リアリティー・ショー
年末、会社をクビになった男が仕事を探していると
未経験者可で年齢不問の求人募集が眼に入った
受付電話番号へと連絡して面接の約束を取り付け
面接場所に出かけていくと
会議室らしき所へと男は案内され
しばらく待っていると
面接官が入ってきて質問をしてきた。
「貴方はパスポートを持っていますか?」
そう聞かれ男は答える
「はい、持っています。
去年、海外旅行に行って作りました。」
その言葉を聴いて面接官は答える
「明日から出社して下さい。
ただ一週間ほど研修旅行になるので
着替えなどを用意して来て下さい
研修旅行中の費用は会社持ちになるので
会社のカードと前渡し金は明日、支給します。」
そして出社初日、男が会社へと行くと
”権力と金を持っている偉い人”
と聞いて誰もがイメージするような
威厳とか、荘厳な品格を漂わせる人が
昨日、採用面接で会った面接官と一緒にいた
「こちらが我が社のオーナーです」
面接官が言う。
会議室のテレビ会議用の大きなモニタに世界地図が表示され
その地図を目掛けてオーナーが
”デジタルダーツの矢”のようなものを投げ
それは、アフリカ大陸の南に位置する国に刺さった。
次に、その国の地図を拡大されてモニタに表示され
オーナーが、もう一回”デジタルダーツの矢”を投げて刺さる。
それを見届けると面接官が、こちらを向いて言う
「キミには、この国に行ってもらいます
このダーツが刺さった所に連れて行くので
指定した空港まで戻ってきて下さい
お渡しするスマホに通訳アプリも搭載するので
それを使って現地の人と会話して下さい
一般的な簡単な単語を選んで言えば通じると思います
ルールとしては、2つだけです
一つは、小型中継カメラ・マイク搭載ウエラブル端末メガネをかけ
トイレとかシャワーを浴びる時以外は
スイッチを入れてメガネをかけていて下さい
キミが何を言ったかとか、何を見たかの全てを
動画配信して実況して、中継を御客様に見てもらうので、
あと一つは目的地である空港への道について質問してはいけません
この国にいる人間は基本的に詐欺師や泥棒です
金を持っていそうな人間を見たら
騙して身包みを剥がして全財産を巻き上げます
だから、何かを聞いても騙すための嘘しか言いません。
警察に相談しても
”騙される間抜けなのが悪い
いいじゃないか金を持っているんだろ?、
こんな所まで遊びに来れるくらいに
アンタラみたいな外国人にとっちゃ、はした金だろ?”
というような言葉が返ってくるだけで
盗まれた金は戻ってきません。
人間を見たら泥棒か詐欺師か強盗だと思って
誰も信用しないのが正解です。
君以外にも、同じ国に行って空港へと戻ってくる人が数人いるので
それら他の参加者と誰が一番早く空港まで来れるか競争してもらいます。
誰が一番早く戻ってくるかで貰える報酬が決まります
一番、早く戻ってきた人が一番、高い報酬を受け取れて
一番、遅かった人は、一番、安い報酬しか受け取れません。
では、頑張って下さい。
一応、拒否して今から言う空港に約束の時間に来なくてもかまいませんが、
その場合、一旦、我々に、やると言って約束を破った人間が
今まで死ぬまで失業者となったのと同じ人生を歩む事になると思うので
あらかじめ言っておきます。」
プライベート・ジェットらしき飛行機に乗せられ
空港に到着した跡、車に乗せられ
今まで見た事も無い風景が広がる街で車を降ろされる
そして指示された通りに渡されたメガネのスイッチを入れ
空港までのレースゲーム スタート
まずは、レンタカー屋さんを探す
移動するにして乗り合いバスらしき公共交通機関とかを
利用すると、とても危険な事になるらしい
昨日、一夜づけで調べた本とか、ネットとかに
どれだけ危険な国なのかが書かれていた
公共交通機関を観光客が使うと
そういった人々を狙う窃盗団が忍び寄ってきて
置き引きや強盗にあって有り金を全部とられる事が
よくあるというような事が
空港近くの大都市スラムが一番危険らしいが
どこに、そこと同じくらい危険な地域があるかわからない
一応、地図が渡され、出発位置と空港位置に記しがつけてある
地図を渡される事すら、やけに親切だなと想えてくる。
が、しかし、それすらも、中継を面白くするために
何か仕掛けをしているんじゃないかと疑ってしまう。
中継用カメラ付メガネで中継される画像が
生中継なのか、一旦、中継された後に編集されて
放送されるのか説明は無かったが
一応、生中継されている前提で行動した方が、いいのだろう
このアフリカの風景を
どこの誰とも知らない不特定多数の人々と
一緒に見て過ごすのが仕事なのだ
そう割り切って行動しようと自分で自分に言い聞かせる。
レンタカー屋を見つけ、通訳アプリを使いながら注文
一番、頑丈そうに見える車を選んで
会社で渡されたカードで支払いをすます
地図で見て、一番、大きくて、わかりやすい道路
イギリス植民地時代からある道路なのだろうか
それを地図で探して走る
車検制度が無いのかと思えるようなボロボロの車で
とんでもなくスリルとサスペンスを求める運転を
している車が同じ道を走っている。
なるべく、そういう危険な車の近くは
走らないように注意深く運転をする。
村の金で一台だけ買った軽トラックなのだろうか
それに村人全員で乗り込んで移動してます
ってな感じの車が視界に入る
荷台に人間がギッシリ搭載されている
日本だったら道路交通法違反で捕まるようなマネだ
だが、そんな車の利用の仕方が、この国では当たり前なのだろう
そういう村トラックが多く走っている。
しばらく走ると、そういう車が事故を起こしていた
数十人分の血まみれバラバラ死体が道路に転がっていたのを
道路わきへと、とりあえず寄せましたって感じの
スプラッタな光景が広がっている
警察らしき人が現場検証をしているので
しばし、ノロノロ運転をせざるを得ない
通りがかりのドライバーが大声で何かを言う
何をいったのかはスワヒリ語なので理解できなかったが
とにかくイカレタ事を言ったらしい
村人の生き残りが、怒りに満ちた事を叫び返していた
言葉の意味は理解できなくても
言葉に込められた怒りの感情とかは伝わるものなのだ
そういえば、このスプラッタな光景を
メガネを通して中継してしまっているが
生中継だとしたらモザイクとか、かけられないが
大丈夫なのだろうか。
たぶん、やばいと判断した瞬間
コンプライアンス上、駄目だと判断されて
一旦、中継を停止とかするのだろうか?
途中、ドライブインとかに寄ってみると
英国連邦の一部、いまだに加盟国だからなのか
並ぶメニューはイギリス料理らしくものが並ぶ
腹に入れば、なんでもいいと思い適当に注文
イギリス料理で世界的に有名な料理が無い理由を思い知らされた
なんかの魚を揚げただけのフライ
適当に焼かれた感じの硬いゴムのようなパン
なんかの野菜を適当に味つけしたスープ
栄養が普通にとれればいいって感じの雑な味付けの料理ばかり
量も少ないのでラーメンを注文してみる
唯一ある麺類、ミルク・ハニー・ヌードルだ
しばらくすると牛乳とハチミツで甘く煮たラーメンが出てきた
全ての料理を怖い物 見たさのような心境で口に入れるが
思わず一言しか言葉が出ない
「まっず なんだ これ」
画面で中継を見ている人に馬鹿うけしているのだろうか
ざっまあ みろ わははは とか笑っているんだろうか
ひょっとして競馬ならぬ競人で
誰が一番、空港に到着するかのギャンブルでも行われていて
たまたま、気まぐれに俺に賭けた人がいたとしたら
「そんな所で、メシ食ってないで急げえええ
いいから、今すぐにもで空港へと向かえ
メシなら空港に到着してからでも いいだろうがあ 急げえええ!!」
とか、画面の前で叫んでいるのだろうか?
しばらく走るとゴルフ場やラグビー競技場らしき施設が道路沿いに見え
リゾート地帯が広がってくる
道路標識に書かれた地名を元に地図で確認してみるが
まだまだ空港への道のりは遠い
そのリゾート地帯の中にあるドライブインでも休憩
いる人間が今までのドライブインと違う
南半球にある北半球の先進国とは季節が逆な国
そこへ避寒地として別荘を所有し冬に暖かさを求めて遊びに来る
先祖代々、保守支配階級な富裕層らしき人々
そういった人々が視界に入ってくる。
と外を見てみると、停められた高級車の中で
御主人様が戻ってくるのを運転手が待っている
執事と運転手つきの紳士淑女の皆様にとっては当たり前なのだろうが
そういう人種を見るのが始めてだったので珍しかった
このメガネ越しに同じ風景を見ている人とかも
同じような事を感じているのだろうか?
ドライブインを出て、しばらく車を走らせると
事前に調べたネットとかに書かれていた
”スクワッター”と呼ばれる人々がいる地域が見えてきた
同じアフリカ大陸の、経済が崩壊した国とか
内戦が延々と続いている国とかから
亡命してきた不法移民や難民や不法居住者を
この国では、そう呼んでいるらしい
なるべく車を停めたくないような地域だが
信号や給油で仕方なく車を停めていると
寄ってきて凄いナマリの英語で言う
最初聴こえたのは「ギベ メ シガ」という言葉
タバコをくれ と言っているらしい
同じように何かをくれくれとキリが無い
前に停まっていた車が冷たくあしらったら
キレたスクワッターが暴れて大変な事になっていた
”失うモノが何も無い人間は、何をするか、わからない”
そんな感じの格言通りの光景を眼にしたので
しょうがなく一箱、日本円で千円とかで買った高いタバコを
1・2本、渡して追い払う
警官とかが都合よく信号ごとにいて見張っているワケじゃない
ジワジワとした恐怖心と不安感に囚われていく
その恐怖心は夕方になって夜になって暗くなると増幅されていく
どこかに宿泊するとしても、どこに安全な宿があるのか、わからない
だが、疲れてきたので試しに宿らしき施設に入ってみる
どこにでもいるヨソ者が嫌いな保守的な人間がフロントにいて
この国で一番高いのは安全なのを思い知らせるようなセリフを言う
用心深く、”客の差別化”というか値踏みをしているらしく
色々と面倒な交渉が必要だった
”人を見たら泥棒と思え”という発想じゃないと
やっていけないからなのだろうか
ヤクの売人や武器商人じゃないだろうな?
どこかの国のマフィア組織の人間じゃないだろうな?
というような事を遠まわしに聞いてくる
そしてホテル従業員とは思えないほど対応が冷たい
日本の宿泊業 従業員が訓練されすぎているからだろうか
結構なギャップを感じ、嫌になって宿泊するのをやめた。
そして、なんとか寝ないで今晩中に
一気に空港まで到達したくて真夜中に車を走らせた。
しかし数時間後、その判断を後悔する事になった
道路といっても日本のように全てが綺麗に整備されているワケではなく
そんな所を道路だと思って走らせたら・・というような道も
地図上、道路という事になっていた。
道路を整備する地域の役所に金が無い場合、
アスファルトが、ボロボロになろうが
暴風雨で壊れようが放置されている事を想定しておらず
運悪く闇夜に、そういった壊れた道路を通り
タイヤがバーストしてしまい移動が不可能になった
スマホで、こういう場合に何を言えばいいのかを調べ
なんとかしようとレンタカー屋に連絡して
日本でいうJAFのような団体に救助してもらおうと思ったが
どうにも、こうにも、全く意思が伝わらず。諦めて電話を切る。
途方にくれていると、車の外をスクワッターの人々が
ゾンビのように歩き回っているのが視界に入る
目先の金のために何をやるか、わからない
危ない過激な人種がいて襲ってきたら、どうしようと思えてくる
とりあえず道路脇に停車してみた地域が
スクワッター・キャンプの近くだったからなようだ
何かを怒りにまかせて叫んでいる人が通りかかる
車にカギをかけて無視を決め込むが
なかなか、いなくならない。何かを喚いている。
スマホの通訳アプリで訳してみると
”穢れた不浄な邪教徒よ、我等の住む地から出て行けぇ!”
というような意味の事を、言っているようだ
このスクワッターの人々が信じているナントカ教信者の内輪で
偉い人か何かなのだろうか
しばらくして、そうだ、この内輪の教祖さまを
暴徒という事にして警察を呼ぼうと思いつき
「車が壊れ、スクワッターに襲われているので助けてくれ」
と言って保護してもらう事を目論んで
日本の110番と同じような警察通報が何番なのかを調べる
が、日本の110番が、この国では何番なのかが、わからない
調べても出てこない。当たり前、過ぎてネットで公表していないのだろうか
それに書いてあったとしてもスワヒリ語で書かれたサイトだからか
それでもスマホで、なんとか警察通報番号を調べ出し
電話して、オマワリさんに助けてもらった。
警察署で調書らしきものを書くために夜は警察で過ごす事になり
朝になると助けてくれた警官にチップを要求される
そういえば、チップ用にと渡された紙幣があった事を思い出し
数字が一番小さいのを2枚ほど渡すと
「無料サービスじゃないんだよ。税金を払って無い外国人。
足りないよ、もっと よこせ」
と言われ、言われるがままに5枚の紙幣を渡す
「スクワッター・キャンプなんて危険地帯
放置してないで、なんとかしろよ。危ないだろ」
というような文句を通訳アプリを利用して言ってみるが
「そういう事は、アンタが偉くなって政治家にでも言ってくれ」
というような言葉が返ってきた。
警察署のある所から空港までは列車が走っていたので
後は列車移動で空港到着
同じように空港を目指してきていた人の中での順位は
最下位に近い到着タイムだったようだ
報酬として貰えたのは、前職で半年に一回貰っていたボーナスと
同じくらいの金額が貰えただけだった。
「ほぼ命がけな危険地帯に行かされて、報酬これだけですか?」
と思った事を、そのまま空港で到着順位確認をしていた人に言うと
「負けたのが悪い。もっと金が欲しければ
勝てば よかろう。そうすれば報酬は高額になる。」
とだけ言われる。
中継用メガネ、スマホ、カードを返却しながら漠然と色んな事を思いつく
次は、どこに行かされるんだろう? というか、次があるのか?
こんな道中の中継つまらなかったんじゃないだろうか
嫌、退屈な同じ事の繰り返しをしている人々にとっては
金のために、こんな馬鹿げた事を、やらされている人間を
動物園の動物を見るかのように
先進国の安全地帯で見てられるのは楽しいのかもしれない。
しばらくは、このレースに出場するしかない
そう自分で自分に言い聞かせて頑張ろう、金のために。
そんな感じで最初のレースは終わり、飛行機に乗って帰国した。