廃墟
杉本の目的地は子供の頃に遊んだ工場跡。
両親が勤めていた、魔法瓶のガラス工場だった場所で、杉本自身も子供の頃は遊びに来ていた。
一階にある食堂のおばちゃんにオニギリを貰って食べ、寮の風呂に皆で入って両親と手を繋いで帰った日々。
杉本の記憶の中で、1番幸せな時代だった。
その工場もステンレス製の魔法瓶が出始めると先細りになり、工場は閉鎖されてから一時期は倉庫として使われた。
しかし、いつの間にか閉鎖され、中も空の状態で今に至る。
昔の作りのコンクリート製の建物は頑丈で、割れた窓ガラス以外は当時の姿のままであった。
杉本は手早くトラックから降りると、敷地の門を開ける。
鎖と南京錠は新品と交換していた、トラックを敷地に入れて施錠し直すとトラックごと廃墟の前に移動すると、観音開きの鉄製のドアを開けた。
建物の中は真っ暗で闇が深い、ライトをハイビームに切り替えて奥まで入るとプレハブ小屋が見える。
元々は倉庫として使われた時の事務所なのだろう、スチール製の机と椅子に来客用の皮の長椅子が置いてあった。
中は軽く掃除をして、日向に干して埃を払ってある、窓枠には金網を貼りドアに付いていたダイヤル錠は新しく替えてある。
消音型のディーゼル発電機が道路工事に使う提灯と共に小屋の外に置いてあった。
車を停めるとディーゼル発電機のスタータースイッチを回す。
低く唸る音を立てて電気が作られる、提灯に灯りが灯るとトラックのエンジンを切った。
コンクリートの建物の中に低い音が聞こえて来るが、外に漏れる音量でも無い。
トラックの後ろのドアを細めに開けて中を確認すると、黒田議員が荷室の中程に倒れ込んでいた。
「外に出ろ」
そう声を掛けるとノロノロと上半身を起こしながら。
「ここは何処?…」
そう言ってから頭を押さえていた、走る途中で何度か頭をぶつけた様だ。
「場所は知る必要は無い、さっさと出ろ」
そう言いつつ消音器付きのガバメントを向けると、慌てて身体を起こす。
這う様に端まで来ると、一旦座ってからトラックの外に出ると。
「廃墟?…」
その声を無視して。視線と銃でプレバブ小屋に誘導する。
「中に入れ、机の上に水と食料がある」
言われて黒田が見ると、コンビニ袋の中にチョコレートバーとペットボトルに入った水が置いてあった。
「寝る時は長椅子を使え、毛布も置いてある」
そう言うと、軽く黒田議員の背を押して中に入れてからドアを閉めて鍵を掛ける。
「わかっていると思うが、逃げれば撃つ」
そう言うと杉本はその場を離れると、すぐ近くにセットしてある自身の寝ぐらに向かう。
キャンプに使うテーブルや椅子、ハンモックにテントなど、おおよそ廃墟には似合わないセットが置いてあった。
テーブルの上に突撃銃を置くとキャンプ用の椅子に座って仮眠を取る。
数時間で夜が明ける、それまでの貴重な数時間を休憩に使うのだ。
明日やる事を考えながら、意識の一部を残して、浅い眠りの中へと入り込んで行った。




