2話 乗っ取り計画始動!
「乗っ取るって……一体どうする気なの……?」
幽香が怪訝な顔をしてこちらを見る。
そう簡単に行く話じゃないから、この反応は当然だな。
「あのゴミがさっき昔は手紙でやってたって言ってたでしょ。裏を返せば、ここ最近は僕達みたいに拉致してるって訳じゃん」
「うん、それで……?」
「拉致された人達や、この島のことを良く思ってない人達を集めればさ。もしかしたら対抗できるんじゃないかって話」
「なるほど。でも私達はこの島から脱出できればそれでいいんじゃないの……?」
幽香は首を傾げながらそう聞いてくる。
「いや、それだと日本に戻って来てもまたあのゴミとかに追われるだけだよ。だから先に徹底的に潰しとかないと」
「逃げてもいつもの日常には戻れなくなるってこと……?」
「そゆこと。幽香ももうあんな目に遭うの嫌でしょ?」
僕がそう言うと、幽香は激しく縦を首を振って同意する。
「うん……。今思い出しただけで……あっ、イヤァァァ!」
「落ち着け幽香! とりあえずゆっくりでいいから深呼吸を!」
幽香はあの時のことがフラッシュバック(トラウマを思い出すこと)したのか、発狂してしまった。
幽香はしばらくソファで縮こまり、怖いと連呼している。
「幽香! なにか別のことを考えるんだ! ……そうだ!」
僕はとっさに例の首輪をぶっ壊すと、僕の魔法を使って飼い猫のクロを召喚する。
「ほら、幽香! クロ呼んできたぞ!」
僕はクロを幽香の近くに置くと、クロに頼んで鳴き声を出させる。
すると、幽香はこっちを向くと、目を見開いてでこう言った。
「なんでお兄ちゃん魔法使えてるの……?」
「ああ、なんか簡単に首輪外せたよ。多分島で魔法を封じる気はないんじゃないかな。幽香もやってみ」
「うん……」
良かった。気をそらせたみたいだ。
「あ……ほんとだ……」
幽香の方を見ると、幽香は首輪を外し、近くにいた幽霊を操っている。
記憶の整理のためにも、一度魔法について復習するとしよう。
魔法。僕達、いや……この島の住民が使える力だ。
某主人公の額に稲妻の傷がある小説と違うのは、魔法使いだからって複数の魔法が使える訳ではないというところだ。
例外はあるが、基本一人の魔法使いが使える魔法は一つだ。
例えば僕は、生き物と意思疎通し、契約することができる魔法、「生物契約」を持っている。
契約した動物は今みたいに召喚したり、いつどこにいても意思疎通ができたり、五感共有などができる。
他にも色々できることはあったと思うけど、今は思い出す必要はないかな。どうせ今は調査するだけだし。
幽香は見ての通り、幽霊を操る「幽霊操作」という魔法が使える。
基本幽霊には意識はなく、僕の魔法みたいに意思疎通や五感共有はできない。
が、代わりに幽霊に物を持たせたり、生き物に幽霊を憑依させたりできる。
あ、他にも怪奇現象全般引き起こせるんだっけ。
正直強さで言ったら明らかに僕より幽香の方が強い。
あのゴミに襲撃された時も、不意打ちさえなければ幽香が勝っていただろう。
何なら僕が先に不意打ちされていれば……いや、今更考えても仕方ないな。僕らしくもない。
そんなことを考えていると、幽香が話しかけてきた。
「ありがとう……だいぶ落ち着いてきた……」
「そう、なら良かった。また思い出しちゃったらクロのこと考えな。別のこと考えないとずっと沼にはまるから」
「うん……そうする……。とりあえず乗っ取り計画の話続けて……」
幽香は苦しそうな顔をしてそう言う。
「今そんな話して大丈夫なのかい?もうちょい休んだ方がよくない?」
僕がそう提案すると、幽香は首を横に振る。
「休んでどうこうなる問題じゃないから……」
幽香に対する対応に僕は少しの間迷っていたが、話を続けることにした。
「分かった。でも無理はしないでね。で、話の続きだけど、とりあえず今は島を調査しようと思うんだ。僕達はこの島のことなんも知らないし」
「うん……それで……?」
幽香はソファに倒れ込みながらそう聞いてくる。
正直休んだ方がいいと思うけど、本人が休まないって言ってるからなぁ。
「そこで僕の魔法が火を吹くってわけ。ほら、僕の魔法なら動物達と視覚共有したり、情報を聞いたりできるからさ」
「なるほど……。ところで私は何すればいいの……?」
「幽香にはこの島の幽霊から話を聞いてほしいかな。僕とかに憑依させればできるでしょ?」
「うん……それじゃ早速やるよ……」
幽香はそう言って近くの幽霊を僕に憑依させようとしたので、僕は慌てて幽香を止める。
「いや、今じゃなくていいよ。先にある程僕の方の調査をしてからやろう。それまでは……どうしようかな」
僕は他に今幽香ができることがないか考える。それも、できるだけ危険のないものを。
「うーん……それじゃ、書記をやってもらえるかな。生き物達が見つけてくれた情報を書いてくれればいいから」
「うん……分かった……。頑張る……!」
「……くれぐれも無理しないようにね」
ただでさえ体が弱いのに、精神的にも弱ってる幽香にあまり仕事はさせたくない。
さて、そろそろ動物召喚とするか。
そう考えた僕は召喚する動物達に、予め召喚していいか聞く。
そして、了承をもらった後、中庭に出て、ゴキブリとネズミ数匹と、カラスを数羽出す。
すると、後ろから悲鳴が上がった。どうやら幽香が見ていたらしい。
「なんでゴキブリなんか出してるの……?」
「そりゃこの子達を調査に出すからだよ。彼らは凄いよ。三億年も前からずっと絶滅しないで生きてるから」
「そんな前からいるの……!?」
「うん。彼らのたくましさは正直尊敬してるよ。そんな彼らだからこそ頼むんだ」
僕がそう言うと、幽香はなにか別の生き物を見るような目で僕を見てきた。どうやらこの話の面白さが理解できなかったらしい。
残念だなぁ……。分かってくれたら色々話せたのに。ゴキブリの異常な生命力の秘密とか。
僕がそう残念がっていると、幽香がこう質問してきた。
「……ところでなんでネズミとカラス採用したの……?」
「ネズミはゴキブリ同様隠れるのが上手いからだね。カラスは単純にこの島にたくさんいて、紛れ込めるから。それに夜目も利く」
「ふーん……」
幽香はこれ以上深入りしたくないのか、適当な返事をして話を終わらせる。
僕はその幽香の行動を悲しみながら、動物達を島に放つ。
「さて、今日はもう遅いし寝ようか。果報は寝て待てって言うしね。」
「うん……おやすみ」
僕達はそう言って各自寝床へと向かう。
が、ここで一つ問題が発生した。
「なんでダブルベッドなの……?」
「……倫理観が欠けてるからじゃないかな」
それは、寝室が一つしかないことだった……。
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