誘拐
黒田議員誘拐の一報は直ぐに入った。
深夜とはいえ国道43号線の交通量は多い。
センチュリーとダンプカーが接触した瞬間、後続車両は事故だと思い数十メートル間を開けて一斉に停車した。
その後に目の前で起こった事が、まるで映画の世界の出来事の様で。
目撃者達は口を揃えて。
「現実味が無いと言うか…銃で車が穴だらけになった段階でその場に伏せて動かなかった」
白い2トントラックがセンチュリーの後ろに停車して、中から目出し帽の男が飛び出した瞬間。
「こっちも撃たれるかも!…そう思ったら車の中から出れなかった」
しかしスマホで撮影していた猛者も数人おり、銃撃事件の一部始終はネットにすぐに流された。
センチュリーの後部座席からスーツを着た警護課がアスファルトに放り出されるのも、起き上がって銃を抜いた瞬間に撃たれたのも、全てが国民の知る所となる。
「撃たれた人がアスファルトに頭から倒れた時は…もうダメだと思って」
震えが止まらなかった、そうインタビューには答えている。
その後、センチュリーの後部座席から女性が引きずり出されて、2トントラックの荷室に放り込まれると、黒尽くめの襲撃者達はその場を後にした。
「後部座席から引き摺り出れる間、ずっと悲鳴が聴こえて来て怖かった」
白塗りのトラックがその場を後にした後、しばらくの間、誰もが動けない。
「5分か10分?…皆んな固まって動けなくて」
1人、また1人と倒れている晶の側に寄ると、やっとスマホで警察に連絡する人達が現れ出す。
「そのうち何人かが倒れている女の人の脈を見たりして」
生きてるぞぉ!救急車!、の声に反応して救急車を呼ぶのだが。
救急車やレスキュー隊、警察などが到着するのには渋滞する車両を退かさねばならず、非常線を張るには時間のロスが立ち過ぎていた。
マーと杉本を乗せた2トントラックは一旦幹線道路を離れると脇道にそれる。
泉との待ち合わせ場所に着いて停車すると、トラックの中からドンドンとボディを叩く音が聴こえる。
マーが軽く舌打ちすると泉の乗ったワゴン車が近付いて来た。
トヨタハイエース、白いボディの後部座席側の窓が全てガラスの代わりにボディと同じ金属で覆われている。
運転席から降りた泉が、麻袋とダクトテープをマーに渡すと。
「窒息しない程度に拘束しておけ」
そう言うとマーが2トントラックの荷室に素早く入った。
一瞬だけ悲鳴が聞こえたが、頭から麻袋を被せられ、手足をダクトテープで肘や膝までグルグル巻きにされると大人しくなる。
「今度騒げば殺す」
そうマーが言うと車内に転がった身体がビクッっと反応してから力尽きた様に動きが止まった。
トラックの荷室に鍵を掛けるとマーと泉に。
「ここからは別行動だな、お疲れさん」
そう言ってから2人の肩を叩くとマーが。
「一人で大丈夫なのか?」
心配そうな声でそう言うと杉本が目出し帽の下で笑いながら。
「一人だから良いんだよ」
計画にイレギュラーが出てもその場で変更出来ると言い。
「今回の太客からの条件だからな」
裏で動いている太客の所まで司法の手が廻らない為に。
傭兵に仕事を回したのだ。
「せいぜい引っ掻き廻すさ」
そう言うと杉本は一人2トントラックに乗り込むと、その場を後にした。




