永遠と滅亡 Vol.2 呪術医
不老不死な妖怪が 長い時を過ごしながら人間が永遠に価値を持ち続けると信じたモノを語る
大和時代とか飛鳥時代とか呼ばれている時代の都から遠く離れた地の群れで生きる呪術医
戦国時代末期に出会った室町幕府の元重臣
幕末に出会った元幕臣
明治時代初期に出会った長年、高僧として栄華を極めた一族の末裔
第二次大戦直後に出会った元大日本帝国軍人
何故か、その妖怪が関わるのは、無くなってしまった世界が永遠に続くと信じていたが
それが無くなってしまって、何を信じれば良いのかが、わからなくなって彷徨う人だった
・・・・
日本に仏教が伝来した西暦550年頃より少し前なほどの
はるか彼方の昔、ある地方に呪術医がいた
そこは誰が集落の中で偉くなるかという事から
病になった人間を、どうするかまで
集落に発生した全ての事が
呪術によって決められているような原始的な集落だった
その中で、たまたま、健康状態を診るのと
どう健康を維持するために、どうするのが最善かを
選択するのが上手だった者が
誰かが病気になったり怪我をしたりしたら
面倒を診る事になっていき
呪術医と呼ばれるようになっていた
その男の前に、長い時を生きるモノが現れ語りかけた
「面白い真似をしておるの?」
『何がじゃ?』
「いや、先ほど来ていた病に罹った者へと語っていた言葉よ
”この集落にとって必要な人間となれ
この集落にいる己以外の人間が
必要と想うようになれば病は治り長寿となり
この集落にいる己以外の人間が
必要無い存在になると病により短命となる
どんな人間が必要なのかを考え
自分が必要とされる人間となるのだ
さすれば、悪しき気が去り健やかとなるものぞ”
であったかの?
そんな事で病が治るのであれば呪術医は
いらぬのではないか?」
『なんじゃ? どこのヨソモノじゃ
ここには、ここの理というモノがある
少なくとも、家は集落の一部、人は家の一部
さすれば、同じ家、同じ集落の人間に
”こんなのは、いなくなっても困らない”
と思われるような人間は早死にしやすいし
”なるべくなら、長く生きて欲しい”
と願われる人間は長生きをする
不思議に想うかもしれんが
実際、そうなんじゃから、そういうものなんじゃ
同じ家で一緒に日常を過ごす同じ一族と言えどな
悪意を抱えた人間は病を招くような真似をする
その悪意を取り去る助けをしたのじゃ』
「いいやー、悪意とかいう
心に抱えし物事のせいでは無いのではないかの?
ヨソモノを寄せ付けずに人が運ぶ病を避けても
獣が運ぶ病、虫が運ぶ病は集落に入って来よう
それくらいは知っておるのじゃろ?」
『当たり前じゃ、虫や獣が大量発生すると
集落に病が発生するからの
それに大きな集落にいたヨソモノが来た時も
今までになかった病が発生した
だから、ヨソモノは数日、ワシが診てから
集落に入れるのが集落の決まりとなっておる
じゃから、今、よそ者のオヌシが
害悪となる存在か否かを判断するために会っておるのだしの』
「そうであったの
不用心な集落だと人の出入りを確かめぬ集落もあるゆえの
ここは用心深いといえば用心深いのだな」
『当たり前じゃろう
今は食べ物に困っておらんが
この地で暴風雨や日照りなどで実りが少なくなり
山の獣や河の魚なども減れば
どこぞに行って、奪うなり駆け引きして手に入れるなり
してこねば、生きていけぬからの
食べ物に困らぬほどに豊かな地の奪い合いは
昔から、あった事
その地の奪い合いになった時は
どちらの群れが強いか弱いかが全てを決める
強く勝った方が全てを手に入れ
弱く負けた方は全てを失う
なので近隣の集落の群れが
もし飢えて襲ってきたら、どうするか
どの程度の強さかなどを探っておくのは当たり前
強かったら、どうやって弱体化させるかを考え
あれこれと策を巡らせる
そういうものだから用心深くなるのは当たり前
用心深くなければ
昔に発生した飢饉後に発生した争いで
この集落は滅されなくなっていたであろう』
「であろうの、いくら人間として群れを集落を創るようになったとはいえ
しょせんは獣、自分が生きるために他の獣を食べるは自然なものよな」
『ここより遠く離れた地に帝とか、その取り巻きとかの
やんごとなき人々のいる地があり
そこにおる人は、獣のような生き方はせずに
天上人という空想上の生き物のような暮らしをしている
というような事を聞いた事があるが
ここらへんに生きている我等のようなものは
死なないように生きていくのが精一杯
そして群れが滅ぼされないようにするのが精一杯
食べて子供を残しているだけな獣といえば獣かもしれんの』
「いや、帝や取り巻きの人々の世界もな・・・
あれは、あれで、人外の物の怪のような
ここらへんにいる人の心の中には無いような人であるがな
たとえばの、きゃつらが、”下々の者”と呼んでおる者どもを
己の想いのままに操るのに何を使うと思う?」
『さあ? わからんな
そのような雅な、やんごとなき世界の住人では無いのでな』
「きゃつらは、人が心に抱える不安
突然に日々の日常が壊れてしまう不安
その不安から逃れるために、なんとかしたい
そういう心を利用するのが、とても上手であった
一言で言えば
”偉いワシの言う事を聞けば
その不安から逃れる事が出来るぞ”
というような事を言って己の想いのままに操っておった
人の心の不安というものを解消する方法にも
色々あるものよなという事を学べる機会になった
群れの中で、いやさ帝の取り巻きの中から
自分や、その一族が排除されないようにするために
邪魔な存在を消したいという思惑を抱えた雅な貴人とかがの
その邪魔な存在に自分達が滅ぼされるやもしれんという
不安に囚われ、その不安から逆に滅ぼしてやる
という考えになっておった
更に同じような不安を抱えた人間の
疑心暗鬼というヤツを利用してな
己の手を汚さずに己以外の者を排除する貴人も出現しておった
客観的に見たら貴人では無く鬼人よの
だがの滅ぼされる側になるより滅ぼす側に成りたい
そういう想いというものは、其方にも理解できるのではないか?」
『あ? 病による死から逃れたいが一心で
わけのわからん妄想に囚われ
何故に、そんな事を言うのだ? と思えるような絵空事を
語るようになった人なら嫌というほど見て来たからの』
「そうであろう、病で己が滅びそうになった時
己が、まだ生きていたいという執着を抱えた者ほど
己が少しでも長く生きるために
わけのわからん事を思い込んだりするものであろうな
どんな妄言があったのだ?」
『昔、誰かが語った妄言か?
長年に渡って生きて来た己が病になったのを誰かのせいにして
その誰かを生贄として捧げれば死から逃れられる
とワケのわからん事を思い込んだ老いた群れ長が語った妄言が
一番、狂った言葉であったの』
「そうじゃろう、そうじゃろう
己が滅びそうになった時、己以外の誰かを滅ぼしたくなる
不思議なものだが
今まで通り、いつも通りの日常が破壊されそうになった時
己以外の誰かの日常を破壊すれば
己の日常が壊れないのではないかと思い込む者は多い
何故かは、わからんが、それも不安というものからであろう
やはり、滅ぼす側として生きる事が
同じ一族の者に滅ぼす側に成るように仕込む事は
生きていく上で必要な事なのであろうなあ
そうは思わぬか?」
『さあの、子供の内の誰かにでも言うかもしれんな。いつか
子供の内の誰かが滅ぼす側に成りたいとか
思うようになったらの話だが』
「そうか・・・」
『ん? なんじゃ、その面白い悪戯を思いついた
糞我鬼のような顔は』
「いや、気のせいであろう。クククク」




