表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かっこいい悪役を探して  作者: 中山恵一
36/51

アニ女 Vol.2 情熱


姉が有名大企業の東京本社勤務エリートと結婚した



親が姉や姉の周囲にいる人間を長年観察していて

抱えていた目論見は


 高校卒業後、ガキっぽい幻想を抱えて東京に行って

 しょうもない馬鹿な男と関わって懲りて地元に戻ってきた所で

 家業に必要そうな男と見合いをさせて婿入りさせて

 経営している同族会社の取締役にさせられるだろう


というようなものだったので


 大企業本社勤務エリートの嫁になって


 大都市郊外の住宅街に住む高所得者生活を手に入れたから


 昔いた地方都市生活に戻るなんて嫌だ


と言われたのは想定外だったようだ。



結納時などでの顔合わせでアレコレと語り合った結果

結婚式費用などの金は全部

素晴らしい家柄な姉の旦那一族が負担する事になった


だが、御相手一族の


”結婚後の生活や子育てなどは

 全て我が家のシキタリで行うので口出し無用”


という態度に内心は反発を抱えた親は

あの手この手で電話で姉と交渉している


 東京は大都会なんだから地方都市出身の貴方にはツライでしょ?

 もし子供が出来たら、こっちで産んだ方がいいんじゃない?


 旦那さんの本社での仕事って激務で

 妊娠、出産、夜泣きする子供の子育てとかを

 手伝ってもらったり協力してもらうのは無理だろうから

 子供が出来たら、手がかからなくなるまで

 こっちでもいいんじゃないの?


 学校は、そちらの一族が通う定番な小中高、大学一貫校な

 名門私立学校があるから、その学校に入学するとしても

 それまでの子育てはコッチでどうかしらねえ


 実際には出張やらで家にいない時間が長くて

 その間、義理の御父様やお母様の相手をするの大変でしょう?


アレコレと言って完全に我が家から逃げないよう言いくるめようとしている。



この地方都市の子供が同じ小中学校に通う学校区のPTAづきあい

その延長での町内会づきあい、地域密着型の同業者団体所属員づきあい

その世界から完全に逃がしたくないようだ


地方都市での人づきあいを一緒にしてくれると想っていた姉に

完全に逃げられてしまうのは嫌だったのだろう




だが、姉は結婚相手と協力して全てを突っぱねたため

しわ寄せがコチラに降ってきた



地元の県立高校に入学した自分に親が言ってくる



「御前は東京になんか行かない方が、いいからな


 東京ってのは人が大勢いて小さな頃から

 色んな価値観の人がいる前提で過ごす人が多い

 相手の常識とか礼儀とかを読むのが上手なのが当たり前


 御前の場合、常識が無い礼儀知らずな無礼者なんだからな


 この田舎の内輪じゃ、こいつは、こういう奴だって

 慣れているから、いいけれども

 ああいう大都会に行ったら大変な事になるからな


 ネットのSNSとかである

 不特定多数の人間の悪意が爆発して

 罵詈雑言が自分に向かって大量に投げかけられるのが

 あるだろ? あれが御前の日常で発生する


 御前の性格で御前の態度じゃ、そうなる

 今から性格が変わるワケじゃないし

 悪い態度を変えられるワケじゃない

 無理して変えても無理があるだろうしな


 お姉ちゃんみたいに東京本社勤務エリートを

 東京で見つけるんだとか思い込んで

 御前なんかが東京に行っても

 東京の若いモンが集まる所とかじゃ女は外見が全て

 御前みたいな田舎者丸出しな外見じゃ無理だ


 地元にいれば、ワシらが所属している同業者団体の

 家を継がない次男坊や三男坊を婿にして

 普通に結婚生活を送れるようにしてあげられるから


 地元の短大や専門学校に進学するにしろ就職するにしろ

 とにかく岩手県内の家から通える所にして


 ここらへんから離れない方が人生が幸せだからな」


そんなセリフを高校一年生の自分に言ってきた


よくそんな非常識な礼儀知らずとか言えるものだ


実際、そうなのかもしれないけど

しょうがないじゃない子供なんだからとか言いたくなる


小学生の時は子供扱いされたくないって感覚があったが

最近は、もう大人になるんだから

ああするべきだ、こうするべきだと言われる


はっきり言ってウザい


ようするに親の本音は・・・


御前は岩手の地域密着型の同業者団体の世界から逃がさない

そのために、この同業者団体の内輪でけで許される

態度や常識や礼儀だけを教え込んできたんだから

今更、それを直せるワケが無いし


もう外へ出ても、”なんだ この非常識な礼儀知らずな田舎者は”

と言われるだけで誰にも相手にされない


いいから親の言う事を聞いて家業を継いで一生を過ごせ


というのが本音なのだろう。



隔世遺伝なのか、この両親から生まれたとは思えないくらいに美人で

女として生きる事を楽しめる学生生活を送り

ワガママで自分勝手で自己中心的で非常識な礼儀知らずな田舎者なのに

美人だから、カワイイからで許された姉


御前は違う。同じ事をしたら、”なんだコイツは”の一言で

相手にされないからなと言い聞かせられてきた


学生時代に近寄ってきたのにしても

男兄弟ばかりの男だけで過ごしてきたから

女なのに男らしい外見な女が話しやすいから

で寄ってきたのしか、いなかった事まで持ち出す


親のワシらが関わっても無意味な男を追い払って

真面目な働き者な男と結婚させてやれるからな


と言う本音が透けて見える。



・・・・・



夏祭り前の金曜午後、小学校高学年の頃から一緒に

グループラインなどでアレコレと関わってきたのが

全員集合してカラオケ


まずは早い者勝ちで誰かが、いつものように

TVアニメ シーズン1の、オープニング・テーマを入れて歌う


シーズン1の印象的なシーンで流れた挿入歌


シーズン1のエンディング・テーマと歌われ


その挿入歌が流れたシーンについて

あーでもない、こーでもないという討論会のようなものが始まり

一旦、誰も歌わなくなる。


ちょっと、もったいないという感じもするが

こうなると誰も歌なんか聞いてないだろうから

歌っていても、いなくても同じだ


しばらくして言うだけ言ってスッキリした頃に


空気を読んでシーズン2のオープニング・テーマを入れて歌い再開


そして、シーズン2中の夏休みに上映された

”熱狂的なマニア”とも”信者”とも呼ばれるファン向けに作られて

一般的なアニメファンや、夏休みとかに一番人気なアニメ映画を見る程度な

ライトな人々には見向きもされなくて興行的には失敗した最初の劇場版 主題歌


キャラクターのイメージソングなどを入れながら


「なんで、この劇場版の事を言うと

 宇宙人を見るような眼で見てくる人が多いんだあああ」


などと叫んだ後、歌う。そして歌をBGMに雑談が再開


「人間の集中力というのは実際は15分しか続かず

 それ以降は訓練で雑念を抑えて

 集中しているように見える態度をとっているだけ

 だから、アニメって一話がAパート10分、Bパート10分で

 本当に集中できる限界時間な15分未満なんだって

 このアニメの監督が言ってたけど、そうなのかな」


「いや、本当に入り込むと劇場版の2時間ちょいが

 あっという間でしょ? そんな事ないんじゃないの」


「そういえばっさー、こうして主題歌とか一通り聞いてみると

 昔、CDとかが売れてた頃に会社が大きくなった

 音楽会社が、アニメDVDとかのリリースしているから


 カラオケで歌ってもらって

 二次使用料を集金したいって思惑が丸出しだよね」



「下手でも歌えるように音域が狭くて

 複雑な転調とか、高度なビブラートとか無いし

 曲の構成自体も単純だけど印象的なリフが繰り返されていて


 刺激の強い言葉は伝わるだろ式なキャッチーな歌詞って?」



「ダウンロードして片っ端から集めてるけど

 もう飽きてこない? 集めるの やめたら?


 そろそろ流行遅れってか 時代遅れでしょ?


 人気があった全盛期ってアンタが小学校3年頃だから

 もう6年前よ。高校生にもなって馬鹿みたいだと思わないの?


 とか、母ちゃんに言われちゃったよー」



「思わなーい。って言い返せばいいんじゃないの?

 ババぁには、わかんないんだろうから」



「どうせ、世代とか感覚が違うんだから、しょうがないって

 わかってないのと話しても、つっまんないからーぁ」



「そうそう、でも一応、ウチらが学生生活をする

 スポンサーなんだから


 悪意を抱えられないように

 なんか大人が喜ぶ共通の話題は用意しないとね」



というような会話の後、劇場版でシリーズ最高興行収入だった作品の

誰もが知っている有名な曲を、一番、歌のうまいのが歌う


と同時に、この激情版の公開後に増えた、にわかファンについて語りだす


「これしか見てないって人が多いよねー」


「だって、なんていうか、コレが一番エモいシーン多いからね」


「激しい情けって書いて激情版って最初に書いたのって誰だったっけ?」


「そういやあ、誰だろうね。」


「確かにねー、誰だったっけ?」


「熱苦しく語るキャラが、やけに出てくるねって事で誰かが言ったんだっけ?」


「そうだよ・・ね。実際には、いねーよ。ってくらいに熱いキャラが

 一番、人気だったものねー、激情版は」


そして最後に放映され始めたばかりの

新作シリーズのオープニング・テーマを全員で大合唱して解散。



・・・・



そして高校一年の秋、小学校高学年の頃から一緒にグループラインで

アニメの事を語っていた友人の中で一番、男にモテて告られて女が

今まで誰も言った事の無い言葉を言いだした


 このラインから抜けていいかな


何? 彼氏でも出来たの?


 そう、でね。高校生にもなってアニオタは痛いよね

 って言われちゃって、嫌われたくないし・・


そう、じゃあ、しょうがないよね

まあ、友達なのは変わらないんだから

何か、あったらメールしてね


 そうだね。うん。じゃ


長いつきあいと言っても

共通の話題はアニメに関する自分の想いを語るばかりで

恋愛話とかに関する話題については語ってこなかった


なので、どういうテクニック? とかを覚えたかとか

の会話ができる人々と会話ができるグループライン

の方に入りたくなったらしい



・・・



そして、一人減り二人減り、高校三年生になる頃には

最初に、このグループラインをやろうと言いだした娘までが


 就職してからの一年目とか、大学進学してからの一年目とか

 人生が決まるほどの事があると思うんだよね

 現実逃避に近いアニメ話なんか話している場合じゃないよね


アニメは現実逃避と言いだした。

誰かに言われて受け入れてしまったものは仕方無いので諦めた


そしてグループラインの人数は二人だけになり

もう、どちらが、やめようと言い出すかだけになった


人間が二人以上いれば、内輪の暗黙のようなものは成立してしまうワケで


 いつか、誰かが戻ってくるかもしれないから続けようね


というような暗黙の了解が出来上がった



・・・



大学一年の秋、大学祭で最後まで残ったのと再会した

同じ公立大学に入学していたのは知っていたが

学部が違うし、サークルも違っていたので交流は無かったが


グループラインについて話がしたいと連絡があり再会した。



「グループライン、誰かが戻ってくるかもしれないからと

 閉鎖せずに残しているけど


 誰も戻ってくる気配無いし、どうする? 削除して消す?


 一番最初に抜けた高校卒業と同時に子供ができて結婚して

 もうじきママになるってのに偶然、こないだ会ったんだ


 そしたらね


 ”あんな黒歴史を 今更 言わないでよー

  いやー、あんな馬鹿みたいなもののために

  時間とか金の無駄遣いしたんて 本当に馬鹿みたい

  やっぱ2次元じゃなくて実際の3次元の人間と接しないとー

  早く2次元から卒業した方がいいってば”


 とか言われちゃった。あははは・・・」



「そうだね、残骸のように残してきたけど、もう意味無いかな」



「うん 意味無いよ、実を言えば、もうね何も感じないんだ


 あれ? なんで? あんなに? どうして?


 て言葉しか出てこないくらいに、見ても もう、わからないんだ」



「そっかー じゃあ 無かった事にしよっか」


「うん、無かった事にしよ じゃあ元気でね」



と言って別れた。



その小学校高学年から大学1年までの間


7年分の言葉が詰まったグループラインを消して


保存してあった過去ログサイトも消し



そのグループラインから派生する形式で


高校文学クラブ甲子園の全国大会で

最優秀優秀賞とかを受賞する人とかが数年に一度出て


優秀賞に毎年のように数人が入賞するくらいのレベルだった

文芸部に入部していた時に


二次創作で書いていた


 アニメの、あの脇役がもしも主人公だったら


 あの悪役が主人公だったら


というような稚拙な自作ライトノベルの保存倉庫も

一応、バックアップだけはとってネット上から消した


不特定多数の会った事に無い知らない人とも

同じ時間を違う場所で過ごしながらも

同じアニメについて語る事で交流していた

一緒に同じ事について考えていたヴァーチャル空間を全て消した


何かスッキリしたような。何かから解放されたような。


何かを全て無くしたような。変な感覚に陥った



それから数日、それまで何かに憑かれたかのように

頭の中に浮かんでいた物語は浮かんでこなくなった


いや、思い浮かばなくなったというか


 小学校の頃からの長いつきあいなどで

 実際に会って会話をしなくても

 相手の言いたい事が理解できていたような


 同じ時間を同じ物を見て過ごしたからで

 自然と何かを共有していたような


 言葉で表現できない感覚


その感覚のせいなのか、その感覚のオカゲなのか

心の中に湧いていた言葉が無くなった


心の中に浮かぶ物語も少なくなった


というか、浮かぶ物語が自分が主人公な

自分の経験だけが書かれた物語くらいになった



・・・



そして今は大学2年になって色んな人づきあいが増えた夏休み


今となっては、あの頃に感じた何かへの熱い想い


臭い言い方をすると、”情熱”という単語で呼ばれるもの


それが馬鹿げた戯言のようにしか思えない


 でも高校の後輩が高校文学クラブ甲子園にエントリーして

 優秀賞をとってネットに公表されている作品の

 熱く誰かに訴えかけるような情熱的な言葉や表現

 を眼にした時、初めて気づいた。


”情熱”という単語で呼ばれるものを自分が無くした事に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ