記憶
目が覚めたら2時間が経過していた。
椅子から立つと、外に出るのに観音開きの扉を少し開けると金属の軋む音が響く。
廃墟の外は、薄く日が差して雀が鳴いていた。
その光景は、昔の記憶を思い出すきっかけになった、この街を出るあの日の朝。
俺はここは来た、アレを隠す為に。
用水路に向かうとコンクリート製の短い橋が見える、それを渡ると畑の跡が広がっていた。
ここが何十年も売れない理由の一つに、この中途半端な広さと用水路がある。
用水路は大阪府の管轄になる為に、周りは国の物になり、住宅を建てるには別に道路が必要になる、そうなると家を建てる面積が狭くなる。
開発しても元が取れないので放置されたまま、それが今回は吉と出た。
畑の真ん中に農具を入れる小屋と、柿の木があった、鍵の掛かってい無い小屋を開けると、錆び付いた鍬やスコップが散乱していた。
鍬を持って、柿の木との間の地面を掘る。
暫く掘ると、目標に埋めたレンガが出て来た、それを見た瞬間に心拍数が上がる。
それと同時に記憶が戻って来た、学生服を着てスポーツバックを持った俺はここに来た、俺の宝を埋める為に。
震える手でレンガを退けると、錆びたブリキの缶が出て来た、何処にでもあるお菓子の贈答用に使われる四角い缶。
蓋が開か無い様に、封印に使ったガムテープは、長い月日の中でボロボロに朽ち果てていた。
懐から折り畳みナイフを出すと、ガムテープに切れ目を入れる、上蓋に沿って入れるとそっと蓋を開けた。
中にはビニールで封印された、油紙が入っている、元は透明な色が汚れで黒く変色している。
ナイフでビニールを裂くと、茶色い油紙が出て来た、たまに黒い染みが浮いているのは中身が錆び無い様に油を塗って保存した為だ。
包みを開けると子供の頃のお宝が出て来た。
銀色の中に所々、緑色の錆の浮いたモデルガン、コルトガバメントM 1911A1。
自衛隊の下士官養成校に入学する為に、この街を出る朝に埋めた俺の宝。
叔父の家には置いて置かなかった、売られるか捨てられる未来しか見えない。
しかし学校にも持ち込め無い、この街と訣別する為にも、ここに埋める事にした。
両親と共に過ごした、1番幸せだった記憶の残るこの場所に。
錆びたモデルガンを抱き締めながら、いつの間にか泣いていた。
「ゴリちゃん…会いてえよお」
少年時代を共に過ごした記憶が蘇る。
自転車で駆け回り、駄菓子屋に寄って古墳や天満宮で遊んだ記憶。
道明寺天満宮の敷地の中にある、柘榴の実を食べながら遊んだ記憶。
「だけどもう…」
戻れない、会うわけには行かない。
モデルガンを残して後は穴に埋め戻した。
鍬を小屋に戻すと、廃墟に向かって歩き出す。
この仕事が終わったら、全てにケリをつける。
まずは、警察の非常線が無くなるまでここに身を隠す。
廃墟に入る時の顔は傭兵の顔に戻っていた。




