照合
あれから3日たった、未だに攫われた議員の足取りは不明のままに。
警察が緊急配備を掛けても全てが空振りに終わった、対象のナンバープレートは複製された架空の物であり足取りも掴めず捜査員は途方に暮れていた。
北港からローラー作戦で巡回するくらいしか目処が立たない、そんな諦めムードに光明が射したのは、科捜研からの報告で。
晶が撃たれた弾の検査の結果、他の事件と同じだと。
八尾で起きた町工場夫婦の射殺事件、その凶器で使われた大型拳銃と同じライフルマーク。
弾の種類も同じメーカーの軍用弾だと現場に残された空薬莢から断定された。
「南河内警察署に何人か送って捜査状況を」
そう言いかけた捜査課長の目に前に現れたのは。
「自分が…」
頭に包帯を巻いた晶がそう言うと。
「…アンタ怪我人だろうが…それに」
事件の関係者は捜査から外される不文律が警察にはある、捜査に中立を持たせるためだ、そう言いかけた時。
「私だけが犯人を見ています」
晶自身も必死に自分を売り込んだ、捜査本部も本来なら摘み出されてもおかしくは無い、本部で雑用を手伝いながら捜査状況に聴き耳を立てていた。
周りもそれに見て見ぬ振りをしたのは、同じ警察官でもあり警護対象を目の前で攫われた晶に同情した部分もある。
刑事課長は無言でしばらく考えると、晶に条件として。
「捜査に口は出さない、あくまでオブザーバーとしてだ」
そう言うと数人の捜査員の中に晶を入れて送り出した。
南河内警察署管内は田舎のベットタウンにあたる。
これといった産業も無い、家と畑の田舎町、高速道路を使えば北港から1時間もかからない。
犯罪も少なく、地方署にはよくある三町合同の警察署。
田舎町が三つ寄り集まって一つの警察署の予算しか降りない、1番多いのが自転車などの窃盗事件で、殺人事件は数年に一度しか起きない。
そこの所轄のゴリは、八尾で起きた町工場夫婦の殺人事件本部で捜査に明け暮れていた。
一旦帰宅して風呂に入りたい、徹夜で報告書を書き上げて署を出る寸前に呼び戻された。
署内の小会議室に入ると、北港から来た捜査員に捜査状況を聞かれるが。
「こっちの情報だけ教えるのはフェアじゃ無かろう?」
3日ぶりの風呂を邪魔されたゴリの機嫌はすこぶる悪かった。
言われた捜査官達はお互いに目を合わせると。
「…ここだけの話にして欲しいんですが」
躊躇いながらもわかっている事を説明していく。
襲撃に使われた突撃銃は米国で売られている民生版と思われる事。
バレルなどを交換して5・56mmから300BLACK OUTに換装している事。
弾は全て軍用弾が使われており、これも米国のメーカーである事。
「最後に…使われた拳銃なのですが」
八尾の町工場夫婦殺害に使われた物と同じ凶器と科捜研からの報告があった事。
そこまで聞いてからゴリは撃たれた3人の容体を聞くと。
「3人とも怪我はしていますが…」
突撃銃から放たれた300BLACK OUT弾は、車体とエンジンでそのエネルギーを吸収されて身体には致命傷は無かったが。
「破壊された車の部品が身体にめり込んで…」
前席に居た2人は入院中、残りの1人も肋骨にヒビが入り、頭部に打撲を負った。
それを聞いてゴリが一言。
「運が良かったな、その3人は」
それを聞いて、晶がその場を立つとゴリに食って掛かった。
「運が良いとは、何の根拠があって!」
隣の捜査員に、座れと手を引かれながらも晶はゴリを睨みつけるのを辞めない。
それを見てゴリは溜息を吐くと。
「犯人が本気なら…アンタら全員」
今頃死んでると言うと説明を始めた。




