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かっこいい悪役を探して  作者: 中山恵一
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湖畔の幻影


日曜日の午後、国道を大都会へと向かう車とは逆方向に走る

国民宿舎を見つけ、そこに泊まってみた

荷物を部屋へと置き、ほとんど貸し切り状態な大浴場に入った後


夕方の湖見物に行こうと思いつき車に乗って出かける


何かの本に平安末期の平家だか源氏だかの亡霊が出る

と書かれていた噂のスポットに行ってみる。


最近になって見えるようになった”モノ”が

心の病気による幻影なのか本物なのか知りたくなったからでもある

車を泊めて湖畔を眺めていると、”モノ”は湖の上に現れた。


五月人形のような立派な鎧兜を着た人の形をした”モノ”


神聖な空気を纏ったような”モノ”が


見ようと想えば 人の形に見えないでもない。


深遠な黒い”モノ”や煙のような灰色の”モノ”、


薄い青色の”モノ”などが宙を漂っている。


山が夕陽に照らされて赤く染まる季節

年に何日も見る事ができない赤山

麓の針葉樹の緑と広葉樹の黄と夕焼けの赤が混ざる景色を背景に

時代劇の大名行列のように数分間に渡って現れ漂い消えていった。



国民宿舎へと戻って部屋にいると

隣の部屋から何度も襖を開けたり閉じたりする音が聞こえる

フロントへと電話して注意するように言ったが開閉音は止まらない


”客同志で解決してくれと言う意味なのかな?”


そう思い。隣の部屋のドアをノックしてみるが反応は無い。


「違う、ここじゃない、今すぐ戻りたい

 どこだ、ここは、どうせ見世物になるだけの人生だ

 今すぐ、どこかへ行って誰かに見てもらいたい

 今まで関わっていた人々なんて、どうでもいい」


何かに憑りつかれたような呟きが部屋から聞こえ

押入れを開け閉めする音と一緒に聞こえてくる。


「うるさいので、やめてもらえませんかね?」


話しかけても、一心不乱に開け閉めをしているのか

いつまでも音は鳴り止まない。


「常識で、わかりませんか? 非常識ですよねえ、夜中に!」


無視して開閉動作を続けているらしい。


紫色の”モノ”が部屋の前を

漂っているかのようにも見えたが

”モノ”は湖上で見えただけのはず単なる錯覚


文句を言って音を消すのを諦めて部屋へと戻る

物音消しにテレビを物音より少し大きな音で鳴らし寝た。



翌朝、フロントの人間に文句を言う。


「どうして注意して辞めさせてくれなかったんですか?」


「御客様の両隣には誰も宿泊されていなかったかと思いますが?

 失礼ですが寝ぼけて夢と現実がゴッチャにでもなったのでは?

 私共も一応は両隣の部屋を見ましたが静かでしたよ?」


と言い返してきた。


部屋へと戻る途中、昨夜、音が聞こえた部屋の前を見ると

湖畔で見た煙のような灰色の”モノ”が漂っていた

うっかり見てしまうと憑いてきてしまうというが

そういう事なのだろうか? それか幻影だから

しばらくすれば見えなくなる”モノ”なのだろうか?

とにかく”モノ”から遠ざかりたくなり宿を出た。


その後、昨日の夕方に見た五月人形のような

立派な平安期の鎧兜を着た霊体のような”モノ”と同じように

平安期の衣装のような服を着ている

”モノ”が見えた神社へ寄ってみた。


そこで、しばらく過ごすと

宿から纏わり憑いてきた煙のような灰色の”モノ”は

神聖な空気を纏った別の”モノ”に取り込まれ消えた。


平安末期から千年近く、土地に存在している”モノ”が

それ以降の時代に出現し地縛した”モノ”を

取り込んでいく内に


この地域にいた人々の想いが寄せ集まり

更に色んな意味で巨大化した”モノ”に成った

そういう事なのだろうか?


いや、単なる心の病気で見える幻影なのだ

心の病気が治れば観光地でもある湖の湖畔に来ても

”モノ”は見えなくて、昔は見えた幻影と思えるのだろう。


とはいえ、家に戻っても ”モノ”に憑りつかれたよう感覚は

しばらく消えなかった。 ”モノ”が離れなくなるのは嫌なので

見えた直後は二度と行かない事にしようとも思うのだが

しばらくすると、喉元過ぎて熱さ忘れ


あの時に見えた ”モノ”への畏怖というか荘厳な重厚感は

何だったのだろうか


と再び怖いもの見たさと興味本位の好奇心が湧いてきて

見に行きたくなって出かけていった。


”もし幻影では無く、知らずに寄った人へと憑りついている

 魂の集合体だったとしたら、同じように憑りつかれた人は

 どうなるのだろう?”


というような変な疑問も浮かび頭から離れなかったので

昔いた会社の知人の一人を一泊二日のゴルフに誘い

同じ湖の近くのゴルフ場付ホテルへとチェックインし

二人で湖畔へと寄ってみた。


夕闇迫る時間に同じように大名行列が現れたが

知人には一切が見えていないようだ

夕焼けや山々の紅葉やらの景色の事だけを言っている。


”やっぱり、これは単なる幻影なのか

 良かった本当に精霊や悪霊がいるワケじゃないんだ”


と思っていると、大名行列の中にあった

昨日の夜に見えたのと同じような紫色の”モノ”が

こっちへ飛んできて知人の背後に、へばりついた。


「あれ?もしかして幻影じゃないのか?

 いや、そんなはずはない。これも単なる幻影、夢まぼろしだ

 早く心の病気を治して幻影が見えなくなるようにしよう。」


数日後、その知人は消息不明になった。


 紫色の ”モノ”は放浪願望を抱える ”モノ”だったのか?

 嫌、そんな訳は無い。俺と連絡がつかなくなっただけで

 誰かとは連絡しているのだろう。


そう想い共通の知人に連絡してみる

誰も連絡先も転居先すらも知らないという事だった


数年後、国道沿いの健康ランドへと寄った

宴会場でドサ周り一座の劇が上演されていた

その出演者の中に行方不明になっていた知人がいた


漂っていた紫色の魂は

彷徨っていたドサ周り役者の”モノ”が

何かのはずみで湖上の大名行列に取り込まれていたのだろう


彼の背中に纏わりつく紫色の”モノ”は

あの時のボンヤリした濁った紫では無く

深遠な光を発するようなクッキリした鮮やかな紫となり

輝くように漂い続けていいるように見えた。


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