派遣
兵庫県宝塚市、宝塚歌劇団で有名な宝塚だか昔は遊園地もあった。
宝塚ファミリーランド、封鎖された遊園地の跡地の近くで、家屋の解体が進んでいた。
重機が屋根を壊す場所に水が撒かれている、埃が立つのを防ぐ為だ。
ディーゼル機関の大きな音が立つ度に、バリバリと悲鳴を上げながら家が解体されて行く。
ゴリと晶が解体工事の現場に着いて暫くすると、お昼休みになった。
現場監督らしい人に尋ねると重機に乗った人がそうだと教えられる。
ディーゼル機関の音が止まって人が降りて来た、ヘルメットを被った姿が様になる中年の男にゴリは声を掛けた。
「すみません…佐野さんですか?」
煙草を咥えた男が俯くと。
「話が聴きたいんだって?」
そう言うと、咥えた煙草を地面に落として半長靴の皮の安全靴で火を消した。
重機の運転席に座って、佐野が宅配弁当、赤いプラスチックの容器に白米と惣菜が分かれて入った弁当を食っている。
ゴリと晶は立ったまま話を聞いていた。
「杉本か…懐かしいな」
弁当を食いながら途切れ途切れに、佐野は話を聴かせてくれた。
「あいつとは同室だったんだよ」
自衛隊下士官養成学校は全寮制だ、杉本達の時代は4人部屋で生活する。
「俺も杉本も行く所が無くて入った方でね」
佐野の両親は離婚して、母親に引き取られたが再婚した男に反発して家を飛び出した。
「学校の先生が、お前の成績で入れる全寮制の学校があるって言われて」
学校入って飯も無料でおまけに給料も出るって聞いて、天国か?って思ったよ。
そう言うと苦笑いしながら、入ったら訓練がマジでキツいから。
「俺も杉本も身体能力は低いから…配属されたのは施設課、昔で言う工兵に配属されて」
施設課では重機の運転から橋や陣地の構築、地雷の撤去などの訓練を受ける。
「車にトラック、ユンボにショベルドーザーの免許が取れるから、2人とも大喜びでドンドン免許取りに行って」
当然ながら免許証が更新される度に手当が付く。
「これで除隊して外に出ても食いっぱぐれは無いって喜んでたら」
決まったんだよ、俺達の部隊の海外派遣が。
そう言うと、食い終わった弁当に蓋をして煙草を吸い始めた。
「カンボジアに派遣されて…暫くすると杉本は自衛隊を除隊した」
何があったんです?
そうゴリが聴くと、佐野は懐から名刺を取り出してゴリに渡すと。
「悪いが…退官しても守秘義務はあってね」
俺の口からは言えない、そう言うと。
「名刺の人に聞いてくれ…当時カンボジアに居たジャーナリストだよ」
丁度、昼休みが終わって作業再開の声が聴こえると、佐野は空の弁当箱を持って重機から降り立つと。
「本物の兵士になる…そう言って杉本は除隊して行ったよ」
そう言うとプレバブの現場事務所に歩いて行った。




