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かっこいい悪役を探して  作者: 中山恵一
49/51

永遠と滅亡 Vol. 1 即身仏志願僧

不老不死な妖怪が長い時を過ごしながら

関わり合った人間の群れに色んな事を

永遠に価値を持つと思い込ませて暇つぶしをしていた


関わる人間は時代によって様々

江戸時代が終わり明治となった頃に出会ったのは

即身仏となる事を選んだ僧侶だった


・・・・


ある寺で長年、住職を務めて来た僧侶が即身仏になる事を決め


少しずつ断食に近い食習慣にし、実際に入営する前には水と塩だけで

死なない程度に体を弱らせた僧侶が


念仏を唱え続けるための空気穴として竹筒を地上に出した土の下で

生きている証として念仏を唱えていた。



そんな僧侶の元に

或る夜、竹筒を通して何者かが語り掛けて来た


「御坊様? まだ生きているのかね?」


『ああ、まだ生きておるぞ。どなたさまかの?』



「ワシか、ワシは不死のモノじゃ

 人間の御前等が群れを創るようになって

 言葉を話すようになったばかりの頃から

 この世を彷徨っておる


 名前は時代や場所によって色んな呼ばれ方をした


 飢餓に苦しみ、生きるために餓鬼となった人々が

 増えた時代の一地域にいた頃は悪鬼


 平和で穏やかな時代の裕福な人々が住む

 地域にいた頃は氏神


 じゃったかの?


 まあ、やっていた事は

 その土地に住む偉い村長とかの苦しみや悩みを聞いて

 その苦しみから逃れるためや、村全体の繁栄や維持のために

 何を、どうするかが最善であるかを

 一緒に考えてやっていただけなのだがの」



『拙僧は、もうじき、現世からは消える身

 まだ生きていく村長の相談にでも、のってやればよかろう』



「そういうな、ところで何故に即身仏となる事を選んだ?

 江戸幕府に代わって出来上がった明治政府とやらは

 即身仏となる事を禁じたとか、禁じようとしているとか

 言うではないか?」



『拙僧の一族は平安の世に僧侶となり

 鎌倉、室町、江戸の世を通じて

 この地を納める上様に使えて来た


 しかし栄枯盛衰は世の理

 永年に渡って使えてきた上様一族は

 江戸から東京となった地へと赴く事となり

 最早、この地は見捨てられた地


 墓があるから墓参りに来る人はいても

 新しく人が、やってくる事は無い


 ある意味、よそ者が嫌いだった

 上様の意向が叶ったとも言えるかもしれん


 もはや、拙僧の存在自体が

 誰もいない穴倉で念仏を唱えながら

 己の肉体が滅ぶのを待つだけの、この身と同じ

 一族が滅ぶ事が無いようにしたいという

 願いを叶えるために

 即身仏となって永遠に、この地域に存在したいのだ

 我が名と存在を語り継がれたい


 できれば、肉体は滅んでも

 魂は、この地に永遠に残りたい』



「ほう? 魂は永遠に、この地に残りたい?

 それは本当に其方の願いか?

 誰かに作られ思い込まされた願いでは無く?


 語り継がれたいとな? 己の存在を?

 それは我欲というものなのではないか?


 己の欲望を捨て、他者への思いやり

 可哀想な弱者への憐れみの情を持ち


 悟りを開く宗派なのでは無かったのか?」



『いや、欲からではない


 それより、もし永遠に近い時を生きる不死のモノ

 というなら、同じような光景を見て来たのであろう


 拙僧のように時代の変化とともに現世から消えた人々には

 どんな人がおったのじゃ?


 死にゆく者への冥途の土産として聞かせてくれんかの?』



「そうじゃな、貴族とか朝廷とかが権力争いをしていた平安の世


 侍が権力者となって幕府を創るようになって

 その時代の幕府が衰え、滅ぼされ

 次世代の新しい権力者が幕府を起こす事が

 何度か繰り返されてから数えて800年ほど


 言葉として人の世に語り継がれているのは

 そこらへんの過去千年ほどの時代についてであったの


 貴族、武家、権力者一族として栄華を極めていた一族で


 時代の変化があった時に、前時代の象徴的な伝説的存在として

 時代とともに滅ぶ事で後世に名を残したいという願望を抱える


 御坊様のような人は結構おった


 どんな一族の、どんな滅ぶ方をした人について聴きたい?」




『ふと思ったのだが


 我等の祖先、いや宗派が伝承されるより前

 隆盛を誇っていた原始呪術か原始宗教があったのであろう?


 そやつらの最期の一人は? どのような最後であったのか?』



「ん? 決まっておろう


 どんな神も仏も信者が誰もいなくなったら

 その存在は人々の心から消える


 死ぬまで原始呪術や原始宗教だけを信じていたが

 誰も同じ神や仏を信じなくなっていった者どもは


 同じ信者の親が死に、兄弟も子供が他の神仏に縋り

 煙が消えるように死に、この世を去って消えていった


 そして信じていた神仏は

 誰にも語り継がれない存在として忘れさられる


 そんなもんじゃろ。」




『しかし最期の一人として心に残っている人も

 おったのではないか?


 その人間が最後の存在であった事に

 価値があったとして語られる


 そんな存在・・・』



「ああ、平家物語や豊臣一族物語のような

 滅びの美学というヤツか?


 あやつらのような滅ぼされた一族として

 滅んだ事で知られた人々・・・か?


 どうじゃったかのう?」




『ちなみに今は誰も知らぬ原始呪術を信ずる一族の

 最後の一人が息絶える寸前に唱えた

 最後の呪いで印象に残るものなどは?

 なかったのですかな』



「おー、そういえば、あった、あった


 自分の一族というか同じ原始呪術を信ずる一族を

 弾圧して滅ぼした一族を呪って死んでいった呪術師の


 忌の際の最後の呪い・・・


 まあ、滅ぼされる側となった敗者が

 滅ぼす側の強い勝者を呪う言葉などというものは

 時代に関係無く同じようなものであったがの


 なんじゃ? そんな言葉を聴きたいのか?

 そんなに面白い言葉は無かったぞ


 自分が最後の一人とは思わず

 子供や孫が自分の一族が後世へと伝えてくれるはずだ


 と信じたままに、この世を去った者達は

 自分と同じように同じ事を信じて欲しいと

 願って現世を去っていったし


 自分が最後の一人となったのを自覚した者は・・


 そうだな、御坊様? もし実は即身仏となった後

 同じ寺で後を継いで住職となった子息や

 面倒を見て来た後輩僧侶が

 実は改宗していて誰も、ここへは来ずに

 貴殿は、この地にで誰にも知られず

 葬られただけだとしたら? 何を想う?」



『邪教徒となった者どもを呪って死んでいきますな

 これも運命と悟れるかと言ったら無理でしょうな』



「そうであろう?

 自分の願いを無下にされ無念の内に現世を去ったものは

 その無念の原因になった存在を呪って死んでいく


 皆、そうであったの


 滅ぼした側にいる一番偉く目立つ存在が

 自分と同じように滅ぼされる側になって

 滅ぶ事を呪って逝った


 実はな、其方の祖先が一番、この地域の

 他宗派を邪教徒として弾圧する事に成功して

 滅ぼす側だった存在だったのだよ


 すなわち多くの者どもに呪われている一族と言える

 だが生きている間、それに気づかなかったであろう?」




『そう言われてみれば


 村の子供組にいて同じ年代の同じ村で過ごした

 子供と一緒に過ごした時も


 修行僧として同じ立場の小僧と一緒に

 本山で修行していた時も


 同じような邪教徒を弾圧するような光景が

 白日夢のように浮かんできて


 拙僧と同じ人でありながら

 不信心者であった者どもを


 心に浮かんだ弾圧される側の存在と

 同じ憂き目に遭うように嵌め込んでおった


 思えば、あれは祖先からの導きであったのかの


 だから、その一族から、客観的にみたら

 まだ生きれるのに断食自殺をして

 自らを滅ぼす事にした変人となったは


 因果応報とでも語りに来たのかの?』



「まあ、それもあるかもしれん

 だが其方の祖先と、ちょっとした約束をした

 という事もあっての、この地に参った


 実はな弾圧する側、滅ぼす側となって生きる一族

 となる事を最初に勧めたのは誰あろうワシでな


 その事もあって、そんな生き方を選んだ一族の末裔が

 どんな生き方をしていくのかを

 何代にも渡って見てきた


 どうじゃ? こんな生き方を選んだ祖先に対し

 何か想う所は、あるか?」




『何か想う所?


 弾圧される側、滅ぼされる側になりたくない一心で

 弾圧する側、滅ぼす側になろうとするのは

 人間の本能、生存欲求というものなのであろう

 御先祖様が、その生き方を選んだ事に想う所は無い


 それが無くなる事は明治の世になっても

 消える事は無いのだと想う

 我が子孫も同じような生き方をするのであろう


 しかし、いつか誰かが、時代の空気を変え

 この地の感覚をも変え、滅亡遊戯をしなくてすむ

 素晴らしい生き方をするようになって欲しいと想う』



「ふむ、そうか、では百年後


 西暦とやらで言えば1970年頃か


 それと150年後、2020年頃


 その頃に生きた其方の子孫にでも聞いてみよう


 滅ぼす側として生きる事を選んだ祖先について

 何を想うか


 ではの、現世の魂が残り

 魂だけの存在となるか


 来世へと魂が移ろいゆき

 別の肉体を得るかは知らんが


 いつか、再び遭う事も、あるかもしれんの


 とりあえずは、さらばじゃ」


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