撹乱
杉本は2トントラックに乗ると、幹線道路とは一本隣の住宅地の私道をジグザグに走る。
幹線道路なら1時間で着く距離を、2時間3時間とジリジリと進むには訳がある。
幹線道路にはNシステムと呼ばれる警察の監視網があり、通る車のナンバーは記録される。
しかし私道や農道など交通量の少ない道路はこのシステムの範囲外になる。
ジグザグと亀の様に進みつつも、南へ南へと一歩一歩進み出した。
一方、泉とマーの乗る白いワゴン車は幹線道路沿いのコンビニを物色しだした。
この深夜帯は、コンビニの補充のトラックが店に商品を運んで来る。
しかし店の駐車場を使うにしても、1番端の邪魔にならない場所や、少し離れた道路に路駐して搬入するのが大半になる。
泉とマーはその中から白い2トントラックを見つけると、コンビニの監視カメラの死角から近付いては、前と後ろにしゃがみ込む。
ワゴン車から離れて2、3分で終わるその作業を、何度も繰り返しながら東へ東へと移動しながら東大阪の倉庫に辿り着く。
一方その頃、此花区北港通りにある此花警察署は蜂の巣を叩いた様な状態になっていた。
署から目と鼻の先にある場所での議員誘拐事件。
犯人達は武装しており、襲われたセンチュリーは前も後ろも穴だらけにされた上に、乗っていた警護課2人と議員の秘書も病院に搬送された。
「監視カメラとNシステムで犯人の車を割り出せ!」
膨大なデータから探すのに悪戦苦闘しているうちに、現場の鑑識課から吉報が届く。
「センチュリーの車載カメラのデータが生きてました!」
カメラ自体は銃撃で破壊されていたのだが、それまでの録画データの取り出しに成功し、すぐにナンバーが手配されると同時にNシステムのデーターを洗い出す。
「ログを遡りました!現在移動中です!」
「現場に1番近いPCを向かわせろ!急げ!」
此花区のコンビニの配送を終えた2トントラックが倉庫に帰る途中、PCのサイレンが近付いて来た。
左に寄せてPCをやり過ごそうとした瞬間、赤いパトランプが前に割り込んで来る!
「うそやろ!あぶなっ!」
そう言いながら急ブレーキで止まる2トン車!
荷室にあるオリコンやボックスパレットが盛大な音を出して雪崩の様に倒れ出す!
「あー!荷物!」
そう思って慌てて外に出たドライバーをPCから飛び出した警察官が引きずり倒した!
「確保おおおおおおお!」
数人の警官による、まるでラグビーのスクラムの様な状態の下で手錠を掛けられたドライバーは、酸欠で意識が飛ぶ寸前になる!
その時、合流したPCから警官数人が降りるとトラックの後ろのドアを開けた。
「議員が居ないぞ!荷物だけだ!」
地面に貼り付く様に押さえ込まれた、ドライバーの方に移動し掛けたその時!
身につけていた無線機から信じられない情報が飛び出す!
「手配車両と同ナンバーが移動中!場所はUSJ通り!」
それを聴いた警察官が無線機に。
「おい!嘘だろ! 手配車両は今!」
目の前に!そう言いつつトラックのナンバーの前に座り込むと、息を呑んだ!
ナンバープレートが僅かに斜めにズレていた!手袋をした手でナンバープレートを触ると。
カチッ!っと音がして真っ直ぐになる!
慌ててナンバープレートを確認すると!
「じっ!磁石?」
斜めにズレていたナンバープレートの下から、別のナンバープレートが見えていた!
取れたプレートには裏に強力な磁石が付いていて、近付けると吸い込まれる様に貼り付く!
「報告!ナンバープレートは偽物です!」
その報告が入る数分前に、手配車両が何台も確認されていた。
「指令センターより全PCへ」
「全ての手配車両を検挙せよ」
そう、そう指示するしか無かった。
どれが当たりかわからないなら。
総当たりするしか方法が無いのである。
一方その頃、杉本の乗る2トントラックは自前で用意した隠れ家に辿り着いていた。
その助手席の上には襲撃の時に使ったナンバープレートが役目を終えて転がっていた。




