卒業
あれから3年の月日がたった。
小学生だった2人も中学3年生、大方の子供らが高校に進む中、1人。
杉本だけは、陸上自衛隊高等工科学校に進む事になった。
「本当に…良いんだな?」
担任が杉本の顔を見ながら確認すると、こくりと頷いて。
「あそこなら無料で授業も受けれて生活も出来るし…」
給料も出る、その言葉は飲み込みながら。
「叔父夫婦は…進学はさせない…っと言うので」
叔父夫婦の家を出て独立したい、そう担任に言うと。
「高校に進学させずに中卒で働かせる、そう聞いた時は正気を疑ったよ」
納得した顔で担任も頷く。
2年前、杉本の両親は自動車事故で亡くなった。
過積載のダンプが、赤信号で交差点に突っ込んだ先に、2人が居た。
横断歩道を渡っていた両親に落ち度は無く、保険金とダンプの会社から見舞金が出たのだが、未成年の杉本の手に渡る前に叔父に全て取られた。
それだけでは飽き足らず、学校が終わると工場で無料で手伝わせた。
「ここに置いてやって、飯まで食わせてやるんだぞ」
手伝って当然だと威張り散らす叔父。
それでも高校には行かせるだろうと思っていたら。
「中学卒業したら工場で働け」
そう言って口から出た金額は最低賃金を下回る額で、その事を言うと。
「住ませて食わせてやってるんだ、その分引いて何が悪い」
中卒なんだから、ありがたく思え。
一生を使い潰す奴隷を見る目で甥を見ていた。
年が明け、それぞれの受験が終わる頃。
杉本は自衛隊高等工科学校に受かった。
「勝手に受けて、受かったから工場を出て行くだと?」
案の定、叔父とは揉めたが担任が。
「それ以上おっしゃるなら出る所に出ますか?」
本来ならば杉本が受け取るはずだった保険金や見舞金の事を言うと。
「民事で裁判しても良いんですが?」
そう言うと叔父夫婦は、あれは引き取る時の迷惑料だと言うと。
「自衛隊でも何でも入れば良い、2度と顔を見せるな」
そう言うと、逃げるようにその場を後にした。
その後、入学式まで担任の家で過ごすと杉本は最後にゴリにだけ別れの挨拶を済ませると、神奈川県にある自衛隊高等工科学校に向かった。
それから数年の間は、ゴリや担任との年賀状のやりとりも続いていたのだが。
自衛隊を除隊して海外に渡ったのを最後に音信不通になった。
そして時は流れ、昭和から平成へ。
平成から令和へ、数十年の歳月が流れた。
南河内警察署に勤めるゴリが家で寝ていると、枕元に置いてあるスマホが鳴り出した。
上司からの電話に出ると。
「ゴリさんか?八尾で殺人事件だ」
ゴリが確定ですか?と聞くと。
「射入口と射出口、おそらく45口径だろう」
現場に直接来てくれと言われて場所を聴いた時、ゴリの頭の中で数十年前の記憶が蘇った。
「八尾の町工場で名前は…杉本、おそらく夫婦だろう仏が2つ転がってる」
かなりの年配だと聞くゴリのスマホを持った手が、微かに震えていた。




