪しまれているけれど、エディアルド様はかまわず話を続けた。


「とにかく今のままでは、魔族に攻められた時、この国はあっという間に滅びてしまいます。勇者は伝説の剣を手にしないまま、王になってしまった。俺は勇者に代わって、伝説の剣を取りに行きたいと思います」

「もう勇者や聖女なんかに頼らない方がいいんじゃないの? そうしたら綺麗にお掃除できるのに」


 綺麗にお掃除……即ち粛清ってことね。クロノム公爵は、アーノルドやテレス、それから関係者になる貴族たちなど、邪魔だと判断した人間はことごとく排除するつもりだわ。

 そういえば息子であるアドニス先輩も小説では、悪女の原因だったシャーレット家を全員処刑にしていたわよね。

 平然とジェノサイドをやってのけそうな、恐ろしい人を前に冷静でいられるエディアルド様には本当に感心する。

 一応、私も平静を装っていますが、内心クロノム公爵が怖くて仕方がない。


「勇者と聖女の力ばかりを頼るわけにはいきませんが、それでも二人の力は必要です。特に魔族や魔物が相手です。未曾有の相手ですから、あらゆる事態を想定しなければならない。不本意ですが、聖女と勇者を頼らざるを得ない事態に追い込まれる可能性も考えなければなりません」


 勇者は魔族の皇子ディノと闇黒の勇者を倒すことになるけれど。その為には伝説の剣が必要不可欠。強大な闇の魔力に守られた魔族や、魔族化した人間の身体は、普通の剣では傷つけられないのだ。

 その力が何故エディアルド様に備わらなかったのか?

 小説の設定が今ほど呪わしく感じたことはなかった。

 だけどエディアルド様は意外なことを言ってきた。


「それに俺自身も魔族と対抗し得る強い武器が欲しいのです」


 エディアルド様の武器?

 それは初耳だわ。

 魔族に対抗出来る武器を作ることが可能なのかしら? エディアルド様が、思いつきで言っているとは思えない。

 以前からそういう考えはあったのだろうけど、武器を手に入れる為に国外へ出るチャンスはなかなかなかったものね。

 だけど、今クロノム公爵にそれを言う、ということは、武器を手に入れるチャンスが到来したと踏んでいるのだろう。


「隣国のユスティは、軍事国家。優れた鍛冶師がいることでも有名です。俺はその国へ行きたいと思っています」


 勇者の剣が隠されているピアン遺跡。

 そのピアン遺跡があるピアン島は、ユスティ帝国の領土内になる。勇者の剣を手に入れるついでに自分の武器も手に入れようと考えているのね。

 あ……勇者の剣の方がついでなのかな?

 ピアン遺跡ということは、もしかしてクリア・フレムの書も取りに行けるってこと!?

 勇者と聖女がダンジョン攻略するのは期待できないし、私たちがダンジョンに挑むしかないわよね。

 クロノム公爵は苦笑してから、エディアルド様の方を見た。


「魔族の事に関しては、僕よりも、やたらに詳細な夢を見ている君の方が詳しそうだね。エディー、僕に手伝えることはないかな?」


 クロノム公爵が、エディアルド様に指示を仰いだ? 

 そもそもこの人が指示を仰ぐなんて、小説の中でも有り得なかった。

 クロノム公爵は心の底から、エディアルド様が国王になることを望んでいる。

 彼の中では、とっととテレス妃や関係者貴族たちを排除したいという気持ちなのだろう。

 エディアルド様がそれを後回しにしているのは、さぞもどかしいに違いない。


 だけど、エディアルド様は魔物たちとの戦争を想定している。ディノが現れた以上、戦争は避けられないと考えた方がいい。

 そんなときに身内で争っている場合ではない。特に勇者であるアーノルドと争いになるようなことは避けたい。そんなことをしていたら、瞬く間に魔族につけ込まれ、この国は滅びてしまう。

 クロノム公爵もエディアルド様の考えを理解したからこそ、指示を仰いだのだろう。



「まずは俺が王位を放棄すること、アーノルドを王に推挙することを王室の公式発表としてすみやかに報道関係者に伝えてください。王室は内部分裂を望んでいないので、俺の申し出を快く受け入れる筈です」

「それは任せてよ。明日には国の隅から隅まで君の意志が国民に伝わると思うよ」

「あと、公爵は出来るだけアーノルドに寝返ったような顔をして、俺をウェデェリア島の領主にするよう、進めてください」

「ウェデリア島?でも、あの島は……」

「テレス達は嬉々として受け入れると思います」


 ウェデリア島。

 小説では亡き国王様がまだ生きていて、悪役王子エディアルドにウェデリア島の領主になるように命じるシーンがあった。

 成る程……あの島を自分のものにするつもりね。

 ウェデリア島の領主の座を手に入れれば、旅もしやすくなるものね。


「あと出来るだけ軍の強化を。それと魔術師の強化もお願いします。薬師たちにはなるべく沢山の回復薬等を多く作らせておいて欲しいですね」

「一応考えてはみるけど、お金ないと困るからねぇ。アーノルド君が王様になった場合、今一度軍事削減を考え直してもらわないとね。そうしないと助けてやれないよ」

「そこはアーノルド次第になりますね」


 軍事費削減、か。

 そういえば小説にもそういうくだりがあったわね。平和な世には軍事は不要という理由で、軍事費削ったのよね。そのお金で孤児院を建てたんだけど。

 だから魔物が攻めてきた時、苦戦するんだって、小説を薦めてくれた姪っ子が怒っていたの思い出したわ。



「クラリス、これから外国旅行に行くことになるけどいいかな?」


 エディアルド様の問いかけに、私は迷いもなく首を縦に振る。

 ピアン遺跡は私も行きたいと思っていたし。

 そうじゃなくても、例えそこが極寒の地だったり、砂漠の地だったとしても。

 あなたの行く先、どこにでも付いていくつもりです。

 だって私はあなたの婚約者なのだから。


 


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